「私、転職するか否かで悩んでいるんです」
T部長は、Hさんの成長ぶりを心から喜びました。ただ同時に、ある課題感を持っていました。
Hさんがさらに力を発揮しスキルアップを図るには、リソースが限られているベンチャーでは限界があるということです。
自社はeラーニング専門企業でもないため、デジタル教材の需要は限定的。一方でHさんを教材コンテンツづくりのプロに育てていくには、デジタル領域での経験をもっと積ませたい。
そこでTさんは、Hさんを同業他社に研修出向に出す案や、他社連携のプロジェクトを興せないかなど、思案を重ねるものの、妙案はありません。
やがて、期末評価とキャリア相談の時期を迎え、T部長とHさんとの面談が巡ってきました。Tさんは、Hさんのeラーニング・プロジェクトでの成果を評価し、振り返りの対話をしたうえで、Hさんの来期に話を進めました。
すると、その時です。
「Tさん、実は私...転職する否かで、悩んでいるんです...」
Tさんは、はっとして、一瞬息をのみました。
Hさんは少し緊張した真剣な面持ちでしたが、やがて涙顔になり下を向いてしまいました。しばらく沈黙の時間の後に、Tさんが語りかけました。
「そうだったんだね...よく話してくれたね。実は、僕もHさんの今後のキャリアを相談したいと思っていたんだ。どうすればHさんがデジタル領域での経験知をさらに磨けるか。知っての通りのうちの会社では難しいとも考えていた」
「そうなんですか...」とHさんは顔をあげました。Tさんは続けます。
「もしも社外でよい道が見つかるなら、遠慮せず進むのが一番だ。Hさんなら、自分の将来をしっかり考えられるだろう」