1月1日に発生した能登半島地震では電柱の傾斜や電線の断線などによって、地震直後に最大で4万戸超の停電が発生した。北陸電力によると27日時点でも約3700戸で停電が続いている。スマートフォン(スマホ)が連絡や情報収集に欠かせないツールになっていることから、地震を機にスマホの充電に使えるポータブル電源(家庭用蓄電池)の購入を検討している人も少なくないだろう。
防災用として同製品を寄贈したり、避難所に送るなどの活動を行っているメーカーに、数日の停電に備えるための製品の選び方や使い方を聞いた。
1000人分のスマホ充電に対応する製品輸送
「(地震翌日の)1月2日に倉庫にあったポータブル電源をフル充電してトラックを手配し、石川県庁と災害ボランティア支援団体に連絡を取って3日に石川県にトラックいっぱいの製品を送りました。正確な台数は数えていませんが、1000人分のスマホが充電できる量です」
中国・深センのポータブル電源メーカー「BLUETTI(ブルーティ)」の日本法人であるブルーティパワーの顧問・川村卓正さんは地震後の動きをそう振り返った。
ポータブル電源はキャンプなどアウトドア活動でのニーズが最も高いが、災害の多い日本では防災用品としても注目されてきた。日本能率協会総合研究所のマーケティング・データ・バンクは2019年に発表したリポートで、日本国内の家庭用蓄電池市場が2017年の約800億円から2023年に1200億円に拡大すると予想した。リポートによると、東日本大震災翌年の2012年に家庭用蓄電池の導入を支援する補助金制度が導入されたことで、市場の成長が始まったという。
ブルーティパワーは2023年8月、総合商社の兼松と共同で民間企業と市民団体が連携した緊急災害対応アライアンス「SEMA」の加盟6団体に大容量ポータブル電源「EB200P」を寄贈するなど、防災支援活動を続けてきた。日ごろからの取り組みの結果、正月休暇中にもかかわらず社員や輸送を委託している協力会社がすぐに対応してくれたという。
持ち運べる小型製品が現実的
能登半島地震では同社のほかにも、ポータブル電源メーカーの多くが被災地に製品を送った。EcoFlow Technology Japan(エコフローテクノロジージャパン)は七尾市、珠洲市、金沢市をはじめとする自治体やNPO団体、現地企業にポータブル電源77台とソーラーパネル17枚を寄贈した。同社によると、避難所はもちろん、仮設防災無線のバックアップ電源や衛星ブロードバンド「Starlink」の電源として利用されているという。
エコフローは公共向けの利用を想定し、大容量の製品を中心に寄贈したそうだが、個人が災害に備えるにあたってはどんな製品が適しているのだろうか 。
ブルーティパワーの川村さんは「停電が数日続く場合、電源ニーズは徐々に変化していきます」と話す。地震直後に命を守るために最も重要なのは「情報」で、スマホなど通信デバイスの電池を維持することが必要だ。大規模災害の発生時は家族や友人の安否確認でスマホの利用頻度が増えがちで、あっという間に電池の残量が減っていく。もちろん災害では通信インフラが機能しないことも起こりうる。
「そんな時でも、テレビやラジオをつけておくことは大事です。スマホの電波が入らなくても、テレビやラジオの受信ができなくなることは滅多にありません」(川村さん)
少し時間が経ってからは、健康を維持するための電気需要が大きくなるという。特に高齢者は、夏なら熱中症を防ぐためにエアコンは無理でも扇風機、冬は足を温める電気毛布があるだけで随分違う。
これらのニーズを満たすために製品の容量は大きければ大きいほどいいわけだが、「避難することを考えると、女性が防災リュックに入れて運べる重さが現実的ではないか」と川村さん。同社の製品の中で最も小さい一つである「EB3A」(容量268Wh)は4.6キロと比較的軽量な上、スマホ充電20回、電気毛布を1.9時間利用できる。照明ライトが備わっているので、懐中電灯代わりにもなる。
高齢者や小さな子どもがいる家庭は、大容量の「AC180」(容量1152Wh)を備蓄しておくのが理想だが、16キロと重い。筆者も1人では持ち上げられなかった。
ポータブル電源メーカーは発電できるソーラーパネルも売っていることが多いが、川村さんは「晴れた日でないと発電効率が落ちます。日本海側は曇りの日も多いですし、ソーラーパネルはそれほど頼れないので、車の走行中にシガーソケットから電気を取るとか、あるいは停電していないエリアまで移動して(ポータブル電源を)充電した方がいい」と話す。
また、一般的にポータブル電源に内蔵しているバッテリーは高温と低温のどちらにも弱く、氷点下の屋外に長時間置いておくとバッテリーの劣化が進みやすい。なるだけ屋内で利用した方がいいそうだ。
【筆者プロフィール】
浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。