働くママたちはいかにお疲れか! いま一番ほしい時間は、なんと「休息と睡眠」だというのだ。
働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年1月30日に発表した「2024年に優先したい時間ランキング調査」で明らかになった。
ママたちをお疲れから解放して、生き生きと働いてもらうにはどうしたらよいか、専門家に聞いた。
「本当は正社員に憧れているが、体力気力がない」
しゅふJOB総研の調査(2023年11月15日~22日)は就労志向のある主婦497人が対象。まず、2023年を振り返って、優先した時間を聞くと(複数回答可)、1位が「家事・育児・介護の時間」(49.5%)、2位が「家族とのコミュニケーション時間」(38.8%)、3位が「仕事時間」(35.4%)となった【図表1】。
一方、2024年に優先したいと願う時間を聞くと(複数回答可)、1位が「休憩・睡眠時間」(47.3%)、2位が「家族とのコミュニケーション時間」(43.3%)、3位が「仕事時間」(38.6%)となった【図表2】。
さらに、選択の項目ごとに「2024年に優先したいと願う時間」の比率から、「2023年に優先した時間」の比率を引いた値を、「2024年に優先したい時間『願望ギャップ』ランキング」としてトップ5位を表わしたのが【図表3】だ。
つまり、本当は優先したいと願っているのに、かなわなかった「理想と現実のギャップ」の大きさだ。
これを見ると、1位「趣味の時間」、2位「休息・睡眠時間」、3位「資格取得などの勉強間」、4位「美容・健康に費やす時間」、5位「人づきあいの時間」と、働くママたちの切ない願いが迫ってくる。
フリーコメントには、疲れ切って本当にしたいことができないでいる、働くママたちの思いがあふれている。
「子どもをもつ女性は、やることが多すぎて時間がない」(40代:パート/アルバイト)
「家事や育児と仕事のバランスは常に難しく、もっと働きたい気持ちはあるが、子どもとの時間が減ってしまう事への不安も大きい。また、朝の学校の見送りと夕飯は、せめて一緒に過ごしたいと思うと、働く場所や時間にはまだまだ制限があるなと感じます。やりたい仕事を優先するか、家の事を最優先にできる範囲で仕事をするべきか、悩みはつきないです」(30代:パート/アルバイト)
「8時間労働で拘束されたあげく、家のこと、子どものこと、PTAや自治会のことなど、色々あって耐えられないから正社員は辞めました。私は私の時間が欲しいから、パートタイマーでコツコツ働くことにした。本当は正社員に憧れているが、体力気力がない」(30代:パート/アルバイト)
「両立が大変で、睡眠が取れない」(50代:今は働いていない)
「もっと中抜けとか、いろいろ子持ち主婦に優しい時間制度にしてほしい」(40代:今は働いていない)
「まだまだ家のことは女性の仕事となっている間は、仕事と家庭の両立は難しい」(60代:パート/アルバイト)
「家庭環境に影響されてしまいがち。趣味と仕事が両立できるのが理想」(50代:今は働いていない)
「Oh!モーレツ」「24時間戦えますか」に戻った?
J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――働くママの「2024年に優先させたい時間」1位が「休息・睡眠時間」でした。フリーコメントでも、「両立が大変で睡眠がとれない」という悲痛な声が聞かれます。「睡眠時間」は健康に直結する大問題です。
まるで、数十年前のCM「Oh!モーレツ」や「24時間戦えますか」の時代に戻ったかのような印象を受けますが、なぜ「女性活躍社会」が叫ばれながら、こんな事態になっているのでしょうか。
川上敬太郎さん 就労志向のママたちの多くは、仕事と家庭の両立ができる勤務条件の仕事に就いています。そのため、必ずしも「24時間戦えますか」の時代のモーレツサラリーマン的働き方をしているわけではないと思います。しかしながら、そもそも仕事と家庭の両立自体がとても大変なことです。
そこにコロナ禍が発生し、外出が制限されたり感染の危険にさらされたりと、さまざまな制約を受ける期間が3年も続きました。いわゆるコロナ疲れは、仕事と家庭の両立による負担感をさらに大きくした可能性があると思います。なかには、夫が在宅勤務で家にいる機会が増え、食事の支度や掃除などかえって家事が増えたという人もいます。
さらに、現在は世の中が元通りの方向へと動き始めました。3年続いたコロナモードからの揺り返しに適応しようとするなかで、いっそう疲弊感を感じやすくなっているのかもしれません。
仕事と家庭の二刀流を、なぜ女性にだけ求める?
――願望ギャップの1位が「趣味の時間」、2位が「睡眠時間」、3位が「資格などの勉強時間」という結果も切ないですね。フリーコメントに「趣味の時間」や「資格などの勉強時間」に関するコメントがまったくないことも気になります。
川上敬太郎さん できれば時間を確保したいと思っても、日々忙しく時間に追われていると、よほど必要性にかられない限り、「趣味の時間」や「資格などの勉強時間」は、後回しになりがちです。しかし、もし時間にゆとりができればそこに費やしたいと思う人が多いのが、趣味や勉強の時間なのではないでしょうか。
一方、「休息・睡眠時間」は切実です。フリーコメントには「趣味の時間」や「資格などの勉強時間」は少ないものの、「休息・睡眠時間」に関係しそうな、大変さや忙しさに関するコメントが多く見られます。
体が疲れ切ってしまうと、何もできなくなるだけでなく、病気やケガなどにもつながりやすくなります。それでも日々の忙しさの中で後回しになってしまいがちだと思いますが、「休息・睡眠時間」については、その必要性の高さから、「趣味の時間」や「資格などの勉強時間」に比べれば、ある程度優先的に時間を確保できている人はいるようです。
実際、2023年に優先してきた時間の比率を見ると、「趣味の時間」18.7%、「資格などの勉強時間」9.7%に対し、「休息・睡眠時間」は32.8%もあります。ただ、それでも疲れを癒すのに十分というにはほど遠く、2024年に優先したい時間の1位に「休息・睡眠時間」がランクインしたということかもしれません。
――なるほど。それは少し救いですね。しかし、「願望のギャップ」の結果をみると、「家事・育児・介護の時間」に上記の1~3位が奪われている印象を受けます。「お疲れママ」にラクにさせてあげるには、どうしたらいいですか。結局、正社員をやめるしかないのでしょうか。
川上敬太郎さん もちろん個人差はあると思いますが、全体的な傾向としてはおっしゃる通り、「家事・育児・介護の時間」に「趣味の時間」「休息・睡眠時間」「資格などの勉強時間」などが奪われてしまっている可能性があると思います。
さらに、仕事と家庭を両立させるとなれば、負担感はより大きくなります。フリーコメントには、家のことや子どものことなどがあって正社員を辞め、パートに切り替えたといった声が寄せられました。
ただ、パートに切り替えたとしても、仕事と家庭の両立はやはり大変です。それでも中には、家事も育児もこなしながら正社員としてバリバリ働いているような人もいます。
それはそれでスゴいことですが、それは超人的な二刀流ができるその人が特別スゴいということにほかなりません。そんな、大谷翔平選手のようにハイパーでスペシャルな人を標準にすえてしまうのは無理があります。
それなのに、職場や家庭ではともすると、そんな特別な存在と同じようにできないのは「甘えだ」などと見なしてしまう嫌いがあります。おかしなことです。
夫は家事・育児・介護の時間を分かち合え
――たしかに、大谷翔平選手と比べられたら、たまりませんね。女性にだけ「二刀流を目指せ」という主張も無理難題を押しつけるものです。
川上敬太郎さん 仕事と家庭を両立させようとパートタイムの仕事に就いたとしても、「家事・育児・介護の時間」が負担であることには変わりありません。また、仕事と家庭の両立に悩んでいるのはほとんどが女性です。
しかし、男性育休取得が促進される時代になり、多くの夫たちは今まで以上に積極的に家事や育児など家周りの仕事に取り組むようになってきました。
今後その傾向がさらに進むにつれ、女性にばかりのしかかっていた「家事・育児・介護の時間」の負担は、男性との間で分かち合えるようになっていくことが期待されます。
とはいえ、いまはまだ時代が移り変わる過渡期です。残念ながら、いますぐ劇的に女性の「家事・育児・介護の時間」の負担が軽減されるとはならないかもしれません。いまこの瞬間も「お疲れママ」たちは疲れを溜めていってしまっています。
疲れは、知らないうちにジワジワと心身に負担をかけます。ぜひ無理をせず、意識して休息をとり、お体を労わっていただきたいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)