ダイハツが2023年12月20日に公表した「第三者委員会による調査報告書」が話題になっている。すでに報じられた「不正行為」の実態調査と原因分析を行い、再発防止策を提言したものだが、その内容があまりにも「日本企業あるある」だというのだ。
報告書は、4月のドアトリム不正と5月のポール側面衝突試験不正に加え、新たに25の試験項目で174個の不正行為を確認。これを受けて、国内外で生産中のすべてのダイハツ開発車種の出荷が停止されるという前代未聞の事態となっている。
管理職に相談しても意味なし、問題報告すると詰問
報告書で注目されているのが「本件問題の発生原因」の箇所だ。「不正行為が発生した直接的な原因及びその背景」として、以下の5つをあげている。
1.過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー
2.現場任せで管理職が関与しない態勢
3.ブラックボックス化した職場環境(チェック体制の不備等)
4.法規の不十分な理解
5.現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化、認証試験の軽視
報告書は2番目の「現場任せ」について、もしも認証試験の過程で現場の担当者が問題を認識すれば、上司である管理職に対する報告や相談を行って「全社的な開発スケジュールの見直し等の対応」を検討して解決を図るのが「本来の姿」とする。
しかし、ダイハツでは「現場の担当者に不正行為を指示・黙認するなどして管理職が登場する場面は見当たらない」とし、「極度のプレッシャーに晒されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた現場の状況になっていた」と指摘する。
委員会のヒアリングでは、従業員から次のような意見が出たという。
「管理職は表向きは『何でも相談してくれ』というものの、実際に相談すると、『で?』と言われるだけで相談する意味が無く、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない」
2015、22年に不正増加が突出
1つめの「開発スケジュール」の問題について、報告書はある従業員がアンケートの自由記載欄に記入した文言を引用している。
「総じてトヨタの期待に応えるためにダイハツの身の丈に合わない開発をリスクを考えずに推し進めたことが大きな要因だと思います」
ダイハツは現在量販車を手掛ける日本最古のメーカーだが、1992年以降はトヨタ出身の社長がほとんどを占め、1998年にはトヨタの連結子会社、2016年には完全子会社化されて上場廃止となった。2013年には21年ぶりの生え抜きの三井正則社長が就任したが、2017年6月には再びトヨタが奥平総一郎社長を送り込み、現在に至っている。
なお、調査委員会が認定した最も古い不正行為は1989年のものだが、不正行為は2015年と2022年に突出して増えている。増加要因として調査報告書は、ダイハツが2011年9月に販売開始した「ミラ イース」の開発を大きな成功体験として、短期開発の促進を加速した影響を指摘している。
時期から考えると、「ミラ イース」の成功はトヨタ出身社長、2015年の不正増加はダイハツ生え抜きの社長の下で行われたということになる。現場が上司のプレッシャーに晒されたように、生え抜き社長も親会社トヨタのプレッシャーを感じたのだろうか。
安全性能担当部署の人員が「コスト低減」で大幅削減
4番目の「法規の不十分な理解」は、法規適合性を確認する業務の担当者でありながら「認証法規に関する研修を受けたことはなかった」「担当者として任されて、正解が分からないまま進んでいる」と供述する社員が散見されたとしている。
しかし、これを担当者の怠慢とだけ断ずるのは早計だ。報告書は、法規認証室が「コストを低減してダイハツの競争力を高める観点から」2011年頃から人員削減を行っていることを指摘。安全性能担当部署において衝突試験の実機評価を行う人員も、同じ時期から大幅な人員削減が行われているとしている。
報告書のグラフを見ると、法規認証室の人数は2009年を100%とした場合、2015年は43%と半分以下に減っているが、不正行為が突出して増加しているのもこの年だ。
安全性能担当部署の人数も、2011年を100%とした場合、2014年に40%に急減し、その後も40%が続いている。2022年には33%まで落ち込んでいるが、この年も不正行為の件数が突出している。
委員会のアンケートにも、従業員から「開発機種の数や日程の厳しさに対して人員が圧倒的に不足していると思います(中略)正社員若手社員の定着率が悪くこれからの担い手が育っていない」と指摘する回答があったという。
同じ悲劇を繰り返さないで欲しい
アンケートには開発部門の組織風土として「『失敗してもいいからチャレンジしよ』でスタートしても、失敗したら怒られる」と嘆く回答もあったという。
ダイハツ経営幹部の問題について、短期開発を「ダイハツらしさ」と捉えて他社との差別化要因とする経営方針を採用する一方で、組織内の歪みや弊害について敏感に察知するリスク感度が鈍かったと指摘する。
自動車メーカーとして致命的な問題を容赦なくえぐり出す報告書だが、末尾は温かい励ましの言葉で締めくくっている。
「前途は多難であるものの、当委員会は、ダイハツの将来を悲観してはいない。調査の過程で当委員会が接した従業員は総じて真面目であり、改善の方向性され間違えなければ必ず信頼を回復することができると期待している。今回の問題を乗り越えて新たな『ダイハツらしさ』を獲得することを切に願って当委員会の報告を終える」
働き方改革総合研究所の新田龍氏は、この報告書を読み「ブラック企業出身者として、過去のいろんな思い出がフラッシュバックして胸が痛かった」と明かし、同じ悲劇を繰り返さないで欲しいと語った。
「おそらく我が国の企業に勤める多くのビジネスパーソンが、報告書を読んで『これウチのことじゃん...』と感じたのではないでしょうか。これは決してダイハツだけの問題ではありません。現場の従業員の皆さんがどれだけ真摯に仕事に取り組んでいても、職場の風土次第では、不正を正当化せざるを得ない状況に追い込まれてしまうこともあるのです。だからこそ経営陣には、従業員一人ひとりの力が真っ当に発揮され、きちんと報われる職場環境を整えることが重要な役割だと自覚していただきたいと考えます」