能登半島地震が起こった直後から、インターネット上では情報が氾濫しているが、虚偽情報がかなり混じっているとみられる。情報の真偽をどう見分けたらよいのか。
NTTドコモの研究機関、モバイル社会研究所(東京都千代田区)が2023年12月7日に発表した調査「【防災】災害時のフェイクニュース・デマなど偽情報を見分ける自信がない約7割」によると、見分ける自信がある人は4人に1人しかいないという。
災害時の情報の洪水の中から正しいものを選び、家族と自分の命を守るにはどうしたらよいのか。調査担当者に聞いた。
「地震は人工地震」といった虚偽情報が拡大中
朝日新聞(2024年1月4日付)「善意のはずが――SNS拡散、混乱とデマ 『家族が下敷き』根拠不明、救助の妨げ」によると、能登半島地震直後からネット上にデマや偽情報が急増しているという。
X(旧ツイッター)には「崩れた家の下敷きになって動けない」といった救助の要請が多数投稿された。一部は本物とみられるが、多くはそれを真似た偽情報だった。また、「地震は人工地震の可能性がある」といった根拠のない情報と、愉快犯のデマや、収益増を狙ってXの投稿表示数を稼ぐための虚偽投稿も散見されると指摘している。
さて、モバイル社会研究所の調査(2023年11月)は、全国の15~79歳男女の8991人が対象だ。
まず、災害が発生した時、真偽が明らかではない、さまざまな情報が錯綜するが、真偽を見分ける自信があるかを聞いた【図表1】。4人に1人(25%)が見分けられる自信があると答えた。自信がある割合は、性別では男性(33%)、女性(18%)と男性の方が高い。
興味深いのは年代別の結果だ。一番高いのは10代(36%)、次いで20代(31%)、70代(27%)と続き、30・40代(ともに21%)が一番低かった。つまり、若者とシニア層が見分ける能力が高く、なぜか、働き盛りの30代~50代が低いという結果になった。
災害時の情報の中には、フェイクニュース(センセーショナルな虚偽報道)が混じっていることが多い。そこで、災害情報の真偽を見分けるためには、フェイクニュースに対する理解が欠かせないが、災害情報の真偽を見分ける自信とフェイクニュースに対する理解には相関がみられることがわかった【図表2】。
これを見ると、フェイクニュースの理解度が高い人の87%が「真偽を見分かる自信がある」と答えているが、フェイクニュースの意味も分からない人は、30%だけだ。
リポートでは、身近な避難所の確認や、離れ離れになった家族の連絡方法など、災害時に役立つ「データで見る防災ガイド」も掲載している。
若者とシニアに眼力があるのは、防災意識の高さから?
震災時のデマ情報などにはどう対応したらよいのか、J‐CASTニュースBiz編集部は調査をまとめたモバイル社会研究所の水野一成さん(防災・シニア・子ども調査担当)に話を聞いた。
――4人に1人が災害情報を見分ける自信があると答えています。逆にいうと、4人に3人が見分ける自信がないということですが、この数字をどう評価したらよいのでしょうか。現実に震災が発生して、安心できる数字でしょうか。危険な数字でしょうか。
水野一成さん 今までの災害においても偽情報について、報道などで何度か問題になりました。では、どうすれば見分けられるか、ご自身の中でも確立できていない結果が4人に3人が見分ける自信がない結果になったと推察されます。
震災の発生時にはさまざまな偽情報が飛び交い、それらを正確に見分けることが困難なケースも考えられます。そのため、本結果の数字だけで一概に「安心」「危険」を判断することはできません。
――偽情報を見分ける点について、男性のほうが女性より自信がある人が2倍近く多いです。モバイル社会研究所の色々な調査では、女性(特に若い層)のほうがスマホに接する時間・機会が多いという結果と相反している気がします。
また、10代、20代の若い層と70代のシニア層に自信がある人が多く、30代、40代に自信がない人が多いのは、なぜでしょうか。30代、40代は社会人の中核として情報リテラシーも高いと思われるのに不思議です。
水野さん 今回の結果は、ほかの結果でも類似の傾向が見られます。たとえば、緊急地震速報を受信した際に適切な行動ができるか調査した結果も男性が女性より高く、若年・シニア層が高い結果でした。
本調査はご自身の主観で回答いただいています。そのため、自信があるとの回答は、ファクトチェックなどの行動や、情報を真に見抜くスキルとは別の物と考えます。
若年層が高いのは、学校での防災教育の効果(記憶)が残っている、シニア層が高いのは防災意識が高いことと関連があると推察します。
自治体のメール・SNS・アプリを登録しておこう
――ズバリ、震災時に急増するフェイクニュースを見分けるにはどうしたらよいでしょうか。日ごろからのリテラシーの身につけ方も含めて、具体的に教えてください。
水野さん 岸田文雄首相が早々に会見で「悪質な虚偽情報は決して許されるものではなく、厳に慎んでもらう必要がある」と言われました。やはり発信元を確かめる必要があると思います。またSNSは簡単に拡散することも可能ですが、知人から来た情報を安易に広めることは、悪意がなくても注意する必要があります。
発信元を確かめる、あるいはファクトチェックのひとつの手段、または日頃の備え(災害発生時もですが)として、ぜひとも地元の自治体のメール・SNS(LINE、X=旧ツイッター)・アプリなどを登録・フォローしておくことをお勧めします。
当研究所が2023年8月に行った調査では、年配者ほど自治体のメールを登録している人が多く、若い人ほどSNSやアプリを登録している人が多いという結果が出ました。しかし、まだ全体の4割に過ぎません。今日にでもぜひ登録、フォローすることをおススメします。
――リポートには、「データで見る防災ガイド」がつけられ、13項目のポイント&ガイドが掲載されていますが、震災時に一番役立つ、特に重要な項目を挙げるとすればどれでしょうか。
水野さん 特に重要という点では、平時に家族で連絡方法を確認することが大切です。当研究所が2022年4月に行った調査では、家族と連絡方法を決めている人は3人に1人しかいません。
年代によって連絡手段(可能な手段)は異なります。SNSが使えない高齢者もいれば、災害用伝言ダイヤルを知らない若者もいます。家族みんなができる連絡方法、できればその方法が使えない時に第2の手段として何をするか決めておくことも有効です。
また、正しい情報を得る、という点では、スマホに防災関連のアプリを入れておく、自治体からの情報を受信するため、自治体のアカウントをフォローしておく、ということも重要と考えます。「データで見る防災ガイド」で、「NHKニュース・防災アプリ」や「ドコモ災害用キット・アプリ」もインストールできます。
――能登半島地震発生に関連して、特に強調しておきたい対策がありますか。
水野さん 地震発災時に、いきなり普段とは違う情報取得を試みるのは大変かと思います。たとえば、普段テレビの視聴に慣れている高齢者であれば、NHKや民放のアプリを入れ、テレビ放送をスマホで見ることもいいでしょう。今回の地震でも、同時放送が多くされていますので、ぜひ試して欲しいです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)