2023年の中古住宅市場を踏まえて、2024年の市況がどのように推移しそうなのか。また、2024年4月から開始される「省エネ住宅表示制度」によって、住宅を購入するユーザーの意識はどのように変わる可能性があるか――。
LIFULL HOME'S総研副所長・チーフアナリストの中山登志朗(なかやま・としあき)さんの考察では、「絶好の売却『適齢期』が到来」という――。
「建設業の2024年問題」、住宅価格への影響は?
新築住宅は円安の影響が強く働き、特に東京都心周辺では新築マンションが平均1億円超という高額な状況になっていますが、一方の中古市場はエリアによって異なります。
2023年春には新型コロナが2類から5類に移行し、それに伴って移動制限も撤廃されたことを受けて、住宅市場はコロナ前の勢いを徐々に取り戻しました。また、インバウンドの需要も顕在化したことで、都市圏ごとの価格相場が明確に上振れしました。
そうしたなか、2024年の住宅市場の展望としては、ロシアのウクライナ侵攻に端を発する世界的なサプライチェーンのひっ迫で資材やエネルギー、食糧価格が上昇し、日米欧の金融政策の違いによる円安も依然として継続していますから、今後も特に新築住宅の価格が上昇、もしくは高止まりすることが考えられます。
それに加えて、「建設業の2024年問題」といわれる、建設に従事する労働者の残業時間についても、2024年4月から総量規制が始まります。そうすると今後は、労働力のひっ迫による工期の延長や人件費の上昇も想定されます。そのため住宅価格も、コストプッシュ型の価格上昇がまだまだ続きそうです。
このように、来年(2024年)も新築価格の上昇が止まらない以上、中古住宅にニーズがシフトして、市街地中心部の物件や築年数の浅い物件を中心に、価格が上昇し続けることはほぼ確実とみられます。
つまり、現在所有している住宅を売却するタイミングとしては、歓迎すべき状況ともいえます。しかし一方で、購入物件の価格が上昇していますから、家計によってはダウンサイジングや郊外方面への転居も検討する必要が出てくるでしょう。
結果的に、中古住宅市場への新型コロナの影響はほぼ皆無
コロナ禍が継続していた2022年前半までは、中古住宅市場は依然として市場規模(流通件数)がコロナ前を超えることはありませんでした。しかし、2022年秋以降は、本格的に中古物件数が増え始めました。
中古物件の価格は一時的に頭打ち傾向があったものの、新築物件の価格上昇が顕著になったことから、2023年に入って中古住宅の価格も明確に強含んでいます。
もっとも、新築・中古共に物件価格が上昇したことで進んだのが、各都市圏の準近郊&郊外エリアでの居住スタイルの定着です。
背景として、とくに子育て世代である30代半ば以降のファミリー層は、折からの円安による消費者物価の上昇もあり、比較的生活コストが安価な準近郊&郊外での生活を選択するケースが増えたのです。
当初はコロナ禍を避けるため、郊外方面での居住は一時的なものと考えられていました。しかし、コロナ後もテレワークが継続していること、住宅価格の高騰が都心・近郊を中心に進んでいて、住宅の購入ハードルがさらに高くなっていること――などを主な要因として、ファミリー層の「郊外定着」につながったのです。
以上が、「コロナ禍~コロナ明け」の中古住宅市場の大きな流れです。ところが、圏域ごとにその状況や背景は異なります。
新築価格の上昇から、積極的に中古住宅を検討するユーザー
具体的には、首都圏では上記の通り、人流の郊外化がファミリー層を中心に定着しました(単身者は都心回帰)。近畿圏では対照的に、大阪市とその周辺に一極集中。中部圏では、首都圏および近畿圏への人口流出が発生しています。このほか、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方四市をはじめとする地方圏政令市や中核市では大阪同様に、一極集中が明確になっています。
こうした状況となっているのは、都市圏としての規模に違いがあるためです。最も大きい首都圏では都心周辺が富裕層と若年層単身者の住宅に、準近郊&郊外が専らファミリー向けというように二極化。規模が小さいエリアでは、各中心市街地へと人流が集中しているのです。
人の流れがこのように大きく変化すれば、エリアごとの住宅需要も変化します。それにより、住み替えのタイミングもよく検討することが必要になりました。あわせて、新築価格の上昇によって、積極的に中古住宅を検討するユーザーも急増しています。
したがって、2024年の中古住宅市場は2023年以上の活性化が期待されます。
住宅性能の「可視化」が進み、よりコスパが意識されるように
さらに、今後大きな要素としてクローズアップされるのが、「住宅の省エネ・断熱性能」に関わる件です。2025年4月の省エネ基準適合義務化に先駆けて、その1年前にあたる2024年4月から、省エネ性能表示制度がスタートします。
この制度では、表示ラベルでエネルギー消費等級と断熱等級、年間の光熱費の目安が記載されることになっています(第三者評価/自己評価/住棟・住戸の別などで表示内容に違いがあります)。それにより、住宅性能が一気に「可視化」されることになります。物件本体の価格(イニシャルコスト)とともに、光熱費(ランニングコスト)がわかるようになれば、トータルでのコスパが強く意識されるようになるのは当然のことと思われます。
したがって、住み替えについては、物件の立地条件、交通条件、周辺環境、安全性、居住快適性などに加えて、省エネ・断熱性にも意識が向くようになります。ですから、たとえば立地条件などが良好でも、これからは省エネ・断熱性能に劣る住宅は資産性が下がってしまうことが考えられるのです。
2024年の中古住宅流通市場では、2025年4月から施行される「改正建築物省エネ法」に基づき、全ての新築建築物に、省エネ基準適合(断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上)が義務化されます。
中古住宅においても、流動性を高めるためには耐震改修だけでなく、断熱改修も必要になるケースが増えることをイメージしておく必要があるでしょう。
【筆者プロフィール】
中山 登志朗(なかやま・としあき):LIFULL HOME'S総研 副所長・チーフアナリスト。出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。2014年9月から現職。