3時間の面談で不満が大爆発! 猛反発だった3人の「ベテラン年上部下」がそれでも心強い味方になった理由

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   会社の中で実際に起きた困ったエピソード、感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業代表の前川孝雄さんが上司としてどうふるまうべきか――「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   前川さんは今回のエピソードを踏まえ、相手の話をよく聴く「傾聴」の大切さをあらためて指摘したうえで、「ベテラン年上部下の持ち味を認め、尊重し、頼りにする関係が築ければ、心強い味方にもなってくれる」といいます――。

  • 「ベテラン年上部下」といい関係を築くには?
    「ベテラン年上部下」といい関係を築くには?
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ウェブサイトのリニューアルを期待され、着任した上司

   大手専門商社で、広報部の課長に異動で就任したAさん。

   担当することになったのは、顧客や取引先に向けたオウンドメディアであるウェブサイトのリニューアル。低迷気味の訪問数を増やし、自社への好感度を高めて購買行動も促進するため、コンテンツ内容や態勢の刷新を目指しました。

   Aさんは着任早々、現在のウェブサイトをくまなく読み込みました。

   すると...。業界専門用語解説や、技術関連のニュースや動向に関する記事が大半。こうした情報であれば、巷の専門書籍や専門サイトにあふれていることに気づきます。

   したがって、それらと差別化した独自情報を掲載し、ファンを増やす工夫がいる事態でした。

   たとえば、想定読者の仕事の魅力にフォーカスしたり、最前線の人たちの顔が見えるエピソードを取り上げたり。あるいは、取引が楽しくなる内容や、自社製品のユニークな活用法などのコンテンツを増やしてはどうか、と。

   Aさんは、魅力あるオウンドメディアへの軌道修正が必要と感じました。

   また、仕事の進め方にも気になる点が。

   これまではコンテンツ1つひとつの担当者と課長が議論の時間をかけ、じっくり制作していました。丁寧なのは良いものの、制作スピードや更新頻度があまりにも遅く、コンテンツ数もわずかにとどまってしまいます。

   なにより各コーナーを束ねるリーダーと担当者にもっと裁量権を与えないと、人も育たない。

   そこで、基本方針は課長の自分も入り議論し、しっかり定めるが、その後は各リーダーに任せるプロセスに変えようと考えました。

◆影響力の強い最古参のベテランは納得いかず...?

   Aさんは、課内会議でこうした改革方針をメンバーに伝え、意見交換しながら、新しいやり方で仕事を進めようと話しました。

   ところが、大半のメンバーが賛意を示してくれたなかで、課内でも影響力の強い最古参のベテラン数人が、納得がいかない様子。いわゆる年上部下で、年下上司にあたるAさんにとって難しい存在です。

   いざ会議体の運営変更や、仕事の進め方を変えようとすると、なにかと理由をつけて動いてくれません。これまでのやり方の方が良いアウトプットになるという一点張りで、各リーダーも手を焼いている様子。

   そこでAさんは、別途彼らとは面談の場を設け、今後の方針について話し合おうと考えました。上司として、後ろ向きな態度も強く指摘しなければならないと覚悟も決めました。

   数日後の午後の会議室を押さえ、3人のベテランメンバーに声をかけました。

   これまでのわだかまりもあるため、この面談には一定時間がかかると想定し、その後のスケジュールは一切入れず、半日腰を据えてじっくり対話しようと臨んだのです。

丁寧に説明し、納得してもらうはずの面談が...

   面談当日、会議室に入ると...すでに3人が腕組みをして、固い表情で座っています。ただならぬ雰囲気を感じたものの、とにかく話し合いを始めようとAさんが口火を切ろうとした瞬間...。

   古参メンバーのうちリーダー格の1人の発言を皮切りに、猛然と不満と批判が降り注いできたのです。

   Aさんが口を挟む隙間すら与えてくれません。3人は始めから怒っていましたが、発言を重ねるにつれて、さらにボルテージが上がり、罵倒の嵐は激しくなるばかりです。

「あなたは、これまで長年かけて今の仕事の進め方になってきた経緯を理解していない」
「読者が求めている内容を全く理解していない」
「増産体制でスケジュールもタイトなのでコンテンツのクォリティが保てない」
「新たな仕事の進め方も、現場に関心がないから自分の関りを減らすのだろう」
「あなたは、課長として全くの不適格だ」

などなど。ようは「今までのやり方が一番いい」と言っているだけなのですが...。

   Aさんは何も言えず、ただただ彼らに圧されて不満を聞き続けるだけに...。もっとも、Aさんは途中から、「不満は一度出しきらないと自分の主張も聞き入れてもらえない、この場は聞くことに徹するしかない」と腹を括ったのです。

◆「言いたいことを一通り言わせてもらったので...」

   かれこれ3時間も経ったころ。

   彼らが不満や批判をひとしきり述べ切り、もはや同じ話を繰り返すしかなくなったあたりから、不思議なことに潮目が変わりました。

   リーダー格の彼がこう言いました。

「今日は言いたいことを一通り言わせてもらったので、少しスッキリしましたよ。しかし、冷静に考えてみれば、上司のあなたも社長じゃなし。中間管理職として会社の方針との板挟みもあろうし、立場上たいへんなんだろうね...」

   今までひたすら罵倒し続けていた彼が、今度は打って変わって上司を慰め始めたのです。彼の意外な言葉が発端で、あとの2人も態度を軟化させてきました。

「客観的に見れば、このウェブサイトが低迷しているのはわかっているんだ」
「なんとか変えなけばとは思うものの、なかなか打開策もなくて...」
「ウェブマーケティング手法が進化しているけど、どう導入すべきかもわからなかったし...」
「まぁ、私たちも組織人だし、やるべきことはやるよ」

   そう反省し始めたのです。

   8割がたは罵倒され続け、最後2割ほどの時間は同情され慰められるという、おかしな面談...。Aさんはほぼ相槌しか打つことができなかったにも関わらず、意図通りの結末になったのです。

猛反発していたシニア社員が、頼もしい片腕部下に!

   そして翌週明けのこと。

   その年には会社の周年記念事業があり、オウンドメディア内でもなにか仕掛けを打つ必要がありました。Aさんは部署内でどのように担当や体制を決めるか、悩んでいるところでした。

   これまで登場してもらった関係者へのインタビュー企画や、お祝いコメントを集めるなど、かなりパワーがいる仕事。ただでさえリニューアルで忙しいメンバーの誰に頼むか、悩ましいところでした。

   すると、先週面談したリーダー格のベテラン部下が、おもむろにAさんのデスクのところにやってきて、言いました。

「あの周年企画、どうするつもりです?」

   Aさんは「いや、どう進めようかと、ちょうど悩んでいたところなんですよ」と打ち明けました。

   すると「その担当、私がやってもいいですよ」と言うのです。

「えっ! あなたがやってくれるのですか?!」

   Aさんが驚いて聞き返すと、「きっと、この部署で昔からのことをわかってるのは自分なんで。これまでの関係者の方々とのつながりもありますから。一番適任だと思いますよ」と言うではありませんか!

   猛反発し、散々罵声を浴びせていた彼が...です。Aさんは狐につままれた気持ちでしたが、協力的な態度への変貌が嬉しく、喜んで担当を頼むことにしました。

◆「もっと彼らの気持ちに耳を傾けることが必要だった」

   Aさんは気づきました。

「実は低迷している組織を改革する必然はみなわかっていたんだ。自分はリニューアルを急ぐあまり、方針を一方的に押し付け、現場で頑張ってきたベテランのみなさんのプライドを傷つけてしまっていた。課全体の場で意見を聞いたものの、十分ではなかった。もっと彼らの気持ちに耳を傾けることが必要だったわけで、あの面談が意図せずその場になったんだ」

   この出来事を皮切りに、Aさんとベテラン部下たちは親しくなり、時々一緒に飲みにも行くほどに。周年事業の進行はもとより、その後も何かとAさんをサポートしてくれるようになりました。

   彼らの豊富な経験や知見のおかげで、リニューアルも大成功。1年でユーザーが10倍に増えたのです。

傾聴と承認が、信頼関係の基礎に

   このエピソードが教えてくれるのは、次の点です。

   第1に、なんといっても傾聴することの大切さです。

   Aさんは部下たちとの対話を軽視したわけではありません。しかし、ベテラン部下たちの気持ちに耳を傾けることが十分ではなかった。その不満が、面談の場で爆発したわけです。

   その結果、本人たちが言いたいことを言い尽くし、「わかってもらえた」感、「受け入れてもらえた」感を持つことができ、氷解が起こったわけです。

   昨今は、1on1面談で上司が部下の話を傾聴することが奨励されます。しかし、上司が相当に意識しない限り、部下が本音を語ることは至難です。本エピソードでは、結果として「雨降って地固まる」結果でした。

   第2に、経験値のあるベテラン部下ほど、自分自身の中に、仕事のポリシーやこだわりを持っているということ。それだけに、彼らにとっては自らそれを活かし、前向きに動こうと思えることが大切です。

   したがって、上司が一方的に方針や答えを示すのではなく、部下自身に考えてもらい、自ら決めさせること。それが、本人のやる気と活躍を引き出すのです。

   第3に、年上のシニア部下とのコミュニケーションのあり方です。

   年上部下とは、ややもすると反目し合うか、腫れ物のように触らず敬遠するか、持て余す上司が少なくありません。

   部下の側は、年下上司に自分の経験やプライドを無視されたと感じると、傷つき、頑なになり、敵がい心すら抱きがちです。年上ゆえの遠慮から、上司を含め若い世代の邪魔になるまいと、殻に閉じこもるケースもあり得ます。

   年下上司がシニア部下の気持ちを受け止めつつ、本人の持ち味を認め、尊重し、頼りにする関係が築ければ、心強い味方にもなってくれる。本エピソードはその好例でしょう。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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