「イクメン時代到来」どころか夫の家事・育児に「不満」の妻が過半数 専門家が提言「1億総しゅふ化」を!

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   男性の育休取得率が年々上昇し、「イクメン」が増えていると思いきや、妻側からみると、「家事・育児」をしない夫が増えている、という不思議な調査結果が登場した。

   働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年1月4日に発表した「【夫の家事・育児2023年】夫の家事に『満足』16.7%、『不満』55.3%」という調査だ。

   いったい、なぜ妻側の「不満」が増えているのか。また、「残念な夫」に家事・育児をさせる方法はあるのか。専門家に聞いた。

  • 家事がつらい(写真はイメージ)
    家事がつらい(写真はイメージ)
  • (図表1)夫は家事・育児に十分取り組んだと思うか(しゅふJOB総研調べ)
    (図表1)夫は家事・育児に十分取り組んだと思うか(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表2)夫の家事・育児について:直近3年間の比較(しゅふJOB総研調べ)
    (図表2)夫の家事・育児について:直近3年間の比較(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表3)夫がもっと積極的に取り組んだほうはよいと思った家事・育児(しゅふJOB総研調べ)
    (図表3)夫がもっと積極的に取り組んだほうはよいと思った家事・育児(しゅふJOB総研調べ)
  • 家事がつらい(写真はイメージ)
  • (図表1)夫は家事・育児に十分取り組んだと思うか(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表2)夫の家事・育児について:直近3年間の比較(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表3)夫がもっと積極的に取り組んだほうはよいと思った家事・育児(しゅふJOB総研調べ)

「名もなき家事」をやらない夫に激怒する妻

   しゅふJOB総研の調査(2023年11月15日~22日)は、既婚女性510人が対象だ。まず、2023年を振り返って、夫が家事・育児に十分取り組んだと思うかを聞いた。「十分に行っていて満足」(16.7%)と「少しは行っていて不満はない」(28.0%)を合わせた「不満なし」が44.7%だった。

   逆に「全く行っておらず不満」(15.5%)と「少しは行っていたが不満」(39.8%)を合わせた「不満あり」が55.3%と、過半数に達する結果となった【図表1】。

   これを直近の3年間で比較すると、驚く結果が出た。「不満なし」が2021年には49.7%だったのに、2023年には44.7%と、5ポイントも減っているのだ。逆に「不満あり」がそれだけ増えたことになる【図表2】。この3年間で男性(夫)の育休取得率がアップし、「イクメン」が増えているはずなのに、逆行する結果となったのはどういうわけか。

   続いて、「夫がもっと取り組んだほうがよい家事・育児」を聞くと(複数回答可)、トップは「名もなき家事全般」(40.0%)、次いで「掃除や片づけ」(39.8%)、「料理」(26.6%)の順となった【図表3】。

   「名もなき家事全般」とは、たとえばこんなコトだ。

・脱いだ衣類のポケットから洗濯前に中身を取り出す
・脱いだ後の洗濯物の袖を裏返す
・トイレットペーパーを交換する
・空になったティッシュ箱を捨てて交換する
・食事後の食器をキッチンに運びテーブルを拭く
・靴やスリッパを揃える
・カーテンや窓シャッターの開け閉めをする
・夏物や冬物の服を入れ替える

......など、日常のこまごまとした家事だ。こうした小さな家事の積み重ねが女性の一番の負担になっているのだが、気がつかない夫が多い。

「本当に、間違った人と結婚したと思う毎日」

   フリーコメントをみると、「家事・育児を十分行っていて満足」と回答した人からは感謝の意見が寄せられた。

「結婚したての頃から、夫に家事をするように仕向け、褒めて、家事育児が当然という認識でそれを通常運転にした。私も仕事しているのでとても助かっています。最初が肝心です」(40代:パート/アルバイト)
「いつも助かっています。主人が休みと聞くと嬉しくなります」(50代:公務員/団体職員)
「文句なし。毎日、ありがとうございます♪」(50代:パート/アルバイト)
「夫より稼ぐと、積極的に家事をするようになりました。笑」(50代:フリー/自営業)
「もともと家事スキルが高く、当たり前のようにこなしてくれるし、休みの日は子どもの相手をしてくれ、文句のつけどころがない」(30代:パート/アルバイト)
「不満はありますが、夫なりにがんばっているので、そこは評価してあげようと思います」(40代:正社員)

   一方、「家事・育児を全く行っておらず不満」と回答した人からは、厳しい意見が相次いだ。

「全く何もせずゲームばかりで呆れています。残念です」(40代:今は働いていない)
「言わなければ何もしない。頼む時も、事細かに説明したら怒るので、頼まないほうがいいのかと思ってしまう」(40代:パート/アルバイト)
「一切の家事・育児には協力がなく、本当に1人だけでずーっと頑張ってきたと思います」(50代:今は働いていない)
「自分の頭で考えずに言われたからやる。気が向いたからやる。それではだめだと思う。本人に自覚はなく、職場で指示待ちの人がいたことを愚痴っていた。『家ではあなたがそうだ』と言ったが、心には響いていない様子」(50代:契約社員)
「たまにやると『やってあげた』感を出してくるため、ストレスがたまります」(50代:パート/アルバイト)
「どんな時でもサブ、バイト感覚。優先順位は仕事、自分、子どもや家族。仕事を言い訳にして、やらないでいられることを探している感じで、本当に間違った人と結婚したと思う毎日」(30代:今は働いていない)

「覚醒した夫」と「眠れる夫」の二極化が進んで...

   J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――男性の育休取得率が上がっているのに、直近の3年間調査では、「不満あり」が増えているのは理解できません。夫の家事・育児意識が高まってきていると思ったのは勘違いだったのでしょうか。

川上敬太郎さん 夫の家事・育児意識は、年々高まってきている印象を受けています。それなのに「不満あり」が増えている理由として、夫側の意識の高まり以上に妻側の期待や負担感のほうが、速いスピードで大きくなっていることが考えられます。

これまで、仕事と家庭の両立に悩むのはいつも妻の方でした。その傾向は、女性の就業率が上昇傾向を続けている現在も変わりません。夫は夫なりに家事・育児への意識を変えようと努力していたとしても、具体的な行動に移せていないとか、行動に移したとしても妻にはあまり変わっているように見えていないのかもしれません。

――なるほど。夫婦をめぐる時代の移り変わりが速いのですね。

川上さん 一方で、男性の育休取得が推進されるなど世の中の機運を見るにつれ、妻側の夫への期待値は高まり、さらに仕事との両立が進むにつれて家事・育児の負担をより強く感じるようになることで、夫への不満が一層強まってしまっている可能性がありそうです。

ただ、中には家事・育児への意識だけでなく、既に具体的に行動を変えている夫もいます。フリーコメントには、夫の家事・育児を絶賛する妻の声がいくつも寄せられました。そんな「覚醒した夫」と、いまだ「眠れる夫」の二極化が進んでいるようにも感じます。

そうすると、「覚醒した夫」との比較で「眠れる夫」への不満はさらに大きくなってしまうかもしれません。

家事のスキル「家オペ力」は仕事でも役立つ

――調査では、夫が最も積極的に取り組んだほうがいい項目に、「名もなき家事全般」がトップに上がりました。なぜ、妻と夫側の間で「名もなき家事」をめぐってギャップが生じるのでしょうか。「兼業主夫」というご自身の経験も踏まえて教えてください。

川上さん 料理や洗濯など、名前がついている家事に対し、具体的な名称がつけられていない細々とした家事は、総じて「名もなき家事」と呼ばれています。

「名もなき家事」をめぐって夫婦間でギャップが生じるのは、多くの夫には「名もなき家事」が見えていないことが原因です。「名もなき家事」を発見するには、まずすべての家事を知り、全体像を把握する必要があります。一番手っ取り早いのは、自分ですべての家事をこなしてみることです。私は兼業主夫となってもうすぐ丸3年になりますが、1年目は「名もなき家事」の発見の連続でした。

たとえば、切れたシャンプーを詰め替えた時、その詰め替え用もなくなったので「シャンプーの詰め替えがなくなったよ」と声に出してから気づきました。それ、自分が買ってくるのだと。自分が主夫になるまでは、妻が切らさないように買ってきてくれていたのですね。つまり、「詰め替え用のシャンプーを買う」「切らさないように管理する」というのも「名もなき家事」だということです。

――川上さんは以前から「家事」に対する能力を「家(いえ)オペ力」と呼び、たとえば専業主婦が仕事に就くときでも「スキル」として役にたつと提言されています。「家オペ力」を身につけることは夫側のキャリアアップにも役立つでしょうか。もし、そうなら夫の家事を奨励するきっかけになりますね。

川上さん 家事や育児に専念している期間は、長くブランクと呼ばれてきました。しかし、家事を切り盛りし育児に携わることは、さまざまな学びの機会でもあります。それがブランク(空白)なはずがありません。私は家事や育児、介護などに携わる期間は、ブランクではなく家周りの仕事をオペレーションしている期間であり、その間に磨かれるスキルの総称を「家オペ力」(家仕事をオペレーションする力)と呼んでいます。

家オペ力は、職歴・技術・知識など客観的に評価しやすいハードスキルではありません。コミュニケーション力や企画力、マネジメント力など定性的なソフトスキルです。たとえば、家庭を代表してご近所づきあいする中で、さまざまな年代のさまざまな価値観の人たちと良い関係性を構築するコミュニケーション力が磨かれたりします。

ほかにも、毎日の食事の献立を考える企画力、一日3食を365日、年間1095食を作り続ける実行力など、さまざまなシーンで家オペ力は磨かれます。家オペ力は人の内面に備わるソフトスキルなので、夫婦を問わず磨かれますし、転職してどんな仕事に就いても生かされるものです。

――ズバリ、家事・育児を全くしない残念な夫に、家事・育児をさせるにはどうしたらよいでしょうか。

川上さん 残念ながら、家事・育児を全くしない夫に家事・育児をさせるのは、非常に難しいと思います。根本にあるのは、育ってきた環境の違いです。何十年にもわたって夫側は「家事・育児はしなくていい」と育てられ、妻側は「家事・育児をしなければならない」と育てられてきました。それを大人になってから急に意識を変えるのは大変なことです。

ただ、夫側は家事・育児をしたほうが得だと思います。家庭内の平和のためというのもありますが、仕事においても得をします。なぜなら、家オペ力が磨かれること、また、時代の流れに鑑みれば性別を問わず誰もが家事・育児に携わる家庭はこれからも増えていくと考えられるからです。

そうなると、必然的に、仕事と家庭の両立は女性だけの悩みではなく、働く人すべての悩みになっていきます。その変化は、同僚たちと一緒に仕事したり、管理職になってマネジメントに携わったりする際に少なからず影響を及ぼすはずです。

家庭と両立させながら働く仲間たちと一緒に仕事し最大の成果を出していこうとする時に、自分自身も家事・育児に携わり、仕事との両立の大変さなど、その感覚を、身をもって知っていたほうが仕事をしやすくなるのではないでしょうか。

「洗脳」された夫には、子どものように接しよう

――妻は、残念な夫にどう家事・育児をさせるよう仕向ければよいでしょうか。

川上さん 妻側は夫たちとは育ってきた環境が異なるため、大人になった時点で既に、家事・育児に対して大きな意識格差があることを認識しておく必要があります。床の上に服を脱ぎっ放しにしていても、注意するまで片づけない。あるいは、不機嫌そうな態度をとられ、注意しても片づけない。夫のそんな姿を見ると、どうしようもなく腹が立つと思います。

ただ、当の夫は「家事・育児はしなくていい」と言って育てられてきました。中には、「男が家事などするんじゃない!」と怒られて育った夫もいるはずです。「脱いだ服を片づけて」と指摘する妻は間違いなく正しいのですが、洗脳と言っていいほど染みついた過去からの教育によって、その言葉が夫の耳には届きにくくなっているのです。

そのため、もどかしいとは思いますが、ストレスを溜め過ぎない範囲で見守ったり、ちょっとしたことでも褒めたりと、子どもを育てるような気持ちで接することが夫の行動を変えさせる近道かもしれません。家事・育児で妻が夫に自分と同じ目線を要求すると、ふてくされたり逆切れしたりされることもあります。妻から見れば「ふざけるな!」と言いたくなると思いますが、幼少期から植えつけられた意識格差が少なからず邪魔をしていることだけは、頭の隅に入れておいていただければと思います。

――残念な夫の意識改革は、育児よりも手がかかりますね。

川上さん しかし、希望はあります。兼業主夫となったこの3年で、明らかにスーパーで男性を見かける比率が増えました。妻から見るとまだまだでも、夫たちは夫たちなりに頑張っているのだと感じています。ただ、多くの夫たちが根本的に間違っているのは、自分たちが家事・育児の主体者だと思っていないことです。夫婦はどちらも、家事・育児を含む家周りの仕事の主体者です。

ご家庭によって夫婦の家事・育児比率が1:9の場合もあれば、5:5の場合、8:2の場合もあるかもしれません。しかし、比率がどうであれ、家事・育児の主体者であるという意識を持てているかどうかが「名もなき家事」への気づきなど具体的な行動の差に直結します。

家周りの仕事は、家族が生活している限りなくなることはありません。そこに性別などは関係なく、家周りの仕事は家族全員が当事者であり主体者です。しかし、いまだに家周りの仕事は女性の役目と認識されているところがあります。その認識を、誰もが家周りの仕事の主体であり誰もが「しゅふ」であるという認識へと改める「一億総しゅふ化」が必要だと感じます。

しかし、いまは「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業意識の影響が至る所に残っています。成り行きに任せるのではなく、学校教育などを通じて子どものころから認識を変えていくといった能動的な取り組みも重要になってくるのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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