「アザラシの氷河くん」というキャラクターが、かわいらしい見た目に反して「設定がリアル過ぎてつらい」などとしてX(旧ツイッター)で話題になっている。氷河くんは、厚生労働省愛知労働局の就職氷河期世代支援キャラクター。公式サイトによると、正社員になれず契約社員として働くも、過酷な労働環境から体調を崩し、引きこもりの経験があるという設定だ。
リアルな設定の理由について、愛知労働局はJ-CASTニュースの取材に、「お困りの方々がリアリティを感じていただけるよう」に設定したと明かした。
「過酷な労働環境下で体調を崩し、ひきこもり状態」
愛知労働局の就職氷河期世代支援特設ページには、氷河くんの4コマ漫画が3話掲載されており、氷河くんは1話目のプロフィールで、
「就活をがんばったけど正社員になれず、契約社員として会社勤めをしたが、過酷な労働環境下で体調を崩し、ひきこもり状態が続いている。最近は母親が通い始めた場所で同じ悩みを持つ人たちも参加できる『居場所』があることを知り、そこで時間を過ごすうちに、少しずつ他の人や社会とかかわりを持てる自信がついてきた」
と、紹介されている。2話目では40歳であることも明かされている。
漫画には母親の「氷河くんママ」やアライグマをモチーフにした「ひきこもり支援の新井さん」、ネコをモチーフにした「サポステの根子さん」などのキャラクターも登場している。氷河くんママのプロフィールは次の通り。
「子どもがひきこもりになり本人が苦しんでいる姿を見ながら何もできず、ずっと一人で悩んできたが、ひきこもりの子どもを持つ親同士で心を開いて話をすることができる集まりに参加して、心が軽くなった」
漫画では氷河くんが引きこもり状態から、地域若者サポートステーションやハローワークなど支援の場につながり、安定した就職先を見つけるまでを描いている。
「複数の支援団体に意見を聞き好反応でしたので採用」
J-CASTニュースは2023年12月28日、愛知労働局に氷河くんについて詳しく聞いた。同局の担当者によると、氷河くんは2020年10月から活動を始めた。主な活動内容は就職氷河期世代への支援の周知広報だといい、「具体的には、愛知労働局のホームページで、ハローワークや支援機関等が行っている支援内容の周知、また、県内ハローワークが行っている就職支援セミナーや企業説明会等のイベントの周知を行っています」と説明した。
愛知労働局は2019年10月、「第1回あいち就職氷河期世代活躍支援プラットフォーム」が開催された頃に氷河期世代の就職支援に力を入れ始めたといい、氷河くん誕生のきっかけについて次のように説明した。
「就職氷河期世代活躍支援が始まっているものの、氷河期世代を含め世間一般の認知度も低いうえに、当初は氷河期世代の支援内容を周知するためのポスターは文字ばかりの堅いイメージで作成することを考えていましたが、文字ばかりでは見ていただけないのではないかと考え、キャラクターを設定してアイコンとして活用することで支援について興味を持っていただけるのではないかとキャラクター導入を検討しました。
『氷河くん』は実際に氷河期世代の方を模しているため、中には不快に思われる方もいるのではないかとの議論もあり、実際に支援を行っている複数の支援団体に意見を聞き好反応でしたので採用に至りました」
モチーフをアザラシにした理由は、「既に県下のハローワークで使用されているモチーフでなく、また他県の労働局等で氷河期支援のキャラクターとして使用されていないモチーフであり、柔らかいイメージで、作成する職員が描きやすいモチーフだったためと聞いています」と明かす。
プロフィールについては、「お困りの方々がリアリティを感じていただけるよう」に設定した。支援者団体と意見交換を行う中で、漫画などでの広報周知を提案されたといい、「意見交換で聞いた事例を参考に支援団体の感想も踏まえて」決めたという。
氷河期世代向け支援を受けている人からは「概ね好評」
Xでの反響については「少々驚いています」とし、次のようにコメントした。
「キャラクターを導入して周知を開始したのが3年以上前になりますので、このタイミングで話題になっていることは少々驚いています。活動開始当初も一部反響をいただき、賛否があったことも承知していますが、ハローワーク等で実際に就職氷河期世代の方向けの支援を受けておられる方々からの反応は概ね好評であると受け止めています」
その上で、氷河期世代やその保護者で悩んでいる人へ向けて、「ご相談いただければ」と呼びかけた。
「このキャラクターをモチーフにした漫画でも、就職氷河期世代の方々のそれぞれの状況に応じた支援開始へのきっかけから、支援を通じてハッピーエンドに向かう物語としており、行政機関としてもこの結末を目指して支援を行っていますので、これを機に、改めて就職氷河期世代の方々に支援策を知っていただき、お困りごとやお悩みのある方は、ご本人のみならず保護者等におかれても、ご相談いただければと思っています」