日本生産性本部は2023年12月22日、「労働生産性の国際比較2023」を公表した。OECD(経済協力開発機構)データに基づく日本の時間あたりの労働生産性は52.3ドル=5099円で、OECD加盟国38か国中30位。一人あたり労働生産性は8万5329ドル=833万円で、同31位。いずれも1970年以降で最も低い順位になっている。
なお、円換算値は購買力平価レート(2022年:1ドル=97.57円)を用いているため、円安の影響は受けていない。時間あたり労働生産性の順位は、日本は2018年以降21位→25位→27位→28位→30位と落ち込み続けており、今年だけの話ではないのだ。
1位は法人税率引き下げでGAFAM呼び込んだ国
それではどんな国が労働生産性の上位なのか。1位のアイルランドは人口503.3万人。2000年代以降に法人税率を極端に低くするタックスヘイブン政策を採り、名だたるグローバル企業が本社や重要拠点を置いている。
テック企業のいわゆるGAFAMをはじめ、製薬会社のファイザーやJ&J、ノバルティスやロシュ、金融サービスのシティグループやJPモルガン・チェースなど。グローバルで70万人以上の従業員を擁するコンサルティング会社アクセンチュアも、本社をアイルランドに置いている。
2003年には法人税率を12.5%まで下げたアイルランドも、OECDの国際租税枠組みへの参加を表明し、法人税率の実行税率を最低15%にまで引き上げる見込みだ。租税回避スキームで多大な利益を得てきた企業が、近々撤退あるいは規模縮小する可能性は否定できない。
2位のノルウェーは人口540.8万人で、欧州最大級の産油国。国内の電力の大半を水力発電でまかない、産出資源を欧州諸国向けに輸出しており、輸出の約74%を石油と天然ガスが占めている。
3位のルクセンブルクは人口64.01万人。主要産業は金融業で、千葉県船橋市と同じくらいの人口だが、投資ファンド資産残高が米国に次いで世界第2位の規模。欧州の金融センターとしての地位を確立している。
「製造業の海外流出」と「サービス業の割合増加」が影響
人口1.2億人を抱え天然資源ない日本が、これら上位企業と同じ方策を採れるとは思えない。まずは低労働生産性の中身を分析する必要があるだろう。
2022年9月発表の厚生労働省「令和4年版労働経済の分析」には、日本の産業別の労働生産性が掲載されている。雇用者におけるマンアワーベース(従業員1人・1時間)の労働生産性が最も高い産業は「情報通信業」で、2000年代の8600円台からは下がったものの、2020年で7965円と高水準だ。
「製造業」は増加傾向で、2001年の4283円から、2020年には5967円に増えている。一方、労働生産性が最も低い「飲食・宿泊サービス業」は2020年に2611円、「運輸・郵便業」は3117円、「保健衛生・社会事業」は3256円で、大きな差がついている。
実質賃金を上げるためにも、労働生産性の向上は喫緊の課題だ。都内のIT企業で人事部門に勤める40代男性Aさんは「日本の労働生産性が下がったのは、決してサボる労働者が増えたり能力が下がったりしたのではない」と強調する。
「一番大きいのは、労働生産性が比較的高かった製造業の工場が海外に流出してしまい、労働生産性の低いサービス業の割合が高まったからでしょう。これを解決するために、日本はこれから『賃上げ』と『転職』が大きなテーマになると思います」
人材の奪い合いで労働生産性は改善の方向に?
労働生産性とはアウトプット(付加価値額や生産量)をインプット(労働者数や労働時間)で割ったもの。サービス業の労働生産性を上げるために、例えば飲食業で働く人の給与を上げる方策が考えられるが、メニューの価格も上げざるを得ないだろう。
「安く食べられる店が減りかねないところが痛しかゆしですね。労働生産性の低さは消費者にとって悪いことじゃなかったりするんですが、社会全体の購買力も下がってしまうので甘えすぎてはいけないんですよね」(Aさん)
また、労働生産性の低い業種から高い業種へ、つまり「より給与の高い会社」に労働者が移動することも対策として有効で、政府もさまざまな政策で労働移動を促している。
「日本の場合、終身雇用的な慣行がボトルネックとなり、転職者が増えにくいのが現状ですが、これからバブル入社世代が定年を迎えるので潮目が変わるかもしれません。人手不足が深刻化している業種もあり、給与による人材の奪い合いが増えると、労働生産性が改善の方向に向かう可能性はあると思います」(Aさん)