新NISA「一括投資」と「毎月投資」どっちがお得? 大論争に軍配「最強投資術」を株式専門家に聞く

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   2024年1月から「新NISA」(少額投資非課税制度)がスタートする。

   投資資金の非課税枠が大幅に拡大するなど、期待が高まる一方、ネット上では毎月定額の積立投資をした時と、一括で投資をした時のどちらがお得か、大議論になっている。

   そんななか、「議論に終止符を打つ!」として「一括投資」に軍配を上げた研究リポートが発表された。分析を行なった株式専門家に聞いた。

  • 新NISA、どう投資したらいい?
    新NISA、どう投資したらいい?
  • 井出真吾さん(本人提供)
    井出真吾さん(本人提供)
  • (図表1)「1月一括投資」が有利だった(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表1)「1月一括投資」が有利だった(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表2)株価指数は長期上昇した(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表2)株価指数は長期上昇した(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表3)「1月一括投資」の勝率は8割~9割以上(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表3)「1月一括投資」の勝率は8割~9割以上(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表4)「毎月投資」が有利だった2002年、2008年(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表4)「毎月投資」が有利だった2002年、2008年(ニッセイ基礎研究所作成)
  • 新NISA、どう投資したらいい?
  • 井出真吾さん(本人提供)
  • (図表1)「1月一括投資」が有利だった(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表2)株価指数は長期上昇した(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表3)「1月一括投資」の勝率は8割~9割以上(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表4)「毎月投資」が有利だった2002年、2008年(ニッセイ基礎研究所作成)

S&P500に1月一括投資で、24年後に5.6倍に

   この研究リポートは、ニッセイ基礎研究所主席研究員の井出真吾さんが2023年12月11日に発表した「新NISA、『毎月投資』か『1月一括投資』か ~『オルカンvs S&P500論争』にも終止符を打つ~」という分析報告だ。

   新NISA投資法をめぐっては、「毎月定額積立投資」と「一括投資」のどちらが得かという議論のほかに、もう1つの議論も盛り上がっている。投資対象として米国の主要500銘柄である「S&P500」と、米国以外に中国、欧州なども含めた全世界株式(オールカントリー、略して『オルカン』=三菱UFJアセットマネジメントの登録商標)のどちらがおススメかという議論だ。

   そこで井出さんは、この2つの議論の双方に決着を試みた。2000年1月から2023年11月までの約24年間の株式変動データを元に、年間投資額12万円を「日本株」(TOPIX)、「米国株」(S&P500)、「オルカン」(MSCI-ACWI)に「1月に一括投資」した場合と、「毎月1万円積立投資」した場合の資産総額を比較した。

   【図表1】がその結果だ。結果は「S&P500に1月一括投資」が最も有利で、投資元本287万円が1603万円に増えた(5.59倍、年平均利回り7.5%)。一方、「S&P500毎月投資」は1476万円だった(5.14倍、同7.1%)。オルカン(MSCI-ACWI)、TOPIXも結果は同様で、「1月一括投資」のほうが有利な結果となった。

   つまり、同じ12万円(年)を投資するなら、毎月1万円を積み立てるより、1月にドーンと、それも「S&P500」に投入するのが一番お得だったということだ。

   ところで、「毎月投資」有利派の中には、「ドルコスト平均法を実践する積立投資は、一括投資よりもリスクが少なく有利」という意見が根強くある。

   「ドルコスト平均法」(定時定額購入)とは、価格が変動する金融商品を定期的に定額で積み立てる手法。自動的に定額で買うから、対象の価格が安い時には多く買い、高い時には少なく買うことになる。積立期間が長くなるほど購入価格が平均化され、リスクに強い投資となるといわれる。

   しかし、検証結果は真逆になった。リポートでは、その理由は【図表2】のグラフで示したように、「S&P500」と「オルカン」ともに株価指数が24年間の多くで右肩上がりだったため、と説明する。1月に一括投資したほうがその後の株価上昇の恩恵がより大きく受けるわけだ。

   もちろん、こうした分析は過去の結果を元にしている。将来は不確実性が伴う。井出さんは、今後も長期的にはリスク・リターンともS&P500のほうが、オルカンよりも少し高くなると想定しているが、オルカンの約6割は米国株でもある。米国株の「一本足打法」は危険だと考えている人は、オルカンを買えば投資資金の約6割が米国株だし、残りは世界中に分散投資できるとアドバイスする。

   リポートの最後に井出さんは、「要は好み(リスク選好)の問題だ。短期的な値動きに目を奪われることなく、時代の大きな流れに応じて投資先を決めることが肝要だ」と結んでいる。

「毎月投資」のドルコスト平均法が利かない理由

   J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた井出真吾さんに話を聞いた。

――資産運用動画サイトなどでは、「毎月投資」の有利さを説明する理由に「ドルコスト平均法」を持ち出すところが少なくないですが、なぜ「ドルコスト平均法」はあまり有効ではなかったのでしょうか。

井出真吾さん 「ドルコスト平均法」はバブルの清算を行なっていた平成時代には有利だった投資方法です。バブル経済が崩壊した1991(平成3)年頃からアベノミクスが始まる2012(平成24)年頃まで、日本株はずっと右肩下がりのカーブを描いていました。

このように株価が下落傾向にある時は、「ドルコスト平均法」はリスクへの強さを発揮していたのです。私は、リポートの中で投資した年ごとの直近(2023年11月末時点)の資産額も計算して、「1月一括投資」のほうが「毎月投資」より資産額を多かった年数を出しました。

【図表3】が全24年間の「1月一括投資」の勝率です。これを見ると、「S&P500」「オルカン」「日本株」そろって勝率は8割~9割以上ですが、「毎月投資」のほうが3指数すべてで有利だった年もありました。それが2002年と2008年の2つです。2002年はITバブル崩壊後の景気低迷、2008年はリーマンショックで世界的に株価が下落した年でした。

【図表4】が2002年と2008年のS&P500の株価指数の推移グラフですが、日本がバブルを清算した時もこのような下降グラフを描いており、その時は「ドルコスト平均法」が有効でした。

投資の決め手は、結局、本人の性格とメンタル面

――もう1つ、「毎月投資」有利派の意見の中で目立つのは、ネット証券で購入して毎月クレジットカードで決済すれば、ポイントが貯まるというメリットです。こうした点についてはどう思いますか。

井出さん いわゆる「ポイ活」ですが、私は「ポイ活」は投資と考えていませんので、今回の分析では計算に入れておりません。しかも、「毎月投資」でポイ活できるクレジットカードは、SBI証券なら三井住友ゴールドカードといった、それぞれのネット証券ごとに一部の限られたカードです。

――「毎月投資」がいいか、「一括投資」いいかという論争には、投資する人の性格やメンタルの面もありますよね。以前、住宅ローンの「固定金利」がいいか、「変動金利」がいいかという論争問題で、あるエコノミストを取材した時、こう言っていました。
「それは本人の性格次第。20年、30年先の金利なんて誰もわからない。金利の上がり下がりが気になる人は、固定金利にすればいい。少々高くつくが、精神衛生上の保険料と思えばよい。気にならない神経が太い人は、変動金利にすればよい」と。

井出さん そのとおりです。今回の検証調査では、「一括投資」に軍配が上がりましたが、私は今後もそうだとは言っておりません。将来のことは誰もわかりません。

「毎月投資」は精神衛生上、心穏やかに過ごせます。リスクが少ない分、リターンも少ないという検証結果が出ました。一方、「一括投資」がリターンも大きいですが、リスクも大きいです。どちらを選ぶかは結局、本人の性格、好みの問題になります。

来年前半、米国経済は混乱に陥る?

――来年(2024年)1月から新NISAが始まるわけですが、ズバリ、1月からS&P500にバーンと一括投資するといいですか。来年の米国経済、あるいは世界経済に不安はないでしょうか。

井出さん 来年の前半は、米国経済の先行き不透明になりますから、分散投資のほうがいいでしょう。過去2年間、高金利の金融引締め政策を続けてきた米国中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)が来年金融緩和に転じ、年内に3回利下げすると見られています。日銀も来年前半に利上げ(マイナス金利解除)すると予想されています。金融政策の大転換の時は、株式市場は混乱を伴うものです。

市場の大半はFRBの最初の利下げは3月に行われるだろうと見ていますが、もし外れた場合は市場の混乱が避けられません。それを見届けるまで様子を見て、一括投資を控えたほうがいいでしょう。

1月に「決め打ち」をする必要はありません。「一括投資」で勝負するなら、マーケットが落ち着いてきた来年半ば以降でも遅くないかもしれません。

また、来年は米国経済の景気が減速するのは間違いありません。経済を支えてきた個人消費にかげりが見えるなど、減速の兆候が表れています。問題は減速が緩やかなソフトランディングになるか、激しいハードランディングになるかですが、現時点では6対4くらいの可能性だと思います。いずれにしろ、来年は2002年や2008年ほどひどくはならないでしょうが、その再来はあり得ます。

――それほど先行きに不安があって、米国株のS&P500に勝負をかけて大丈夫なのですか。

井出さん FRBが金利を引き下げるのは、株価にとっては追い風です。また、企業の業績は好調です。特に、世界中から優秀な人材が集まるテスラ、エヌビディア、マイクロソフトなどに代表される米国のハイテク産業がそう簡単に弱体化するとは考えにくいです。高いイノベーション力を背景に、新たな成長企業や産業が登場すると考えるのが自然でしょう。

最初の数年で元本割れ、「やっぱり来たか!」と思う余裕を

――最近、株価上昇が著しい日本株はどうでしょうか。来年、日本銀行が大規模金融緩和政策の修正に動くとみられていますが。

井出さん 来年は日銀が政策修正に動く方向性であることは間違いありません。そうなると、日米の金利差が縮まって円高に動きますから、日本株にとっては逆風です。しかし、日本企業も業績は好調だし、米国株の上昇に引きずられるかたちで、横ばいか緩やかに上昇するでしょう。

日本株は、S&P500やオルカンほどリターンは高くありませんが、あまりリスクを負いたくない、為替リスクを避けたいという人にはおススメです。

――新NISAで、初めて投資デビューをする人に、特に強調しておきたいアドバイスはありますか。

井出さん 株式は、上がったり、下がったりを繰り返すカーブを描きながら、ゆるやかに上がっていくものです。だから、最初の5年や10年は元本割れすることがあります。しかし、15年後や20年後になると、元本割れしにくくなります。

最初の数年で元本割れした時はガッカリしないで、「ああ、やっぱり来たか!」と思う心の余裕が大切です。10年後くらいには「あの時、始めておいてよかった!」と思うようになるでしょう。早く始めれば始めるほど、早く儲けを手に入れることができるのですから。とはいえ、投資を明日始めても3か月後に始めても、10年後や20年後の結果は大差ありません。しっかり理解して納得してから投資を始めるのが何より大切です。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


井出真吾(いで・しんご)
ニッセイ基礎研究所金融研究部主席研究員、チーフ株式ストラテジスト

1993年東京工業大学卒、日本生命保険入社。1999年ニッセイ基礎研究所出向。2023年より現職。専門は株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成。日本ファイナンス学会理事、日本証券アナリスト協会認定アナリスト
科学的かつ客観的な分析とわかりやすい解説に定評があり、新聞・テレビなどメディア露出も多数。企業・新聞社主催セミナーのほか、学会活動にも取り組む。
著書に『40代から始める 攻めと守りの資産形成』、『株式投資 長期上昇の波に乗れ!』、『本音の株式投資』、共著に『ROEを超える企業価値創造』。いずれも日本経済新聞出版発行。
主な出演番組:テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「日経ニュース プラス9」、BS-TBS「Bizスクエア」。

姉妹サイト