メディアミックスにおける原作者と脚本家の関係をめぐる議論がSNS上で深まる中、脚本家の野木亜紀子さんが2024年2月2日にXで、業界の「慣例」や自身の体験を明かした。
野木さんはこれまで、人気ドラマ「アンナチュラル」や「逃げるは恥だが役に立つ」、「MIU404」(いずれもTBS系)などの脚本を手がけている。
「脚本家が好むと好まざるとに関わらず」
議論の発端となったのは、日本シナリオ作家協会が1月29日に「原作者と脚本家はどう共存できるのか編」としてYouTubeでライブ配信した動画だ。ドラマ「セクシー田中さん」(23年10~12月放送、日本テレビ系)の原作者で漫画家・芦原妃名子さんの訃報を受け、脚本家らが、原作者と会うか否かなど意見を交換した。動画は2月2日までに削除されている。
野木さんは2日の投稿で、「脚本家が好むと好まざるとに関わらず『会えない』が現実で、慣例だと言われています」と明かすと、「良くいえば『脚本家(あるいは原作者)を守っている』のであり、悪くいえば『コントロール下に置かれている』ことになります」と説明した。
ただ、「慣例といっても、原作サイドから『事前に脚本家と会いたい』という要望があれば、プロデューサーも断れるはずがなく、そんな希望すら聞いてくれないのであれば作品を任せないほうがいいし、それを断る脚本家もいない」ともいう。「というか、会いたくないなんて断った時点で脚本家チェンジでしょう。原作がある作品において、脚本家の立場なんてその程度です」と伝えた。
「プロデューサーが話す『原作サイドがこう言ってた』が全て」
野木さんは、「今回のドラマがどうだったかはわかりません。作品によって異なります」「あくまで一般論(この12年で私が見知った範囲内)の話です」と前置きしつつ、脚本の制作過程に言及。「脚本家からしたら、プロデューサーが話す『原作サイドがこう言ってた』が全て」になるという。
野木さんは過去の経験を、「話がどうにも通じなくて『原作の先生は、正確にはどう言ってたんですか?』と詰め寄ったり、しまいには『私が直接会いに行って話していいですか!?』と言って、止められたことがあります。(後に解決に至りましたが)」と明かしている。
一方で、「プロデューサーも、先生(編注:原作者)の意見を直接聞いているかというとそうでもない」と野木さん。原作者のスケジュールなどの都合もあり、「大抵は、出版社の担当者やライツを通した、伝言の伝言になります」。
「もしそこで誤解や齟齬が生じても、プロデューサーとライツ・担当者が話し合って双方に還元すれば、解決したりもします」とした上で、「先生からのご指摘や感想のお手紙(メールなど)が脚本家に直接開示される状態のほうが、誤解や齟齬が少ないし、安心だなと思えます。原作の先生がどう思ったかは、脚本家としてめちゃくちゃ気になることなので」と自身の見解を示した。
続けて、野木さんは、過去に関わった制作チームについて「プロデューサーも私も監督も、原作の先生が喜んでくださったり、褒めてくださったりするだけで、大喜びしていました。ご意見にも一喜一憂していました」と振り返り、「それでも、ドラマ・映画制作は集団作業なので、少しのかけ違いや様々な要因でうまくいかないこともたくさんあります。これは原作もの/オリジナルに関わらず、難しいなと常々思わされている点です」と締めた。
原作がある作品の脚本を手がける脚本家が、事前に原作者に会う/会わないの話ですが。脚本家が好むと好まざるとに関わらず「会えない」が現実で、慣例だと言われています。私も脚本家になってからそれを知って驚きました。…
— 野木亜紀子 (@nog_ak) February 2, 2024