上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?
会社の中で実際に起きた困ったエピソード、感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業代表の前川孝雄さんが上司としてどうふるまうべきか――「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。
前川さんは今回のエピソードを踏まえ、相手の話をよく聴く「傾聴」の大切さをあらためて指摘したうえで、「ベテラン年上部下の持ち味を認め、尊重し、頼りにする関係が築ければ、心強い味方にもなってくれる」といいます――。
ウェブサイトのリニューアルを期待され、着任した上司
大手専門商社で、広報部の課長に異動で就任したAさん。
担当することになったのは、顧客や取引先に向けたオウンドメディアであるウェブサイトのリニューアル。低迷気味の訪問数を増やし、自社への好感度を高めて購買行動も促進するため、コンテンツ内容や態勢の刷新を目指しました。
Aさんは着任早々、現在のウェブサイトをくまなく読み込みました。
すると...。業界専門用語解説や、技術関連のニュースや動向に関する記事が大半。こうした情報であれば、巷の専門書籍や専門サイトにあふれていることに気づきます。
したがって、それらと差別化した独自情報を掲載し、ファンを増やす工夫がいる事態でした。
たとえば、想定読者の仕事の魅力にフォーカスしたり、最前線の人たちの顔が見えるエピソードを取り上げたり。あるいは、取引が楽しくなる内容や、自社製品のユニークな活用法などのコンテンツを増やしてはどうか、と。
Aさんは、魅力あるオウンドメディアへの軌道修正が必要と感じました。
また、仕事の進め方にも気になる点が。
これまではコンテンツ1つひとつの担当者と課長が議論の時間をかけ、じっくり制作していました。丁寧なのは良いものの、制作スピードや更新頻度があまりにも遅く、コンテンツ数もわずかにとどまってしまいます。
なにより各コーナーを束ねるリーダーと担当者にもっと裁量権を与えないと、人も育たない。
そこで、基本方針は課長の自分も入り議論し、しっかり定めるが、その後は各リーダーに任せるプロセスに変えようと考えました。
◆影響力の強い最古参のベテランは納得いかず...?
Aさんは、課内会議でこうした改革方針をメンバーに伝え、意見交換しながら、新しいやり方で仕事を進めようと話しました。
ところが、大半のメンバーが賛意を示してくれたなかで、課内でも影響力の強い最古参のベテラン数人が、納得がいかない様子。いわゆる年上部下で、年下上司にあたるAさんにとって難しい存在です。
いざ会議体の運営変更や、仕事の進め方を変えようとすると、なにかと理由をつけて動いてくれません。これまでのやり方の方が良いアウトプットになるという一点張りで、各リーダーも手を焼いている様子。
そこでAさんは、別途彼らとは面談の場を設け、今後の方針について話し合おうと考えました。上司として、後ろ向きな態度も強く指摘しなければならないと覚悟も決めました。
数日後の午後の会議室を押さえ、3人のベテランメンバーに声をかけました。
これまでのわだかまりもあるため、この面談には一定時間がかかると想定し、その後のスケジュールは一切入れず、半日腰を据えてじっくり対話しようと臨んだのです。