「人手不足」と「資材高」が深刻化し、建設業の倒産の勢いが止まらない。
帝国データバンクが2024年1月10日に発表した「『建設業』倒産動向調査(2023年)」によると、リーマン・ショック時(2008年)を上回る急増ぶりだ。
建設業の衰退は、地域経済に影響を与えるばかりか、能登半島地震の救助・復旧作業で見せたように、災害大国ニッポンに欠かせない業界だ。何が建設業界に起こっているのか。調査担当者に聞いた。
リーマン・ショック時を上回る急増ぶり
帝国データバンクの調査によると、2023年に発生した建設業者の倒産件数は1671件となり、前年比プラス38.8%と急増した。増加率が30%を超えるのは2000年以降では初めてで、リーマン・ショック時(2008年、3446件で前年比プラス17.3%)にも見られなかった高い水準【図表1】。
負債総額は1856億7800万円で、前年比プラス52.5%の大幅増となった。経営破綻した大手パチンコチェーン「ガイア」のグループ会社で、同社の店舗建設を担っていた2つの建設会社(合計負債約370億円)が全体を押し上げたが、この2社を除くと、1件あたりの平均負債額は8900万円と小規模業者の倒産が中心となっている。
帝国データバンクでは、倒産急増の背景には、資材の高騰と人手不足などに伴う「建設コストの上昇」が挙げられると分析している【図表2】。施主に対しての価格交渉が難航するなど、請負単価が上がらないなかで、資材高騰の局面が続き、元請け、下請けともに収益力が低下したのが大きな要因だ。
建設業界では、残業時間の上限規制(いわゆる2024年問題)が今年(2024年)4月から適用される。人のやりくりがいっそう厳しくなることが予想され、さらなる建設コストの上昇、倒産増加も懸念される。
「人手不足」が生む、倒産の連鎖
J‐CASTニュースBiz編集部は調査を担当した帝国データバンク情報統括部の箕輪陽介さんに話を聞いた。
――能登半島地震の被災地でも、救出作業や道路の復旧、壊れた家屋の再建に建設業者の存在が欠かせません。全国各地で建設業者が減り、また、天災が起こったら大変な事態になりますね。
箕輪陽介さん それは東日本大震災、熊本地震の際にも懸念されたことです。地場に建設業者がいなくなることは、インフラ整備、地元経済への影響だけでなく、将来の災害のリスクまで考えると、非常に深刻な事態です。
日本列島に地震、台風などの災害が起こらない地域はありませんから、一定数の建設業者が地元にいることは必要不可欠です。
――リーマン・ショック時を上回るほどの勢いで建設業者の倒産が急増した一番の理由は何ですか。
箕輪さん まず、人手不足があげられます。少子化で20代~30代の若い人が入ってこないだけでなく、従業員の高齢化が大きいです。重機などを動かせるベテラン作業員がどんどん少なくなっています。
会社としては、人手が不足すると単に仕事が受注できないだけにとどまりません。受注できても職人が少ないため工期が伸びます。すると、工事完成後の施主からの支払いが後ズレするため、その間、資金繰りに困ることになります。
工事を始める前には資材購入や人員確保のために、支払いが生じます。つなぎ融資を調達しようとしても、コロナ禍の特殊事情から普段以上に借金をして、借り入れ余力がない中小企業が多いのです。せっかく受注を確保しているのに、支払い先行で手元現金がショートする「黒字倒産」も見られました。
倒産は、景気回復の兆しが見えた時に増える
――リポートには「資材高」も大きいと分析していますが、建設コストに価格転嫁できないということでしょうか。
箕輪さん 受注価格にコスト上昇分を反映できればよいのですが、施主を交渉するのが難しい状況です。最近は物価上昇に対する消費者の理解が進み、たとえばスーパーの食品が値上げしてもやむを得ないという声が多くなりました。
しかし、住宅は一生に一度の大きな買い物で、スーパーで野菜を買うのとは違います。仮に4000万円だった戸建て住宅の建設コストが、4500万円に上がったとします。500万円分を施主が負担してくれるのかという問題になります。「500万円も余計に支払うなら、今、家を買うのはあきらめる」という人も出てくるでしょう。
実際に今回の調査で、一番倒産が多い地域は北海道でした。前年比210%もの急増ぶりで、戸建てを中心とした資材価格の高騰が主な原因です。北海道では価格が上がった新築住宅が売れなくなったのです。そのため、建売住宅の在庫が滞留して、小規模建設業者の仕事がなくなり、倒産が激増しました。
――しかし、コロナ禍から立ち直り、日本経済全体に景気回復の明るい兆しが見え始めているではないですか。
箕輪さん 実は、景気回復の途中こそ倒産が増えるという原則があります。たとえば今回の調査で、北海道に次いで倒産が急増したのは九州です(前年比50.5%増)。
福岡市中心部の大型再開発プロジェクト「天神ビッグバン」や、熊本県で始まった半導体受託生産の世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)の工場進出などで、地元の建設業界が活発化しています。皮肉にもこの過熱ぶりが倒産を生んでいます。
先ほど「黒字倒産」の時に述べたことと同様に、工事前の資材購入や人手確保に伴う現金流出が先行して、資金繰りがショートするケースが多くみられました。本当に景気が回復していればよいのですが、回復途中では小規模業者は無理を重ねてしまうのです。
力の強い中堅企業が、業界全体を牽引してほしい
――4月から、建設業界の残業上限規制が厳しくなる「2024年問題」が始まります。建設業界は今後どうなるでしょうか。また、これ以上の倒産を防ぐにはどうしたらよいでしょうか。
箕輪さん 今後の資材価格の動向次第の面もありますが、倒産件数がさらに上昇する可能性があります。人手を増やすのは簡単ではなく、根本的な対策には時間がかかります。
1つ目は、元請けが建設コストの上昇に対し、価格交渉に柔軟に応じるようになることです。
2つ目は日本経済全体で賃上げが進むこと。建設労働者の賃金が上がれば人手は増えるでしょう。また、家を買う人の賃金が上がれば、多少高くなっても買ってくれるでしょう。物価上昇と賃上げの好循環を生まれることを期待します。
3つ目は、中堅で力の強い企業が建設業界全体を引っ張ってくれることです。政府も建設業界全体を救う方向ではなく、力のある中堅企業を集中的に支援する方針に傾いています。こうした企業が率先して賃上げを行なってほしいし、倒産した企業の従業員を積極的に雇用して、業界を支えていってほしいと願っています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)