東海道新幹線のグリーン車は「ワクワク感がない」 鉄オタ・石破茂氏、JR東海に思う「非日常感のなさ」

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   自民党の石破茂元幹事長の持論は「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」というもの。それだけに、長く夜行列車の運行を担った客車列車への思い入れは強く、逆に電車や新幹線、特に東海道新幹線を運行しているJR東海への評価は辛らつだ。いわく、クルーズトレイン「ななつ星in九州」を走らせるJR九州は「偉い」し「鉄道事業に対する思い入れも、ものすごく強い会社」。対するJR東海は「鉄道が持ってる非日常性みたいなものに対する思い入れが、ほとんどないよね」。

   インタビューの第3回では、新幹線や、今となっては唯一の定期夜行列車となった「サンライズ瀬戸・出雲」、その前身の「出雲」など、様々な列車について思いのたけを語ってもらった。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 自民党の石破茂元幹事長。「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」が持論だ
    自民党の石破茂元幹事長。「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」が持論だ
  • 自民党の石破茂元幹事長。「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」が持論だ

100系新幹線の個室は「本当に夢の空間」だった

石破: JR東海を見ているとよく分かるのですが、100系新幹線(定期運転からは12年に引退)には個室がついていて、あれは本当に夢の空間でした。全然採算が合わなくてやめましたけどね。今は車内販売がなくなって、グリーン車に限って何だかサービスをしようということのようですが(編注:23年11月からモバイルオーダーに移行)。みんな乗る前にお弁当を買えるほど暇じゃないんだよね。なんで車内販売なくなっちゃったんだろうね、と思ってる人、いっぱいいるんじゃないですか?何がお客のニーズなんだろう、というマインドが、最近の鉄道事業者にはやや欠けているような気がしますね。鉄道大好き人間の集まりじゃなくて、いわゆる本当の「ビジネスマン」の集まりになっちゃっているような気もします。

―― 鉄道会社の経営に占める鉄道の割合はどんどん減っています。例えばJR九州の23年3月期の連結決算では、売上高にあたる営業収益は3832億円。そのうち鉄道を含む「運輸サービス」は1383億円で、全体の36%に過ぎません。一方、不動産・ホテルは1231億円に達しています。「鉄オタ」が経営することが望ましいかは分かりませんが、経営層がどの程度鉄道に思い入れがあるのか、というのは気になりますよね。

石破:  JR九州が偉いのは、これは唐池さん(編注:唐池恒二相談役。09~14年に社長、14~22年に会長を務めた)に直接会って聞いたのですが、(クルーズトレインの)「ななつ星」は世界一の列車を作ってみよう、という発想だったんですよね。世界で一番良い車両、世界で一番美味しい食事、世界で一番すてきなサービスは何だ、ということを徹底的に追求した究極系が「ななつ星」。JR九州は確かに多角化で不動産やホテルもやっている。だけど、鉄道事業に対する思い入れも、ものすごく強い会社だと思いますね。JR東海だけがクルーズトレインを走らせないじゃないですか。

しょっちゅう乗ってるくせに悪口言っちゃいかんのだけど...

JR東海が運営するリニア・鉄道館。歴代の新幹線が展示されている
JR東海が運営するリニア・鉄道館。歴代の新幹線が展示されている

―― 新幹線でもうけている会社ですからね...!(編注:JR東海の23年3月期の連結決算では、営業収益1兆4002億円のうち運輸収入が1兆0699億円。そのうち、東海道新幹線の運輸収入が9861億円を占める)

石破: しょっちゅう乗ってるくせに悪口言っちゃいかんのだけど、例えばグリーン車でも、東北新幹線とか上越新幹線とか北陸新幹線とか九州新幹線のグリーン車って、それなりに素敵じゃないですか。だけど、新型のスプリーム(N700S)にしても、東海道新幹線のグリーン車って、ワクワク感、特別感がない。鉄道が持ってる非日常性みたいなものに対する思い入れが、東海はほとんどないよね。

―― JR西日本(山陽新幹線)では、ひかりレールスター、かつてのウエストひかりなど面白い車両が走っていて好きなのですが、大阪から東に来ると、何というか無機質というか...。たくさん走らせてるなぁ、というか...。

石破: 無機質。それが一番正しくないですか?全然、非日常感がない。ワクワク感がない。でも、それが哲学なんでしょう、JR東海の。良いとか悪いって問題じゃないよね。

「サンライズ出雲」には「もう、ほとんど乗らないですよ」

JR九州が走らせているクルーズトレイン「ななつ星in九州」
JR九州が走らせているクルーズトレイン「ななつ星in九州」

―― ご愛用の「サンライズ出雲」(東京-出雲市)は、23年7月にデビューから丸25年を迎えました。老朽化が進んでいますが、仮にリニューアルされるとすれば、どんな列車になってほしいですか。

石破: 定期的な夜行列車は、今となってはあれだけですよね。でも、今切符が取れないんですよ。

―― 「10時打ち」(切符が売り出されるタイミング=乗車日の1か月前の10時に申し込むこと)でも取れるか微妙だそうですね。

石破: A寝台はおろか、B寝台でも取れないですね。もう、ほとんど乗らないですよ。だって私たち(国会議員はスケジュールが流動的なので)、何日も前から予約できないもの。直前になって予約しようとしても、まず取れませんよね。もちろん夜行列車はそもそも儲からない代物なのですが、こんなに需要があるのにやめるというのは、選択肢としてはいかがなものかと思いますね。

「夜行列車がなくなった時から日本の凋落が始まった」というのが持論なのですが、やはり、自分のそれぞれの地方の町が東京と直結しているというのは大事なことだったと思いますね。「飛行機だってあるじゃないか」という声もあるでしょう。例えば日本最小県の鳥取県には、確かに鳥取空港がありますが、そこまで(鳥取市の中心部から)30~40分かかるわけですよ。

この「東京と地方が直結」という点に加えて、非有効時間帯。夜を使って移動する時間の使い道としては、(夜行列車で仕事をするというのは)ものすごく有効でした。

この2つの意味において、寝台特急の廃止以来日本の凋落が始まったという、これは私が唱える変な説なんですけどね。ただ、サンライズは、客車特急の「出雲」(06年廃止)ほどの愛着は、正直言ってありません。

―― 電車ですからね。

石破: そうです。大体、鳥取まで来ないしね(編注:山陰本線経由だった客車特急の時代は鳥取駅に停車していたが、サンライズは伯備線経由になり、鳥取を通らなくなった)。めちゃくちゃ遅れることが年に何回も。(サンライズは)廃止されない方がいいけど、今だって切符取れないし、というのはあります。

客車「出雲」廃止は「恋人が亡くなったみたい」

東京と出雲市を結ぶ「サンライズ出雲」。2023年7月にデビューから丸25年を迎えた
東京と出雲市を結ぶ「サンライズ出雲」。2023年7月にデビューから丸25年を迎えた

―― そうなると、客車の出雲がなくなった時点で、気持ちに一区切りついたというか。

石破 何かありますね。恋人が亡くなったみたいな。それでもまだ諦め悪く、寝台急行「銀河」(東京-大阪、08年廃止)に乗ってました。

―― 早朝に大阪に着いて、そこから乗り換えて...。

石破: 一番早い「スーパーはくと」1号に乗ると、10時ぐらいに鳥取に着けましたね。本当に「これで終わったな」と思ったのは「銀河」です。

―― やっぱり客車なんですね。

石破: そうですね。もう単なるノスタルジーですね。それでも、あながち外れてないなと思うのは、本当に東京との直結感と、非有効時間帯を使って働くぞ、という仕事に対するアニマルスピリットみたいなものは失われていったような気はします。

―― 飛行機だと、あまり腰を落ち着けて仕事する感じになりませんね。

石破: (上空でシートベルトサインが消えている間の)この1時間(急いで)仕事しなきゃ、という感じですよね。(第4回へ続く、1月7日掲載予定です)

石破茂さん プロフィール
いしば・しげる 衆院議員。1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)入行。1986年、全国最年少議員として衆院議員に初当選。現在12期目。自民党では幹事長、内閣では防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣などを歴任した。

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