東京メトロが2024年度中に株式を上場する計画であると、複数のメディアが2024年1月26日に報じた。J-CASTニュースBiz編集部の取材に対し、同社広報部は「コメントは差し控えたい」と回答した。
同社の株式は現在、国と東京都で100%を保有。報道によると、株式売却のために東京都が関連経費約35億円を2024年度予算に計上しているほか、50%を売却して東日本大震災の復興に充てるという。
株主になれば「優待が手厚い」
東京メトロが上場した場合、利用者が気になるのはやはり利便性が向上するか、といった点だろう。どのようなメリット・デメリットをもたらすのか。
鉄道に詳しいライターの小林拓矢氏は、「一般利用者にとっては、メリットはありません。運賃が安くなるということもないでしょう」と答えた。一方で、「株主になればメリットは大きいものがあります」と、具体的にこう続けた。
「配当金もさることながら、優待が手厚いのです。私鉄では一般に、優待乗車券や(保有株式が多い場合)全線乗車パス、鉄道会社関連施設の招待券や割引券、カレンダーの配布などがあります。東京メトロは人気の高い鉄道会社なので、東京メトロのファンにとっては株式が購入できれば、こういったメリットが想定できます」
一方、デメリットは「都営地下鉄と東京メトロの一体感がかえって減ってしまう可能性」を指摘する。
東京の地下鉄事情として、主に23区で営業する東京メトロの競合他社として都営地下鉄の存在がある。これらを乗り継ぐ際、現在、乗車券を一括で買った場合は両社の運賃の合計額から70円が値引きされる。
「乗り継ぎで運賃が安くなるようになっていたところがどうなるかが心配です。70円引きですが、縮小という可能性を懸念しています。東京メトロと都営地下鉄の協力関係の象徴のようなもので、これはなくなってほしくない。また、東京メトロと都営地下鉄の共通一日乗車券も、なくならないことを望みます」
「一元化は困難になったのでは」
両社をめぐってはこれまで、たびたび合併が期待されてきた。2010年6月に開かれた東京メトロの株主総会では、東京都の猪瀬直樹副知事(当時)が、同じ駅内でもいったん改札を出る必要があるといった利便性の低さの解消を目的として両社の合併を訴えた。その後もメディアは、利用者の声を拾う形で合併の可能性を占う記事を配信してきた。上場によって合併は近づくのか。
東京メトロの財務状況は、2022年度決算において約277億円の黒字。一方、都営地下鉄は同年度において約17億円の赤字であり、財務状況が盤石とは言い難い。小林氏はこれらの状況から、「東京メトロ側が赤字を嫌って合流したがらないと考えます。都営地下鉄との一元化は困難になったのではないでしょうか」と語った。
(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)