「ママ友」と聞くと、どんなイメージが浮かぶだろうか。かつて「ママ友」は子育て中の母親になくてはならない存在だったが、現在、「ママ友」のいる母親はおよそ半数にとどまるという。
そんななか、改めて「ママ友」の力が再認識されている。「子育て」だけでなく仕事の面でもママ友のつながりが生かされる事例がでてきているのだ。
「ママ友パワーで、子育ても、お仕事も!」と訴える経済リポートを発表したママ研究員に話を聞いた。
ママ友いる人、20年前ほぼ全員、現在およそ半数
このリポートは、第一生命経済研究所研究員の福澤涼子さんが2022年10月14日に発表した「もうママ友は必要ないのか~現代における『子どもを介した友人』の価値を考える」という研究報告だ。
リポートでは、「ママ友」に関する母たちの意識の変化を、同研究所が行った2003年と2022年の調査結果から比較している。興味深いのは、ママ友がいない人が、約20年の間に劇的に増えていることだ。
2003年の「母親調査」では、ママ友が全くいないという人はわずか6.2%。ママ友の数も平均9.2人で、ママ友がいることが当たり前の時代だった。ところが、2022年の「パパ友・ママ友調査」では、ママ友がいない母親は45%に達した【図表1】。
2022年に「パパ友・ママ友との付き合いは、自分にとって必要か」と聞いた調査でも、ママ友がいる人の65%が「必要だ」と考えているのに対し、ママ友がいない人の87%が「必要ない」と考えている結果が出た【図表2】。「もうママ友は必要ない」とする時代がやってきたのだろうか。
福澤さんは、子どもを介した友人の必要性が薄れてきた理由として、以下の3つを挙げている。
(1)新型コロナの感染拡大で、保育園への送迎時に親同士の立ち話が禁止されるなど、親子同士が対面で交流する場が減ったこと。
(2)SNSが広がったため育児関連の情報が素早く手に入るようになった。近所のママ友に相談するより、遠くに住む子どものいる旧友に相談するケースが増えたと思われる。
(3)仕事を持つ母親が増えて、日常的に職場でコミュニケーションを持つことができるため、孤独感に悩むことが少なくなった。仕事に忙しく、そもそもママ友をつくる時間もない。
グループによる仲間外れなど、ママ友にはネガティブな印象も付きまとう。そんなマイナスのイメージも加わり、限られた時間を割いてまで「ストレスの種になるかもしれない友人をつくる必要性を感じない」ことが、母親たち本音ではないかと、福澤さんは分析する。
その一方で、福澤さんはSNSではわからない「ご近所の情報」、習いごとや遊び場、PTAのしきたり、学校行事などママ友から得るローカルな情報のもつ価値はいまだ高いと指摘する。たとえば、行事の持ち物、本日の宿題など、子どもの情報が不確かな場合、気軽に聞けるママ友がいると助かる。
何かあった時に、援助が期待できる「セーフティネット」の役割も貴重だ。実際、「急な陣痛がきたママ友の子どもを預かった」「自分が入退院したばかりの1週間、子どもの送り迎えを頼んだ」といった声も聞かれた。
こうしたことから、「友」という言葉に縛られ過ぎず、大変な子育てを共に乗り越えていく「ママ同士の互助関係」ととらえ直してはいかが、と呼びかけている。
「公園デビュー」という怖い言葉があった
福澤さんは別のリポート(注)では、「ママ同士の互助関係」を仕事にまで発展させている、ママ友パワーの新しい動きも紹介している。そこで、J‐CASTニュースBiz編集部は、福澤涼子さんに話を聞いた。
――ママ友がいない母親が、現在、半数近く(45%)もいることに驚きました。確かに、ママ友には「ママ友カースト」とか「仕切り屋ママ」とか、マイナスのイメージがありますからね。
福澤涼子さん 20年ほど前には、妊娠したら子育ての相談相手としてママ友を作るのが当たり前という考えが強かったと思います。しかし、「公園デビュー」という言葉があったくらい、メンタル面での緊張を強いられるネガティブなイメージもありました。初めて小さい子を近所の公園に連れて行ったら、固まって話しているママたちがいて、入りづらくて通り過ぎてしまったとか。
――若いママ向け女性誌では、「お子さまとの公園デビュー。ママたちとのコミュニケーションのポイント、心がまえ、絶対にNGの服装と話題」といった、見出しを読むだけで緊張しそうな企画が定番でしたね。
福澤さん ご近所のママ友には、そういう気を遣う面があると思います。私は個人的には、2018年に出産、コロナ期に子どもを保育園に預けたため、送迎時の親同士の立ち話などを禁じられたので、ママ友は1人しかできませんでした。
また現在は、学生時代の友だちで、疎遠だったのに、「出産したよ~」と連絡がきて、SNSで新たに「ママ友」として友人関係が復活するというケースもよく聞きます。
子育てママが集う場に「お仕事スペース」
――ところで、福澤さんは別のママ友関連のリポート(注)では、横浜市のある「子育てサークル」を取りあげています。そこは、ママたちの交流の場であるだけでなく、「お仕事」の場もあり、働く意欲のあるママたちの起業や就労にもつながっている、と紹介しています。
福澤さん その「子育てサークル」は、2007年に保育士の仕事をしていた母親がつくったものです。当初は子育てに不安や孤独を感じる母親たちが集う場としてスタートしました。15年以上たった現在も、「地域の子育て世代の方にデジタル回覧板を担う」として、SNSを活用して、今や3000人以上ものフォロワーがいるほど、活動が広がっています。
最近では、閉園した幼稚園を拠点にしながら親子が集うマルシェやフリーマーケット、近隣の商店会と共同で餅つき大会を開くまでになっています。
中でも興味深い取り組みは、2022年に始まったママたちが集まってお仕事をするという取り組みです。ママたちの中には、「子ども連れでもいいなら働きたい」という人もいます。一方、子どもが大きくなったママは、なかなか「子育てサークル」に出向くきっかけがありません。そんなママたちにも来てほしいと、集まってお仕事をする取り組みを始めたのです。
結果として、いろいろな世代のママ同士が集い、作業をしながら気軽に子育てについての相談ができる場になっています。
実は、行政が用意する子育て相談の場は、子育て中のママからするとハードルが高いとする声もあるので、こうした場において雑談の延長で子育ての相談ができるのは、ママたちにとってメリットが大きいと思います。
「お小遣い稼ぎになるなら」と、ママ同士の交流の場に行く大義名分にもなりますしね。
――一石二鳥のアイデアですね。「お仕事」と言っても具体的には何をするのですか。
福澤さん 私が取材に行ったときには、地元の企業から依頼された、ノベルティーグッズの制作作業を行っていました。ママたちは手先が器用で、仕上がりもよく、企業側の評価が高いと聞きました。みなさん、口も手も動かして楽しく作業をしていました。
しかも、日払いで報酬をもらえますから、自分でプチ贅沢もできます。素晴らしいのは、この子育てサークルから子ども向けのワークショップを開くママが出てきたり、別のスキルの高いママがそのワークショップの募集チラシをデザインしたり、ハンドメイド技術を持つママが、制作物を販売したりと、ママたちのスキルを生かした活躍の場にもなっているということです。
また、イベント協賛企業やお仕事の依頼をしていた企業が従業員を募集する際に、こうした子育てママサークルに声がかかり、実際に複数の採用に結びつくということも起こっています。
出生率日本一「奇跡の町」の画期的取り組み
――それはもう、単なる子育てママの集う場の域を超えていますね。
福澤さん 採用する企業側からみても、別のメリットがあります。子育てサークルのママたちとは、日ごろから活動や仕事ぶりに信頼関係ができています。一方のママ側も、子育てに理解がある企業で働くことは安心感があります。そこで、双方がマッチングして、働く意欲のあるママの就労にもつながっているのです。
――一石二鳥どころか、三鳥、四鳥もの相乗効果ですね。こうしたママが集う場から「お仕事」にまで発展する動きは、ほかにもあるのですか。
福澤さん 日本で最も赤ちゃんを生みやすい町として知られる「奇跡の町」が岡山県にあります。北東部の山間部に位置する奈義(なぎ)町(人口約5800人)です。同町の合計特殊出生率(女性が生涯に生む子どもの数、2019年)は、なんと2.95。全国平均の1.26(2022年確定値)の2.3倍です。
2023年2月には「異次元の少子化対策」を目指す岸田文雄首相が見学に来ましたし、海外メディアも取材に訪れています。今、この町で行われている取り組みが画期的なのです。
同町のウェブサイトや報道によると、もともと2007年から子育て支援施設として「なぎチャイルドホーム」が開かれていたのですが、2016年からそこに集う子育て中の母親たちを中心に、空いた時間に働ける「しごとコンビニ」制度が始まりました。
奈義町は、就労していない母親から「本当は働きたい」「空き時間を活用して、ちょっと稼ぎたい」という声が多数あったことに着目。地域の会社や事業所を調査したところ、人手不足で事業の継続が難しいという回答が8割に上ったのです。
そこで、「しごとコンビニ」が「ちょっと働きたいママたち」と「人手不足の会社」とのマッチングを始めたのです。すると、スタートから2年間で、同町の主婦や高齢者など非生産人口の1割相当が登録メンバーになったと言います。なんと今では岡山県内はもちろん、東京などの遠方からの求人案件も増えているそうです。
「しごとコンビニ」はその後、北海道東川町、鳥取県南部町、奈良県高取町でも始まり、導入を検討している自治体もいくつかあるそうです。
ママ友パワーは、みんなをハッピーにする
――とても、いい話じゃないですか。ほかにもありますか。
福澤さん 滋賀県長浜市では、子育て支援事業「長浜cheer for 子育て」を展開していますが、その参画団体にママカフェがあります。ウェブサイトや報道によると、ここは、すべてママ目線でつくった親子が集まりやすいカフェで、ランチの提供を基本に、ママ向けのキャリア相談会や起業準備講座、複数の地元企業が集まる合同説明会も開催しているようです。
――なるほど。こちらもママだけでなく、地元企業も助かる点で、いい話ですね。
福澤さん このように、ママカフェなどママたちが集う場をきっかけに、お仕事などビジネスにつながるという動きは興味深い動きです。スキルを持った母親は全国にたくさんいます。これまでは「子どもを産んだら、子育てに専念する」という母親も多かったと思いますが、こうした場を用意してあげることで、母親たちのスキルを生かすことができるのです。
――ママたちのパワーを生かしていかないともったいないですね。
福澤さん 今は働いていなくても仕事をどうしようか、社会とのつながりを作っていきたいと考えている母親はいます。子どもを生んだら、仕事と社会から分断されるのではなく、ゆるくてもいから、ちょっとお仕事ができれば、社会とつながる機会がもてます。
「バリキャリか、専業主婦か」という究極の二択ではない、「ちょっと、おしごと」の動きがママ友サークルから広がっていくことを願っています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
※(注)「『おしごと』を通じたママ同士のつながりの場~15年つづくママコミュニティの新しい親子の居場所~」(第一生命経済研究所、2023年12月26日)
リンク先:https://www.dlri.co.jp/files/ld/302086.pdf
●福澤涼子(ふくざわ・りょうこ)さんプロフィール
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員
2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。5歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。