「オンライン診療ダイエット」のワナ 糖尿病薬を処方する悪徳医師から身を守る方法

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   本来、糖尿病の治療薬を医学的必要性に基づかないのに、ダイエット目的に処方することは「不適正使用」(厚生労働省の2022年改定オンライン診療ガイドライン)なのだが、医師が「オンライン診療」で定期購入させるトラブルが急増している。

   このため、国民生活センターは2023年12月20日、「痩身目的等のオンライン診療トラブル-ダイエット目的で数か月分の糖尿病治療薬が処方される『定期購入トラブル』が目立ちます-」という警鐘を鳴らすリポートを発表した。

   いったい、医師のモラルはどこにいったのか。その悪らつな手口から健康を守るにはどうしたらよいのか。

  • ダイエットしたいが…
    ダイエットしたいが…
  • (図表)ダイエット目的のオンライン診療の相談件数(国民生活センター作成)
    (図表)ダイエット目的のオンライン診療の相談件数(国民生活センター作成)
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  • (図表)ダイエット目的のオンライン診療の相談件数(国民生活センター作成)

主治医から「飲むな」と言われても、キャンセルできない

   国民生活センターによると、ダイエット目的のオンライン診療に関するトラブル相談は、コロナ禍でオンライン診療が始まってからウナギのぼりで急増している。2021年には49件だったのが、翌2022年には4.2倍の205件。今年(2023年)は10月末までに169件と、2022年の1.7倍のペースだ。2年間で7倍になる勢いだ【図表】。

   共通している手口はこうだ。

(1)SNSなどでダイエットの広告を見て興味を持ち、タップすると、オンライン診療サイトに遷移する。

(2)オンライン診療サイトで受診予約をする。サイトの運営事業者と診察する医師(クリニック)は異なる場合がある。

(3)オンライン診療で受診し、薬が処方されるが、処方薬や副作用の説明、基礎疾患の問診などが不充分なケースが目立つ。

(4)後日、自宅に数か月間、継続的に処方薬が送付される。処方薬が合わない、副作用が出ることがあっても定期購入の中途解約ができないことが多い。

   代表的な事例を紹介すると――。

【事例1】基礎疾患の問診が不十分なまま、処方薬を強く勧められた

   SNSにダイエットのオンライン診療の広告が出てきた。オンライン診療を受ければダイエット薬を自宅に届けるという内容だった。予約日時にオンラインで受診し、医師から3種類の薬の説明があった。別の薬を希望したが、医師は「飲んだ70%の人に効果がある。認められている薬」と何度も言い、糖尿病治療薬を強く勧められた。既往症や飲んでいる薬は聞かれなかった。

   3か月分8万円のコースを選び、支払いの手続きをした。昨年入院しており、現在も治療中なので、主治医にオンライン診療で処方された薬のことを相談したら「来年4月まではやめてほしい」と止められた。そこでオンライン診療サイトに連絡してキャンセルを申し出たが、「キャンセルはできない」と言われた。主治医の指導なのにキャンセルできないのか。(2022年11月・50歳代女性)

【事例2】他の薬との飲み合わせや副作用の説明がなく、キャンセルできない

   低血圧、低血糖、精神的疾患で通院、投薬を受けている。薬の副作用で体重が増えたため、SNS見つけた痩身広告を見て興味を持ち、オンライン診療を受診した。薬で痩せるというもので3種類あると言われた。他の薬との飲み合わせや副作用について尋ねたが「わからない」と言われた。その場で保留もできずに3か月コース(約8万円)を申し込んだ。

   そのときは定期購入とは聞いていなかった。また、糖尿病の薬と知り、低血糖の自分が飲んだらいけないのではないかと不安になり、知人の看護師に相談すると「飲まないほうがよい」と言われた。解約を申し出たが電話が繋がらず、メールで申し出ると、「処方後のキャンセルはできません」との返信があった。(2023年3月・30歳代女性)

   このほか、

「毎月約3万円の薬を1か月服用したが、頭痛・吐き気・めまい等の副作用が現れたため、解約したいと思った。メールで『クーリング・オフをしたい』と送信したが、『医薬品はクーリング・オフできない』と言われた」

「オンライン診療の医師から『定期コースにすると安くなる』と勧められたが、『まずはお試しをしたいので、高額でも定期購入は契約しない』と伝えたのに、薬の発送メールで定期購入になっていることを知った。問い合わせ窓口に『契約していないので、新たに届く薬は返品したい』と電話すると、『返品できないので支払ってください』と言われた」

「クーリング・オフを申し出ようとしたが、オンライン診療サイトにメールすると、『当社はプラットフォーマーのため、解約には対応できない』との返信が来た。医師に連絡したいが、連絡先がわからない」

といった事例が相次いでいる。

糖尿病学会が「専門医に対する国民の信頼を損ねる」と警告

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した国民生活センター相談情報部の横山彩香(よこやま・さやか)さんの話を聞いた。

――事例を見ると、かなり悪質な医師たちですね。悪徳業者と組んで、医師のモラルに反した行動をとっているとしか思えません。医師の団体では問題にしていないのでしょうか。

横山彩香さん 国民生活センターでは、こうした事例を日本医師会や日本糖尿病学会などと情報共有をしております。しかし、弁護士会への所属が義務付けられている弁護士と違って、医師は医師会に加入しなくてもよいため、日本医師会では、加入している医師かどうかわからず、具体的な改善策の対応が難しいという立場です。

しかし、日本糖尿病学会ではこうした医師の存在を注視しています。ダイエット目的のオンライン診療で、大量の糖尿病治療薬が処方されていることが原因かどうかは不明ですが、現在、糖尿病治療薬の「GLP‐1受容体作動薬」の在庫がひっ迫している状態です。そのため、日本糖尿病学会は今年(2023年)11月28日、この問題に関する「見解」を発表しました。

そして、「GLP‐1受容体作動薬などを適応外使用である美容・痩身・ダイエットを目的として、処方を宣伝する医療広告が散見される」「本学会員は、不適切な薬物療法によって患者さんの健康を脅かす危険を常に念頭に置き、適切な処方を行ってほしい」「不適切な薬剤推奨は、糖尿病専門医に対する国民の信頼を損ねるもので、本学会として認められるものではない」と警告したのです。

――こういう悪質な医師からだまされないようにするにはどうしたらいいのでしょう。リポートでは「治療内容や処方薬、副作用の有無など、医師の説明をしっかり聞きましょう」とアドバイスしていますが、向こうは医療のプロ、こちらはシロウトです。

現実問題として、事例のように、医師から丁寧な説明がないうえ、あとから副作用が出て、しかも医師と連絡がとれなくなるありさまです。オンライン診療で強引に薬を勧められたら、シロウトには従うしかないのでないでしょうか。

横山さん 確かにそういう面はあります。医師と話をしていて、どうも自分が思っている回答ではない、自分が現在飲んでいる薬との飲み合わせとか、不安に思っていることを聞いてもしっかり説明してくれない、相手に不安を感じる。そんな場合は「セカンドオピニオンを聞きたい」とか言って、そこで、オンライン診療を打ち切ってしまうのも方法だと思います。

「メディカルダイエット」「やせ薬」のキーワードに注意

――なるほど、それはいい方法ですね。ところで、オンライン診療の場合は、あとから契約を解約したいと思っても特定商取引法のクーリング・オフや取り消しに該当しないとリポートにあります。何かほかの方法で解約を求めることはできないのでしょうか。

横山さん 消費者契約法の不当行為である「不安をあおる告知」によって契約を取り消すことはできます。医師が、消費者が抱いている容姿や体型に対する過大な不安を知っており、「痩せるには糖尿病の治療薬が一番よい」と不安に付け込んで不利益になる契約を結んだとすれば、取り消すことが可能です。

これを立証することがなかなか難しいですが、消費者センターに相談するとよいでしょう。

もう1つ、副作用などで健康を損ねた場合は、都道府県や保健所のある地方自治体に設置されている「医療安全支援センター」に相談するといいでしょう。医療に関する苦情や心配、相談に対応するとともに、医療機関に助言も行っています。

――事例をみると、SNSなどで「ダイエット」の検索をしたら「オンライン診療」の広告を見たというきっかけが多いですね。このパターンは、よく「副業」を検索したら、怪しげな投資詐欺サイト広告にひっかかったというケースなどと共通しています。

そもそもですが、この最初の広告を見た段階から身を守る方法はありませんか。

横山さん もちろん、「オンライン診療」そのものが悪いわけではありませんが、問題になる広告は「メディカルダイエット」とか「やせ薬」といったキーワードを入れると、ヒットすることが多いようです。

そこで、診療を申し込む前に丹念にサイトを調べることをおススメします。どういう診療内容か、どういう薬が出るのか、定期購入の解約条件は何か、問い合わせ先が掲載されているか、などを事前にしっかりチェックしましょう。

国民生活センターが2020年9月に最初に「ダイエット目的のオンライン診療」の警告リポートを発表した時は、糖尿病治療薬を「自己注射」させる方法が中心でした。その後、簡単に服用できる経口薬が出てきて、「オンライン診療」による相談件数がどんどん増えています。

私たち国民生活センターも、日本糖尿病学会も、みなさんの健康を心配しています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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