ITエンジニアの争奪戦が激しさを増している。一般従業員ですら取り合いになる中、デジタル人材の人手不足は深刻で、転職市場では給与が高騰しすぎて「既存社員とのバランスが取れなくなっている」というケースも出ている。
にもかかわらず、日本のITエンジニアの給与は「世界的に見ると決して高い方ではない」という調査結果もある。米ドルベースでは世界72か国のうち26位と低迷し、すでに中国を下回っているというが、本当にそんなに低いのだろうか。
ビッグマックが1000円のスイスと単純比較できないが
この調査結果は、総合人材サービスのヒューマンリソシアが、国際公表データを基に独自集計し、2024年1月16日に発表したものだ。
1位はスイスの10万2839ドルで、1ドル150円とすると1542万円にものぼる。2位は米国の9万2378ドル(同1385万円)、3位はイスラエルの7万6500ドル(同1147万円)と続く。
26位の日本は3万6061ドル(同540万円)で、24位の中国の3万6574ドル(同548万円)を下回った。中国といえば、かつて日本にとって低コストのオフショア(海外業務委託)先だったが、それも昔の話となっている。
ただしこの金額は、単純に比較できるものかどうか、というところもある。たとえば、ウェブサイト「GLOBAL NOTE」によると、2022年のスイスの平均年収は9万7327ドル(同1560万円)で国際的にもトップだ。つまりスイスは、どの職種も平均が高い。
背景には、ビッグマックの価格が1000円を超えるなど、物価高の影響がある。
ちなみに補足すれば、日本とは社会制度も異なり、swissinfoによると「スイスでは所得税と健康保険料は給与から天引きされない」そうだ。
また米ドルベースなので、昨今急速に進んだ円安の影響も受けている。4位のデンマークの人口は585万人、5位のパナマは435万人と少なく、1.25億人の日本と国単位で単純に比較するのはバランスがよいとはいえない。
IT子会社のエンジニア「売上利益を生む仕事にシフトすべき」
とはいえ、当のITエンジニアからは「日本のITエンジニアは地位が低すぎるし、給与が不当に低く抑えられている」と不満が漏れているのも事実だ。40代男性ITエンジニアのAさんは、ある大手メーカーのIT子会社に20年以上勤めている。
「なぜIT部門を子会社にするかというと、本体と異なる給与テーブルを採用するためなんです。つまり、日本のITエンジニアの一定数は、本体より給与を安く抑えるために作られた子会社に所属しているんです」
いまでこそ「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉が流行し、重視されているITエンジニアだが、これまでは「コストセンター」である情報システムのインフラ整備およびオペレーションや保守の要員と見られていて、固定費を抑えることが課題となっていた。
開発プロジェクトの必要性が発生しても、人材を直接雇用すると解雇が困難なので、社外のベンダーを調整弁として、高いお金を払ってITエンジニアを「人月仕事」で駐在してもらうやり方が当たり前のように行われてきたという。
Aさんは「正直言うと、ベンダーの管理窓口みたいな仕事だったら専門性もたいして要らないし、安い給料でもしょうがないと思うことがある」と明かしつつ、給与を上げるためには「IT部門が売上や利益を生むような仕事にシフトする必要がある」と指摘する。
「社外ベンダーに丸投げするのではなく、経営の意思決定の質やスピードを上げる情報基盤の企画とか、売上を伸ばすマーケティングシステムやコストを下げる生産・物流システムの企画とか、そういう仕事に主体的に関わらないと給料は増えていかないでしょうね。そのためにも、IT部門は子会社ではなく本体で持ち、グループの業務に関与すべきです。そういう会社も最近増えているみたいですけどね」