高所得者の移住で、町民税収が7倍にアップ
こうした過疎地の「富豪町村」にはどんな魅力があるのだろうか。J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた熊野英生さんに話を聞いた。
――熊野さんは1位の山口県の周防大島町には、昔、何度も行ったことがあり、それだけに驚きだ、とリポートに書いていますね。
熊野英生さん 私は地元の山口市出身です。周防大島は瀬戸内海の潮流がぶつかる場所のため、タイがよく釣れます。それと、旧日本海軍の戦艦陸奥が沈んだ場所のため、陸奥記念館があります。地元の人でも、そのくらいの認識の島だったのです。しかし、地元の人は気がつかないが、外部からみると、とんでもなく素晴らしい場所ということはよくあるのですね。
たとえば、米ニューヨーク・タイムズ紙が今年(2024年)1月、世界の旅行先で「2024年に行くべき52か所」を発表し、日本から私の故郷の山口市が世界3位に選ばれました。「西の京都とも呼ばれ、過度な観光客に悩まされることが少ないコンパクトな都市」というのが理由だそうですが、これこそ、ずっと住んでいた私にとっては驚きでした(笑)。
同町の主要な産業はみかん栽培。しかし、近年は域外からの移住が増えて、変化が起きています。地元に移住促進に非常に熱心な人がいて、島の魅力を再発見する広報活動を盛んに行い、成果を上げたと聞きます。
――しかし、新聞報道によると、海外で事業を展開する複数の高額所得者が移住してきたため、2022年度の町民税収入が一挙に増えて、当初予算の想定の約7倍になりました。藤本浄孝(きよたか)町長は「ありがたい」と喜びながらも、戸惑っているそうです。町民税の増加を受け、政府が地方自治体に配分する地方交付税を減額する可能性があるからです。
熊野さん そのことは先日、講演に訪れた時に藤本町長から聞きました。町民税収が増えるのは「うれし、いたし」だと。そこには地方税徴収制度の難しい問題があります。地方交付税は赤字の自治体に交付するものですが、自治体が一生懸命に努力して税収が豊かになったから減らすというのでは、地方自治体が頑張る意味がなくなってしまいます。
努力して自立しようとする地方自治体が報われるような制度に、根本的に改めなくてはいけません。