それは、解くべき本質的な課題なのか? 企業が「課題解決演習」に期待する理由
もうひとつの実践的なカリキュラム「課題解決演習(PBL)」では、企業・自治体が提供する、いま直面している「リアルな課題」を演習テーマとし、学生が自らその「本質的な課題」や「解決策」を追求する。
企業・自治体が学生と連携するメリットについて、有信学長は次のように説明する。
「ビジネスの多くは『課題を解決する』ことの連続だと思いますが、案外、仕事に慣れてしまうと、限られた範囲のなかで考えられる課題を設定し、その解決に力を注いだはいいものの、実は解くべき課題ではなかった。解くべき本質的な課題は別のところにあった、ということがよくあります」
だが、企業・自治体もその問題意識を持ちつつも、日々の仕事に手一杯だ。だからこそ、企業・自治体の「リアルな課題」に、学生が取り組む意義が出てくる。
「関係者のみなさんは、仕事や業界の知識を持たない学生が新鮮な目で見たら、本当に解くべき本質的な課題を見いだせるかもしれない、と期待してくださっています。思ってもいなかった着眼点から学生が課題を提起し、解決策を示す――それにうまく応える事例も増えてきました」
その好例のひとつが「ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社」との取り組みだ。これに、3年生の藤本康平さんが半年かけて挑戦した。
テーマは「ユニリーバのシャンプー等使用済空容器回収プログラムを広島県でどのように活性化させていくか」。
今回の演習は、最初の3か月は個人で「課題の特定」を進め、続く3か月で4人がチームとなって「解決策の提案」をおこなう最終プレゼンに臨むことになった。
◆回収プログラムへの参加者、どうしたら増えるか?...「課題解決演習」
藤本康平さん。「叡啓大学では授業や試験でプレゼンをする機会が多いので、自然とプレゼン力が磨かれます。社会に出た時も役立つはず」
まず藤本さんは、課題を特定するため、広島県内で回収プログラムの実施店舗を見つけ出し、足を運んで責任者に話を聞くことからスタートする。フィールドワークで情報を集め、分析し、仮説を検証し、本質的な課題に迫っていくのだ。
「もちろん1人でも課題の特定、解決策のアイデアは浮かびます。しかし、4人がチームを組んで意見をぶつけ合ううちに、複雑に絡み合った要因が整理され、解くべき課題がクリアになっていきました。
みんなと力を合わせると、自分で考え抜いた結論が変化し、より本質をとらえた課題が見えてくる――。課題解決演習のおもしろいところだと思います」
藤本さんたちは、回収箱の設置だけにとどまりがちな現状から、解くべき「課題」を「プログラム参加へのハードルの高さ」と定める。その視点から、子育て世代をターゲットに、母親や子供が喜ぶメリットに着目した「解決策」を提案した。
その名も、「ミライのデザイナープロジェクト」。子供が描いた絵で「オリジナルシャンプーボトル」をつくるワークショップを小学校で開催しよう、というものだ。
「製品を知る→使う→使い続けるきっかけになればと考えました。愛着のあるボトルであれば、詰め替えを利用したくなるし、小学校に回収箱を置くことで回収プログラムにも参加しやすくなるのでは、という意図を盛り込んでいます。
クライアントからの講評では『(解決策として)いい線をついている』『プレゼン力が高い』と評価されたことはうれしく、自信になりました」
課題解決演習(PBL)を通じて、「課題を解決する力」を養う
実は、今回の取り組みは、「ビジネス」と「パーパス(社会貢献)」の両立という、いま多くの企業が悩みを抱え、その実現が難しいテーマが下地となっている。だが、アイデア次第では、ステークホルダーも納得し、なによりもみんなが楽しめるやり方があることを藤本さんたちは証明してくれた。有信学長はこう話す。
「社会を前向きに変えるために、大事なのは好奇心です。叡啓大学では授業以外の活動でも、学生は『やりたい!』と思ったことをプロジェクト化して挑戦しています。それに教職員もサポートしています。みんなと協力することもまた、新たな価値を生むためには必要なことだと信じています」
複雑な社会課題を解決し、新しい価値を生み出す――そのための確かな知識とスキル、マインドを持つ若者が広島県で育ちつつある。