鉄道を所管するのは国土交通省だが、前原誠司衆院議員といった「鉄オタ」議員が、そのトップについたこともある。現職の斉藤鉄夫衆院議員もそうだ。
防衛相、農林水産相といったポストを歴任した自民党の石破茂元幹事長だが、国交相というポストにはどんな思いを抱いていたのか。インタビュー最終回となる第4回では、首都圏の鉄道のあり方や、もし国交相になれたら何をしたかったか、について聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)
「首都一極集中の弊害がこれだけ明らかになったときに、これ以上便利にしたいですか?」
―― 首都圏の路線事情についてもうかがいます。塾員(慶應義塾大学の卒業生。石破氏は1979年法学部法律学科卒、記者は2002年総合政策学部卒)としてもうかがいたいのですが、23年3月に東急新横浜線が開通し、湘南台(神奈川県藤沢市)-日吉(横浜市港北区)-三田(東京都港区)と3キャンパスの最寄り駅を直通する電車もお目見えしました。問題は、その先の湘南台-湘南藤沢キャンパス(SFC、神奈川県藤沢市)の延伸です。SFCに講演などで行ったことはありますか?
石破: ありますよ。
―― 湘南台から15分ぐらいバスに乗らないといけないんですよ。
石破: すごいところですね~。
―― そうなんですよ...!だからこそ昔から延伸の話があるわけですが、相鉄いずみ野線の湘南台-SFC-倉見(神奈川県寒川町)延伸計画が含まれている交通政策審議会の答申(2016年)では、2030年が「目標年次」だとされています。あと7年ですが、現実的だと思いますか。23年12月7日には、羽田空港アクセス線(仮称)のうち羽田空港島部分での工事が始まったばかりです。こちらはインバウンド需要の取り込みを見込める一方で、藤沢市や寒川町で、どの程度需要が見込めるかというと...。
石破: 難しいと思いますね。鉄道は、もう多少不便でもいいと思っています。乗り換えとか不便なところはあるけど、鉄道の一番の利点は定時性。時間通りきちっと走る、それだけちゃんとやってね、というのがあります。接続なんかも便利になった方がいいですが、これだけ土地の値段がまた上がっている中で、莫大な投資をしてまでやることか、というね。
私は別に、地方さえ良くなればいいとか、そんなことは思っていませんが、首都一極集中の弊害がこれだけ明らかになったときに、これ以上便利にしたいですか?というところはありますよね。リニアとJR北海道の話でもそうですが、これから人口が減り、経済が伸びていかない中にあって、東京一極集中どころか、首都圏一極集中を国家としてどう考えるんだということを、答えを出さなければならないときに、首都圏がどんどん便利になっていくことには、すごく違和感がありますね。
「別に鉄道だけに偏愛しているわけじゃないんですよ」
―― これまで防衛相、農水相、地方創生担当相など多数のポストを経験していますが、仮に今後入閣できる機会があれば、どんなポストに就きたいですか。世論調査の「次の首相にふさわしい人」の問いでは常に上位にランクインしますが、鉄道を所管する国交相はいかがですか。先ほどの前原氏や、現職の斉藤鉄夫国交相など、鉄オタとして上り詰めたなぁ、と勝手に思ってしまうのですが。今は公明党のポストだ、といった現実的な事情はさておき、いかがですか?
石破: (鉄道趣味は)国交相ができることじゃないからね。でも私、別に自動車が嫌いなわけじゃない。昭和40~50年代は、その辺を走っている車の車種を全部言えましたもんね。
―― 車もですか!
石破: サニーだとかカローラだとか、そんなの誰でも言えるのですが、何でしょう、車もすごく思い入れがあるし、今でも車を運転するのは大好きだし、飛行機も大好きです。別に鉄道だけに偏愛しているわけじゃないんですよ。
だけど、これからの日本にとっての交通のあり方とは何なんだろうという議論をするためには...いや、公明党さんのポジションでもあるし、今更ということもあるけれど、国交相という仕事はやってみたかったですね。農水相をやったときに(編注:08~09年にかけて農水相を務めた)、鉄道のインタビューにいくつか出たことがあるんですよ。その時は国交相をやってみたいと思っていましたね。
―― もし、天変地異でも起きて今からお鉢が回ってきたら...。
石破: 交通基本法みたいなものをもう1回ちゃんと議論してみませんか、ということだと思いますね(編注:13年に交通に関する基本理念を定めた「交通政策基本法」が施行されている)。それぞれの輸送特性とでもいうのでしょうか、飛行機なら飛行機、船なら船、自動車なら自動車、そういう特性を最大限に発揮する交通システムって何でしょうかという、もう一度「そもそも」みたいな話をしてみたいな、と思っていました。今更66歳にもなって、それでもありますまい。
石破茂さん プロフィール
いしば・しげる 衆院議員。1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)入行。1986年、全国最年少議員として衆院議員に初当選。現在12期目。自民党では幹事長、内閣では防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣などを歴任した。