冬のボーナスも支給され、来年(2024年)の賃上げに期待する人も多いのではないか。
ところが、来年の賃上げ率は今年(2023年)の歴史的な賃上げ率をさらに上回るのに、実質賃金のマイナスが続くと予測するシンクタンクリポートが発表された。
どうしてそんなトホホホなことが起こるのか。リポートをまとめたエコノミストに聞くと――。
2年連続で歴史的な高水準賃上げになるが...
このリポートは、みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部の主席エコノミスト河田皓史氏と、調査部の西野洋平氏が2023年12月18日に発表した「2024年春闘賃上げ率の見通し─2年連続で高水準となるも、実質賃金プラス転化は遠い」というタイトルの分析報告だ。
それによると、厚生労働省が2023年8月に発表した「2023年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では、賃上げ率は3.6%となり、1994年以来の約30年ぶりに3%台を記録した。それが、みずほリサーチ&テクノロジーズの予測では、2024年の春闘では3.8%増になるという。2年連続で歴史的な高水準を維持するというわけだ。
その理由について、リポートでは、(1)好調な企業収益、(2)タイト化する労働需給(深刻な人手不足)、(3)長期化するインフレという外部環境、(4)それらを踏まえた政労使の前向きな賃上げスタンス、の4つを挙げている。
しかし、それでも実質賃金のマイナスが続くというのだ。【図表】がその実質賃金の見通しだが、これを見ると、2024年の終わりごろにやっとプラスに転じるありさまだ。
長期化するインフレ進行で、経営者側も折れた
どうして、こういう残念な未来が待っているのか。J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたみずほリサーチ&テクノロジーズの主席エコノミスト河田皓史(かわた・ひろし)さんに話を聞いた。
――賃上げ率がプラス3.8%という予測は、今年の賃上げ率プラス3.6%(厚生労働省まとめ)より高いです。その要因として4つの理由をあげていますが、一番大きいのは何でしょうか。
河田皓史さん まず、深刻な人手不足があります。多くの業界で働き手の取り合いになっています。賃金を上げないと来てくれません。次に企業の収益が好調で、人件費アップの原資があるという点があげられます。
しかし、中でも一番大きな理由は、長期化するインフレの進行です。インフレによって実質賃金が下がり続けているため、近年、強気で労働者側の要求を突っぱねてきた経営者側も、労働者の要求に応じざるを得なくなっています。
この3つがそろっているので、組合側も強気になって、連合が「5%以上」の賃上げ要求水準を掲げたり、金属労協が前年比1.5倍以上のベア要求を決めたりするなど、賃上げ攻勢を強めています。こうした動きに、経営者側も一定の理解を示すようになりました。
――政府の賃上げムードの後押しも効いていますか。
河田さん それも大きいですね。昨日(2023年12月19日)、日本銀行が政策決定会合を開き、大規模金融緩和の維持を決めました。日銀がマイナス金利から脱する出口戦略に踏み切れない理由を、植田和男総裁は「賃金上昇を伴う物価上昇に至っておらず、物価と賃金の好循環が見通せない」と述べています。
もはや、物価上昇を上回る賃上げの実現は、政府や日銀、経済界、労働界が一丸となって目指す目標となっており、一歩ずつ前に進んでいる道中だと思います。
来年終わり頃、やっとプラスに転じるが、0%ギリギリ
――それにもかかわらず、仮に来春3.8%増という高い水準の賃上げが成功しても、実質賃金のマイナスが続くのはなぜですか。
河田さん 【図表】のように、来年(2024年)の春闘時期(3~6月期)の物価上昇率(生鮮食品を除いたコアCPI=消費者物価指数)は2%台後半と予想しています。仮に3.8%増の賃上げ率(ベア+定期昇給)が実現できたとしても、定期昇給が1.8%増前後の見込みですから、ベアは2.0%~2.2%前後となり、2%台後半で推移する物価高には到底追いつきません。
ベアが3%前後にでもなれば、実質賃銀がプラスになりますが、それには5%前後の賃上げ率を実現する必要があります。連合がその水準を要求していますが、過去に労働組合の要求通りになってケースはほとんどありません。
ただ、夏になると少しずつ賃上げ効果が表れてきます。同時に物価も落ち着いてきますから、ようやく来年の10~12月期に実質賃銀がプラスに転じると予測しています。しかし、0%を少し上回るギリギリになるでしょう。
現在、労働組合と経営者側との間で、賃上げムードの醸成が高まっているので、大いに議論が深まることを期待しています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)