「了解です」と、上司や目上の人に返答するのは失礼――。近年、「ビジネスパーソンの常識」のようにこう言われている。
インターネット上のビジネスマナー講座のサイトには、目上の人への返事の正しい言葉遣いとして「承知しました」「かしこまりました」を挙げているものが多い。ただ、この説、果たしていつから言われているのだろうか。「少なくとも、自分が働き始めた頃にはそんな話は聞いたことが無かった」と思っている人も、意外と多いのでは?
広がったのは2007年~11年あたり!?
「了解・承知論争」は、メディアではいつ頃から始まったのか。調べた結果、日本経済新聞(電子版)2009年3月28日付「NIKKEIプラス1」の記事が見つかった。見出しは「新人のその言動、気になりますか?――注意、理由の説明が必要(あなたはどっち)」。ここに、「『了解です』は『承知しました』『かしこまりました』が正しい使い方だ」という記述が確認された。
その後、2011年から「了解」と「承知」を区別すべきとする記事が増え始めていることも分かった。
J-CASTニュースBiz編集部は、「例解学習国語辞典」(小学館)などの編集委員を務める中部大学現代教育学部教授の深谷圭助氏に意見を求めた。
聞くと、「了解より承知が望ましい」という言説がいつ始まったか、特定できないと言う。一方、それが広がった時期は「2007年~11年あたりではないか」。これは、2008年に日本で『iPhone3G』が発売されたことが大きいと推測。「スマートフォン(スマホ)が、iPhoneの発売から急速に普及して、一般の人も、ビジネスマナーとしての『承知しました』を知ることになったのではないでしょうか」と深谷氏。これは、スマホの普及によって社会人がそれまでより長い時間ビジネスメールを目にするようになり、ビジネスマナーへの関心が高まったのが原因ではないかとの意味のようだ。
「後付け」で生まれた
三省堂が発行する「三省堂国語辞典」には、以下の記述があると深谷氏。
「[豆知識]目上に失礼な語と言う人がいるが、以前から『了解いたしました』など、丁重(ていちょう)表現として使われる」(「了解」を解説する説明)
「[区別]『承知しました』は丁重な表現だが、『了解(りょうかい)しました』は ふつうの丁寧表現。ただし、『了解いたしました』と言えば、じゅうぶん丁重な表現になる。『承知いたしました』は より丁重な表現」(「承知」を解説する説明)
そのうえで、
「『了解しました』は丁寧語で、これで意味は十分伝わります。『承知しました』になると、謙譲の意味を含みますから、相手を尊重しているような姿勢が伝わる言葉となります。これが今の時代に必要な言葉の使い方なのかは、議論があります」
と述べた。併せて、
「もともと、日本のビジネスマナーは、アメリカンビジネスマナーに発するものですが、英語では、このような言葉の使い方、(了解と承知の使い分け)はしないと思います。後付けで、『了解が失礼で、承知が好ましい』という言説が生まれたことは、間違いないと思います。」
との考えも示した。
(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)