「七転び八起き」という言葉があるが、倒産しても復活を果たす社長サンは少なくない。そうしたパワーあふれる経営者たちは、どんな人物なのか。
東京商工リサーチが2024年1月29日に発表した「『過去の倒産から再起した社長』動向調査」によると、倒産を経験した「再起企業」のほうが、経験していない「一般企業」より業績がいいという。
逆境から立ち直った社長サンの強さを、調査担当者に聞いた。
再起を果たした社長、40~50代の若手が中心
東京商工リサーチの調査は、企業データベースから経営者が倒産後に別の会社を設立したケースを抽出、その中から再起を果たした経営者732人を追跡した。現在、経営する企業の設立日が倒産発生日より3年以上前の場合は「一般企業」に集計した。
732人の倒産時の年齢をみると、最多は「40歳代」の235人(32.1%)、次いで「50歳代」の146人(19.9%)、「30歳代」の106人(14.5%)と続き、若い世代の社長が多いのが特徴だ【図表1】。
東京商工リサーチの「全国社長の年齢調査」では、2023年末の社長の平均年齢は63.8歳だから、年齢が若いほど再起しやすいことがわかる。「若いうちはやり直しが利く」ということだろう。
興味深いのは、倒産を経験したことがない「一般企業」より、倒産から復活した経営者が経営する「再起企業」のほうが、業績がよいことだ。
「再起企業」と「一般企業」の2020年と2023年の売上高比較では、再起企業は「10%増~50%増未満」(25.0%)が最大で、増収企業が多かった。一方、一般企業は「10%減~50%減未満」(27.1%)が最大で、減収企業が多かった。売上高伸長率では再起企業のほうに勢いがあり、軍配が上がった【図表2】。
また、売上高をみても、再起企業のほうが一般企業を上回っている。「再起企業」の売上高別構成比は、「5億円以上」が半数(50.9%)を占めた。一方、一般企業は「5億円未満」が7割超(構成比76.5%)を占め、再起企業のほうが売上規模の大きい企業が多い傾向がはっきり出ている。
多大なストレスに耐える、タフな精神の持ち主
このように倒産から見事に立ち直った経営者には、どんなパワーがあるのだろうか。J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ情報部の平島由貴さんに話を聞いた。
――なぜ、再起企業のほうが一般企業より業績が上なのでしょうか。一度会社を倒産させたはずなのに、経営者が優れているということですか。
平島由貴さん いくつか理由が考えられます。まず、倒産から復活を果たしたため、会社自体がずっと倒産しないで続いている企業より若い企業が多いことが特徴です。経営者自身も倒産時の年齢のボリュームゾーンが40代~50代と、一般企業の平均(60代)よりはるかに若々しいことが大きいです。
経営者もバイタリティーあふれる人だけが生き残ることができました。倒産後の債権者集会などで、債権者たちと向き合い、しっかり説明責任を果たしてきた人たちです。多大なストレスにも耐えられるタフな精神の持ち主なのでしょう。
――若い企業だから、ゼロからのスタートダッシュが利くということですか。
平島さん それもありますが、必ずしもゼロからのスタートではありません。再起企業の多くは、まったくの異業種を始めるケースは少なく、かつての経験が生かせる同じ業種が多いです。前の失敗体験を生かし、マイナスをプラスに変える強みがあります。それが、一般企業より高い増収率につながっていると思います。
経営責任から逃げず、取引先・従業員の信頼勝ち取る
――ところで、負債額が小さい倒産ほど再起が難しく、負債額が大きいほど再起して事業を成功させる経営者が多いという、不思議な結果が出ていますね。普通に考えると、巨額な負債を抱えたほうが、復活を果たすのは難しいと思いますが。
平島さん 負債額が小さい倒産、つまり中小企業が倒産すると、復活が難しいのは、金融機関から融資を受ける際、経営者保証を求められるケースが多いからです。つまり、経営者個人が会社の借金の連帯保証人になり、債務を負うため倒産と同時に自己破産してしまうのです。
当社の2021年の調査でも、経営破綻した経営者の68%が自己破産をしています。いかに、破綻した中小企業を再建することが難しいか、ここに表れています。
――しかし、再起した企業のほうが、倒産を経験しない企業より黒字になる率が高く、増収傾向にあるとう調査は、多くの経営者を勇気づける結果ですね。逆境から立ち直る経営者に一番必要な資質は何でしょうか。
平島さん 倒産した際のトラブルを最小限に収めることが、一番重要です。先ほども述べましたが、自分の経営責任から逃げずに、債権者や取引先、従業員たちに対してしっかり説明責任を果たすことですね。
そうして周囲の人々に、マイナスから信頼関係を再び構築していくことがスタートです。倒産経験を生かして、起業マインドを醸成するには、経営者の意欲、実行力ももちろん大事ですが、何より、取引先や従業員たちの事業プランへの理解と支援が欠かせませんから。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)