国立社会保障・人口問題研究所は2023年12月22日、2023(令和5)年の「日本の地域別将来推計人口」を公表した。2020年以後の総人口は東京都を除く46道府県で減少し、2040年以後には東京都を含むすべての都道府県で一貫して減少する見込みだ。
2020年と比べて2050年の総人口が30%以上減少する県は11。最も大きく減少する秋田県では41.6%減少するという。2050年に65歳以上人口割合が40%を超える道県は25にのぼり、47都道府県の過半数となる。最も高くなる秋田県では49.9%と、実に「秋田県民の2人に1人が65歳以上」になると予想されている。
「すでにかなり進行している」鳥取県と島根県
東北地方の急激な状況悪化が目を引く一方、当然ながら、都市部の関東地方や東海地方、近畿地方ではスピードが遅い。このほか、意外なことに鳥取県と島根県の山陰地方も、東北地方ほどの変化の速さがない。
2020年から2050年までの総人口の減少率は、鳥取県が26.7%、島根県が25.9%。40%台の秋田県や、30%台の青森県、岩手県、山形県、福島県と比べると穏やかだ。65歳以上人口割合も、鳥取県が40.9%、島根県が39.7%で、秋田県の49.9%や青森県の48.4%と比べると若干低くなっている。
考えられる理由のひとつは、山陰地方は「人口減少も高齢化もすでにかなり進行しているため」だ。2020年時点の人口は鳥取県が553万人、島根県が671万人で、47都道府県中ワースト1と2。秋田県の960万人と比べても、鳥取県・島根県の人口は6~7割しかいない。
2020年時点での75歳以上人口の割合は、島根県で18.4%。秋田県の19.9%、高知県の19.0%に次ぐ3位の高さだ。鳥取県も16.8%と高めで、やはり山陰は「人口減少と高齢化の先進県」になっているようだ。
山陰には「人がいなくて仕事にならない」
日本銀行松江支店が2023年12月6日に発表した「深刻化する山陰の人手不足の現状と今後に向けた取り組み」と題されたリポートには、課題に直面する鳥取県と島根県の状況を解説している。
驚くのは、山陰地方の有効求人倍率の高さだ。2014年から1倍を超え、コロナ禍から現在にかけても大幅な受給超過となっている。2023年8月時点では1.45倍と、全国平均の1.29倍を大きく上回る状態だ。
一般事務員の0.5倍、製造技術者の0.7倍など倍率の低い職種がある一方で、建設躯(く)体工事の11.7倍、採掘の9.9倍、自衛官・警察以外の保安の8.9倍、建築・土木技術者等の8.8倍、土木の7.7倍などは非常に高い。
「山陰には仕事がない」のではなく「山陰には人がいなくて仕事にならない」状態なのだ。
リポートは「もはや人手不足は一企業の問題にとどまらず、山陰経済全体の重大なボトルネックになりつつある」と指摘し、「人手不足関連倒産が増える」ことも想定している。
要因は、総人口の減少と高齢化の進展があいまった「労働力人口の減少」だ。特に10代後半から20代の若年層は、出生率の減少に加え、進学・就職時の県外流出に歯止めがかからず、2022年度の高卒者の求人倍率は4倍を上回る。
よくある「女性労働力の活用」はすでに取り組まれており、近年では北欧並みの水準に達している。高齢者の労働力率も全国を上回る水準で、人手不足解消の切り札にはなりえない。
賃金アップ、休日増のほか「年功序列の見直し」も
リポートは、対応策として「人材流出を防ぐ」「外国人材を活用する」「副業・兼業人材を活用する」「省人化投資を行う」の4つを挙げている。体力を要する建築・土木の仕事は、日本人の若い世代はやりたがらず、外国人労働者の活用が重要になるかもしれない。
さらなる人材不足を防ぐために、リポートは企業の取り組み事例を紹介している。挙げられているのは「賃金アップ」や「働きやすい職場環境づくり」(労働時間・休日の改善など)といった処遇改善策のほか、教育の充実やメンター制度の導入などの「キャリア形成・人材育成」や若手への積極的な「権限移譲」「年功序列の見直し」もある。
またリポートは、山陰地方は機械などの有形資本だけでなく、ソフトウエアなどの無形資本への投資額も全国平均を大きく下回っており、「ITを活用した省人化の可能性」を検討する必要があると指摘する。これから人口減少と高齢化によって労働人口の減少が予想されている地域にとっては、参考になるだろう。