旧ジャニーズ、宝塚、楽天の選手、エネオス社長... 2023年にさらされたハラスメントが示す今の日本

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   2023年を振り返ると、ハラスメントやいじめをめぐる事件が相次いだ。旧ジャニーズ事務所、宝塚歌劇団、東北楽天ゴールデンイーグルス。年末には、石油元売り大手・ENEOSホールディングスの社長が女性にセクハラ行為をしたとして、解任される一幕もあった。

   さまざまなタイプのハラスメントが問題視され、「悪目立ち」した1年となった。雇用労働問題に詳しい、ワークスタイル研究家の川上敬太郎さんは、今年のハラスメント事案を振り返って、「(現状は)新たな均衡点がもたらされるまでの過渡期。職場環境をよりよく改善するため、過去からのツケがようやく支払われるようになった」と指摘する――。

  • 「ハラスメント」が目立った2023年を振り返る
    「ハラスメント」が目立った2023年を振り返る
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世の中はハラスメントブーム 巷にあふれる「〇〇ハラスメント」

   「〇〇ハラスメント」と聞くと、どんな言葉が思い浮かぶでしょうか。

   真っ先に、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシュアルハラスメント(セクハラ)が思い浮かぶかもしれません。また、今年(2023年)は、労災認定基準に加わったカスタマーハラスメント(カスハラ)も注目されました。顧客が優位な立場をかさに着て土下座を強要したり、無断で撮影した動画をSNSでさらしたり、果ては暴力を振るったりと、ひどいカスハラの実態も明るみになってきています。

   深刻化するカスハラに関しては、国も本腰を入れて、対策を講じるようになりました。2023年12月13日に施行された「改正旅館業法」では、ホテルや旅館が迷惑行為(カスハラ)を繰り返す客の宿泊を拒否できるように。日本民営鉄道協会でも12月14日、「カスハラ対策」の基本方針が打ち出されました(「民営鉄道業界におけるカスタマーハラスメントに対する基本方針」)。

   いずれにしても、今年ほどハラスメントが話題になった年は多くないでしょう。ほかにも、「〇〇ハラスメント」はたくさんあります。

   たとえば、妊娠や出産を理由に職場で解雇など不当な扱いを受けてしまう、マタニティハラスメント(マタハラ)。飲酒を強要したり一気飲みをさせたりする、アルコールハラスメント(アルハラ)。「男らしくない」「女のくせに」といった言葉に象徴されるように、性別と社会的役割などとを結びつける、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)など。

   さらに名称だけ挙げると、モラハラ、パタハラ、スメハラ、オワハラ、リモハラと、「〇〇ハラスメント」はいまやどんどん増えています。なかには、過剰にハラスメントを指摘する行為自体をハラスメントだと見なす、ハラスメントハラスメント(ハラハラ)というものまであります。

   まさに、世の中は「ハラスメントブーム」が到来したかのように、○○ハラだらけです。

   これだけ周囲がハラスメントだらけでは、職場が窮屈になって気が休まらないかもしれません。「いまの振る舞い、ハラスメントって言われないかな...」などと、一挙手一投足が気になってしまうと、日々神経をすり減らすことになりそうです。

セクハラを「上手く受け流せるようになって一人前」だった昭和

   ただ、さまざまなハラスメントが生じている、ハラスメントブームの背景には、長くハラスメント被害に耐えてきた人たちの苦しい過去が下地にあります。昭和の職場では、女性社員は一まとめに「女の子」と呼ばれ、「誰か女の子に言って、お茶持って来させて」などという言葉が飛び交っていました。

   また、宴席では女性社員が男性上司の横に座って、お酌するのが暗黙のルール。性的なからかいに不快な思いをしたとしても、「上手く受け流せるようになって初めて一人前」と、かえってたしなめられたりしました。

   さらに、セクハラする側は女性が嫌がる姿を楽しんでいるだけに、たちが悪い。嫌がって怒る様子さえ、「怒った顔もかわいいねぇ」などと面白がる始末。昭和の頃、被害者側としては、戦う気すら失せてしまう雰囲気がありました。

   しかし、いまは違います。セクハラなどの「〇〇ハラスメント」という言葉が生まれたことによって、一連の不快な振る舞いに輪郭がつけられ、「やってはいけないこと」として概念が共有されるようになりました。

   そして、「〇〇ハラスメント」という言葉それ自体が、これまで被害を受けてもなすすべがなく、抵抗することさえできなかった人たちにとって、長く辛酸をなめてきた末にようやく手にした武器といえるでしょう。

   ところが、世の中の事象は、複雑に絡み合っていることが常。今度は「それ、セクハラですよ」などと訴えられれば、言われた側がたじろぐケースも見られるようになってきました。さきほど挙げたハラハラがそれです。「〇〇ハラスメント」を乱用して、過剰に騒ぎ立てるような事態がいま懸念されています。

   このように、かつては加害者が一方的だったハラスメントが、「○○ハラスメント」の浸透によって、被害者が反撃して係争が生じたり、さらには過剰反応して加害者側になってしまう。その一方で、旧態依然としたハラスメントもいまだ横行していたりと、いまの職場はハラスメントをめぐって混沌とした状態が生じています。

被害者側も、泣き寝入りせず戦う時代に

   そんな職場はストレスフルで、窮屈かもしれません。しかし、加害者側だけが一方的に力を行使できた硬直的な状態は崩されました。これは、朗報です。いまは、被害者側も力を得たことでハラスメントに泣き寝入りせず戦う事例が増え、新たな均衡点がもたらされるようになるまでの過渡期だと考えられます。

   たとえば、「ハラスメントは犯罪」と元自衛官の五ノ井里奈さんが性被害を告発し、被告たちが有罪判決を受けた裁判は、そんな過渡期を象徴する出来事だと思います。

   「ハラスメントブーム」の到来は、ハラスメント天国でやりたい放題だった人たちにとっては窮屈でしかないでしょう。古き良き時代が恋しくなるかもしれません。しかし繰り返しになりますが、ハラスメントの被害者たちは、ずっと窮屈以上の苦痛に耐え続けてきました。

   こうした動きとあいまって、職場環境をよりよく改善するため、過去からのツケがようやく支払われるようになったように思います。今後も、加速していく動きになるのではないでしょうか。



【筆者プロフィール】
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう):ワークスタイル研究家/1973年、三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業をはじめ複数企業で管理職・役員を歴任。現在は、人材サービスの公益的発展を考える会 主宰、ヒトラボ編集長、しゅふJOB総研 研究顧問のほか、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

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