インバウンド激増でも飲食費は伸び悩み 訪日外国人と日本人を分ける「二重価格」導入の是非

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   訪日観光客が増えている。観光庁の2024年1月17日発表によると、2023年の年間訪日外交人旅行消費額は5兆2923億円で、「コロナ前」の2019年比でプラス9.9%に達した。訪日外国人一人当たりの旅行支出は21万2193円と、19年比ではプラス33.8%だ。

   しかし、日本は現在、円安や物価高が続き厳しい経済事情を実感している人が少なくない。加えて、特に米国では好景気が続き、日本との所得格差が開いている。相対的に日本での価格が「安く」感じられていることだろう。そこで外国人観光客向けのモノ・サービスの値段を、日本人向けより高くする「二重価格」の議論が、ちらほら出ている。

  • 日本旅行を楽しむ訪日外国人たち
    日本旅行を楽しむ訪日外国人たち
  • 費目別訪日外国人旅行消費額(出典元:観光庁)
    費目別訪日外国人旅行消費額(出典元:観光庁)
  • 日本旅行を楽しむ訪日外国人たち
  • 費目別訪日外国人旅行消費額(出典元:観光庁)

1杯3000円のラーメン

   前述の観光庁の調査結果によると、訪日外国人旅行消費額の費目別で、ホテルの値上げなどが目立った宿泊業は伸び率が高く、宿泊費は1兆4132億円(19年比5.2%増)となった。飲食費は1兆1957億円(19年比1.0%増)となっている。一方でアジア人客の「爆買い」が落ち着いている買い物代が1兆3954億円と19年比8.3%減少となった。

   飲食業は伸び率1.0%にとどまる。日本人も訪日外国人客も飲食店を訪れることを考えると、インバウンドの恩恵を受ける急な値上げは難しいのかもしれない。

   そんななか、インバウンド向けの高単価商品を開発した市町村がある。福島県喜多方市だ。日本経済新聞2024年1月15日付記事によると、1杯3000円のラーメンの販売を2月中旬スタートさせる。材料や器には漆食器やふくしま会津牛のチャーシューなど、地域の特産品をフル活用している。

   取り組みを主導した喜多方市観光交流課を取材した。「ラーメン1杯3000円というのは、海外では普通の値段です」という。その上で、「漆器を使ったり地元高級食材、麺に至るまで地元産にこだわることで高付加価値化を徹底しました。インバウンドと日本客が使用する同じメニューに載せて、観光でリピートして来る日本人の富裕層の人にも楽しんでいただきたいと思っています」と説明した。

「2月中旬から3店舗での販売予定です。素材は喜多方市内のほかのラーメン店にも提供できるシステムなので、それぞれのお店で開発する高単価・高付加価値のオリジナルメニューも後押ししていきたい」

   例えばタイでは、「外国人価格」を設定している。寺院の拝観料やレストランでの飲食費がタイ人にはタイ語で、外国人には英語で書かれ、価格を差別化する二重価格があるという。

あからさまな区別は反対だが

   観光まちづくりの専門家で、『地方創生大全』などの著書もある木下斉氏に、二重価格の是非を質問した。

「あからさまに日本人価格と外国人価格を区別することには反対です。しかし、日本人の顧客に喜ばれる価格を目指すのではなく、飲食店オーナーが十分経営を回せるように、これからの飲食や観光地においては基本的には訪日外国人客に価格の標準を合わせるべきだと思います」

   日本の抱えている問題に、人手不足と人件費の高騰がある。そんななか、「牧歌的に日本人向けのデフレ価格を守っていたら皆、つぶれてしまいます」と木下氏は指摘する。

   一方で、日本は消費者物価指数が上昇傾向で、生産年齢人口の減少によって給料が上がっていくフェーズにあるという。「バリバリ稼いで飲食・物販でお金を使って経済を正常に回していく段階がくると思っています」。

   その上で、「インバウンド価格を標準にするまでの過渡期の方法として、喜多方市のような一部に高価格の商品を位置づけるのはよい」と評価する。経営側もラーメン1杯3000円で、材料費に1500円使えるとすれば創意工夫が沸き、切磋琢磨によって飲食のクオリティーも上がっていくと、木下氏はみる。

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