上司が若手部下の転職を「応援」? 無理に引き留めない企業に、優秀人材が集まる時代

部下を囲い込むより、「キャリア自律」に向けた支援を

   本エピソードは実話ながら、賛否両論があるかもしれません。

   育てた若手が他社に獲られるのを応援するなんて、「きれいごと」で自社ではあり得ないと感じる人もいるでしょう。

   いまや多くの企業が若者の早期離職に悩むなか、何とか社内に引き止め定着を促そうと、賃金アップや年功にとらわれない役職制導入など、対応に躍起です。しかし、これからの時代、若手を無理に社内に囲い込もうとすれば、かえって優秀な人材ほど逃げしまうのではないでしょうか。

   冒頭でもふれたとおり、真面目な若者ほど、終身雇用が崩れた時代に、常に自身の市場価値を見定めながらキャリアアップを求め、転職をも視野に入れながら働いています。就職先を選ぶ最も大事な基準は、自らが成長できる会社であること。就職と同時に転職サイトに登録することも普通です。

   したがって、これからの上司は、若者本人のキャリア自律への希望と向き合いながら、社内外で通用するプロフェッショナル人材としていかに育て上げ、活躍の場をつくるか。そうした俯瞰的な視点での関わりが大事です。

   社内でその環境がつくれればベスト。しかしエピソードのように、残念ながらそれが叶わず、他社からのオファーが本人にとって望ましいものなら、気持ちよく送り出すことも視野に入れておくべきでしょう。

   人材の流動化を前提に、アルムナイネットワーク(退職者の同窓会組織)を導入し、活用する企業も出始めました。また、副業、兼業が促進されるなか、複数の職場・仕事を兼務する働き方も増えていくでしょう。力のある社員の独立起業を支援し、対等な業務委託契約を結び直す企業も登場しています。

   これからの企業は、社員を囲い込むのではなく、キャリア自律を応援すること。結果、そのことで優秀な人材にとって、自分にあった働き方と成長が望める「選ばれる会社」になる可能性が出てくるのです。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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