羽田事故、世界を驚かせた「奇跡」の裏側...JAL幹部が明かす CAが迫られた「判断」

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   羽田空港C滑走路で2024年1月2日に起きた日本航空(JAL)機と海保機の衝突事故では、海保機に乗っていた6人中5人が死亡する一方で、JAL機は乗客乗員379人の全員が脱出に成功した。

   国外でもこの事故への注目度は高く、この脱出劇を「奇跡」だと評価する報道が相次いだ。識者が多く指摘していたのが、大きく(1)客室乗務員(CA)の訓練(2)乗客が荷物を持ち出そうとせずに速やかな脱出に協力した、という点だ。JALが1月3日夜に開いた記者会見でも、こういった点が奏功したとの見方が示された。

  • 羽田空港で炎上する日本航空(JAL)の機体。乗客乗員379人は全員が脱出した(写真:ロイター/アフロ)
    羽田空港で炎上する日本航空(JAL)の機体。乗客乗員379人は全員が脱出した(写真:ロイター/アフロ)
  • 衝突した海上保安庁羽田航空基地所属の「MA722」(写真は海上保安庁のXから)
    衝突した海上保安庁羽田航空基地所属の「MA722」(写真は海上保安庁のXから)
  • 羽田空港で炎上する日本航空(JAL)の機体。乗客乗員379人は全員が脱出した(写真:ロイター/アフロ)
  • 衝突した海上保安庁羽田航空基地所属の「MA722」(写真は海上保安庁のXから)

「滑走路に接地後、突然の衝撃があった」

   事故が起きたエアバスA350-900型機は、左側前方からL1~L4、右側前方からR1~R4の8つのドアがある。そのうち前方のL1とR1、後方のL4の計3つのドアを使って脱出した。残りの5つのドアは、外に火災が見えるなどの「外的要因」で使わないことを判断した、としている。負傷者は15人。内訳は打撲1人、捻挫1人、体調不良によるクリニック受診13人だった。

   事故が起きたのは17時47分で、機長が全員の脱出を確認して地上に降りたのが18時5分だ。この間のパイロットとCAの行動について3日夜、堤正行・安全推進本部長が説明した。ただ、具体的な時系列は現時点では明らかになっていない。

   説明によると、パイロットは会社の聞き取りに対して「滑走路に接地後、突然の衝撃があった。衝撃後、滑走路右側にそれて停止する事態になった」などと説明。機体が止まった時点では火災の発生に気付いていなかったが、CAからの報告で把握したという。エンジンを止めた後、操縦室から客室に出た時点では脱出が始まっていた。客室を見回ったところ、残っている乗客が何人かいたため、前方に移動をうながし、乗客がいなくなったことを確認した上で、CAといっしょにL4から脱出した。

   本来ならば、脱出は機長がコックピットからインターホンや機内放送を使って指示するが、事故時点で使えない状態になっていた。それに加えて操縦室のドアが「何らかの理由」で開いていたため、CAは口頭で脱出の指示を受けた。

本来なら機長の指示必要だが...CA判断でドア開ける

   後方のCAは、さらに踏み込んだ判断を迫られた。堤氏によると、「前方からの(脱出)指示を待っていたが、ないということだった。着陸の際に機内に煙が入り始めて、かなり濃い煙が充満してきたということだ。外を窓越しに見たところ、オレンジ色のものが見えたので、火だと認識した」。右側後方のR4は「火が見えたため開けられない」として、他のドアに誘導。左側後方のL4は「火災がなく、脱出シュートを展開する余裕もあった」ため、ドアを開けた。本来ならば機長の指示が必要だが、インターホンが使えないため、「最終的に脱出指示を自分で判断してお客様を外にご案内した」という。

   ただ、こういった手順は事前に決まっており、その手順を訓練してきた成果が出たとみている。さらに、パニックを抑えながら、どのドアを開けるべきか適切に判断できたと評価している。

「非常事態に関してもしっかりと訓練を受けており、その中のプログラムで、コックピットと連絡がつかない場合、どう判断するかということも、もちろん盛り込んである。そういった訓練を通して、日々ケーススタディーをしながら備えてきた成果が出たと評価している」(堤氏)
「不用意にドアを開ける事がないようにということも含めて、まずパニックコントロール。それから外部、被害状況確認。それから、開けていいドア、開けてはいけないドアの判断...こういうステップを踏んだことによって、危険な状況に陥るであろうドアを開くことなく、安全なドアから脱出できたことが大きい」(同)

   乗客が荷物を持ち出そうとしなかったことも奏功した。青木紀将・総務本部長は

「今回、その徹底がお客様の協力もあって、なされた。これが迅速な脱出につながったと評価している」

と話した。

「荷物を置いて飛行機を降りるという基本的な規律による、奇跡の脱出だ」

 

   JALの事故対応をめぐっては、事故直後から「奇跡」だと評価する声が海外から相次いだ。シンガポールのニュース専門チャンネル、チャンネル・ニュース・アジア(CNA)では、航空専門サイト編集長のジェフリー・トーマス氏が

「私が言えるのは、彼ら(乗客)が暗黙のうちに指示に従い、手荷物を持ち出そうとせず、ただ立ち上がって可能な限り速く降りたという事実だけだ」

と指摘した上で、「90秒ルール」の存在に言及。90秒ルールとは、米連邦航空局(FAA)が定めた商用機(旅客機・貨物機)の安全基準のひとつで、機内の全非常用脱出口の半分以下を使って、事故発生から90秒以内に乗客乗員全員が脱出できる構造にすることを求めている。

   今回のJAL機では、ドアを3つしか使わなかった点について

「これは驚くべき脱出であり、奇跡的な脱出だ。荷物を置いて飛行機を降りるという基本的な規律による、奇跡の脱出だ」

などと指摘した。

   ロイター通信は、航空コンサルタント会社の航空安全担当役員、ポール・ヘイズ氏の見解を紹介。ヘイズ氏は、乗客は脱出時に手荷物を持っていなかったようだとした上で、

「CAが良い仕事をしたに違いない。全員が降りられたのは奇跡だ」

   とした。

   英BBCでは航空アナリストのアレックス・マケラス氏が、脱出成功は「特殊な部類」だとして、「教科書通りの避難」が行われたと指摘した。

「CAは炎に囲まれていない安全なドアを見つけ、教科書通りの避難を開始することができた。すべてのドアが開いたわけではなく、すべての避難スライドが展開されたわけでもなかったのは、そのためだ。素早く効率的な避難を始めるために、どのドアを開けるべきか、適切な判断をしている」

   一方で、「そうでないこともある」と指摘。恐怖を感じた乗客が避難を遅らせることもあるためだ。いわく「本能的にパスポートやバッグを荷物置き場から取り出そうとすることもあり、そのすべてが避難の成功に影響する」。こういった事情を踏まえても「教科書通りの避難」だったとした。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

姉妹サイト