観光で来た人を通じて、地域の魅力を再発見
――なるほど。それで神奈川県では葉山町(478万円)が横浜市(429万円)より年収が高く、東京都でも小笠原村(422万円)が墨田区(417万円)や北区(408万円)、荒川区(404万円)といった区部より高いのですね。
熊野さん そのとおりです。保養地にも同じことが言えます。5位の軽井沢町(487万円)や葉山町は、昔から都市の高所得者の保養地としても知られています。別荘を持ったり、移住してきたりして、地元にお金を落とします。
観光資源を開拓するためには、地元の人がアイデアを考えるより、観光で来た非居住者から意見を聞くほうが参考になるものです。「ビジネスのことは消費者に聞け」という原理ですね。
地元の人は、観光で来た人を通じて、地域の魅力を再発見できます。プロセスとして、まず観光を通じて交流人口を増やす。そこから定住人口の増加にスイッチしていく。ここには小さな町村の戦略が生まれます。
――冒頭の周防大島町では「移住」が、過疎地の年収増加のキーワードになりましたが、定住人口増加にスイッチするには、やはり「移住」しなくてはなりませんか。
熊野さん 人口が少なくても、移住や企業誘致を通じて、高所得者や競争力のある企業を呼び込むと、その町村の平均所得が大きく上がるものです。こうした移住の話をすると、オールジャパンでは人口はプラス・マイナスがゼロだ、という冷ややかな反論が出ますが、果たしてそうでしょうか。
日本中で最も人口減少が進むのは東京都です。全国の地方から、最も子育てコストが割高の東京都に若者が集まるから、全国の少子化が進んでいるのです。地方の年収が上がれば、東京一極集中が収まり、人口は増え始めるでしょう。
先日、私は元明石市長の泉房穂さんとテレビ仕事で一緒になり、明石市の子育て支援の話を聞きました。泉さんは市長時代に18歳までの医療費、第2子以降の保育費、そしておむつ代まで無料化を押し進め、人口を5%増やしたそうです。子育てのためにほかの地域から明石市に引っ越してくる。これも、移住モデルの変形でしょう。