終身雇用制度の衰退や、若い世代の意識変化によって、転職が当たり前の時代になった。
人事向けサービスを展開する調査会社のアスマーク(東京都渋谷区)が2024年1月26日に発表したリポート「勤続年数と転職意向の関係調査」よると、勤続3~5年社員の約4割が「1年以内に転職したい」と願っている。
ちょうど現場に慣れて、バリバリ働いてもらいたい頃に辞められてどうする? 担当者に聞くと――。
「今の会社で転職したい」人が半数以上
アスマークの調査(2023年11月15日~21日)は、正社員として勤務する20代~50代の男女1200人(それぞれの年代で男女150人ずつ)が対象だ。
まず、今までに転職を考えたことや、転職した経験があるかを聞くと、転職経験者は約6割の58.2%に達した。転職した経験が一度もないし、今後も考えていないという人は18.2%だった【図表1】。
今の会社での転職の意向を聞くと、「転職したい」と考えている人は半数以上の51.7%に達した。とりわけ、「すぐにでも転職したい」(8.8%)と「1年以内には転職したい」(11.6%)を合わせて、「1年以内の転職」を考えている人が2割近く(20.4%)いることがわかった【図表2】。
こうした転職意向のある人を、勤続年数別に比較したグラフが【図表3】だ。
とくに、「すぐにでも転職したい」と「1年以内には転職したい」を合わせた「1年以内転職組」に着目すると、「勤続3年~5年未満」が突出して多く、約4割(37.2%)もいることがわかる。次いで多いのが、「1年~3年未満」(28.0%)、「5年~10年未満」(21.6%)だ。
勤続3年から5年というと、現場での仕事に慣れてきた時期。企業にとっては、これからバリバリ働いてほしいと期待が高まる頃だが......。
いかに優秀な人材に「選ばれる企業」になっていくか
J‐CASTニュースBiz編集部は、アスマークの調査担当者に話を聞いた。
――正社員のこれまでの転職経験者が約58%、また、今いる会社での転職を考えている人が約52%(半数以上)という数字をどう評価しますか。かつて、定年まで勤めるのが当たり前だった時代に比べると、かなり多い印象を受けますが。
調査担当者 他社の調査でもほぼ同じ数値が出ているものを見たことがありますので、特におかしな値ではないと思います。米国などでは90%以上は転職経験ありと聞くので、世界的に見ると、これでも高くはないほうかと思います。
たしかに企業から見ると大変なことだと思います。そのため、いかに優秀な人材に選ばれる企業になっていくかが問われる時代になっているという印象です。
――正社員の約2割が「すぐに」あるいは「1年以内に」出ていきたいと考えています。これは企業のために、あるいは日本経済のために、「人材の流動性が高まる」ということで歓迎すべきことなのでしょうか。あるいは、その企業に問題があると考えられる事態でしょうか。
調査担当者 今の環境が嫌で辞めるというネガティブな理由だけでなく、自身のスキルアップのためや、結婚や出産、介護といったライフステージに合わせて働き方を変えたいなど、転職目的も多様化しています。
昔ほど転職へのハードルが高くないので、自分のキャリアをかなえる手段の1つとして、転職という選択肢が一般的になっているのではと感じます。
――「1年以内に転職したい」という人が、「入社3~5年未満」の約4割もいる事態をどう考えたらよいのでしょうか。自身のキャリアアップのためでしょうか。それとも、3~5年もいると、会社の将来性の有無や、会社での自分の出世も見えてくるということでしょうか。
調査担当者 両方あるかと思います。3年も経てば会社全体のことも大体わかり、仕事にも(良くも悪くも)慣れる頃です。それを踏まえて今後のキャリアを考えたときに、今の会社のままではかなえられないと思えば、転職という選択肢も出てくるのかと思います。
転職前に、今の会社に条件交渉をするのも手だ
――企業側にすると、これからバリバリ働いてもらおうと思っている人に転職されるのは痛手のはず。企業は、具体的にどういった対応が求められるでしょうか。
調査担当者 弊社で人事異動とモチベーションの関係を調べた調査があるですが、部署異動によってモチベーションが上がった人が、下がった人より2倍半も多かったという結果が出ています。ですから、社内異動は転職を防ぐ1つの手かと思います。
また、弊社の従業員満足度調査では、自分の仕事が社会に貢献しているという実感を得られるかどうかや、企業の組織内で自分がキャリアを積み重ねていく道筋(キャリアパス)が見えるかどうかなどが、転職意向に大きく影響するという結果が出ています。
企業側としては、単純に給料などの条件面を改善するだけでなく、社員にやりがいを与えたり、会社に居続けた際のキャリアパスを明確に示したりすることができるはずです。
――転職したいという人には、何かアドバイスがありますか。
調査担当者 日本では今の会社に対して条件交渉をする人は稀なように思います。ところが、もし「ここだけ改善されれば、今の会社でもいい」と思っているのであれば、転職活動と並行して、異動や給与、働き方などを今の会社に交渉してみるという選択肢もあることを、ぜひ、知っておいてほしいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)