岸田政権が大揺れだ。筆者は、今回の政局は財務省発と考えている。
ちょっと穿った見方だが、岸田文雄首相は親戚縁者が財務省官僚も多いために、財務省にとって身内の存在だ。しかし、2023年11月に取りまとめた経済対策で、岸田首相は少し「自我」が芽生えてしまった。財務省関係者なら口に出してはいけない「減税」を言い出してしまった。
結果として、岸田首相の従兄弟で、元財務官僚の宮沢洋一自民党税調会長は、先の臨時国会では所得税減税を処理せずに、来年度予算回し、つまり所得税減税は来年通常国会で処理するとした。これは岸田首相の顔には泥を塗らないが、簡単にやらないぞという財務省の意思表示だ。
安倍派を排除できるのであれば、検察の動きを財務省も後押しするだろう
11月2日の経済対策の閣議決定では、過年度の税収増3.5兆円を還元するとしていたが、11月8日の衆院財政金融委員会で鈴木俊一財務相は、増加した税収増はすでに使われていると、岸田首相のハシゴを外した。
財務省のこうした「倒閣」まがいのスタンスを見て、検察も自民党議員の裏金問題を持ち出してきた。財務省(国税庁)と検察は、ともに国家権力を支える役所として交流が深い。特に、裏金問題は政治資金規正法違反となるが、それだけでは形式犯になりかねないので、税法違反(脱税)まで検察としては持っていきたい。そのところでは、財務省の協力が必要なので、検察は財務省とも水面下で協議しているはずだ。
財務省としては、岸田首相の「自我」を覚醒させ「減税」を吹き込んだ安倍派幹部をよく思っていない。「安倍晋三回顧録」では、財務省と故安倍晋三首相の暗闘が赤裸々に描かれている。その流れを汲む安倍派を排除できるのであれば、検察の動きを財務省も後押しするだろう。
政策より人事をやりたいという岸田首相の悲願かもしれない
岸田首相も、芽生えた「自我」を悔やんでおり、この際、検察や財務省の動きを利用し、安倍派一掃に出てきたとみていい。もともと、安倍首相の暗殺後、安倍派を一掃しようと、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)騒動を利用しようとしたフシもある。今度こそ、安倍派一掃で、自前の内閣を持ちたいというのは、政策より人事をやりたいという岸田首相の悲願かもしれない。
傍から見ると、政権支持率などから見て墜落寸前の岸田政権であるが、人事こそ命の岸田首相は好きな人事を自由にできるので充実感があるのだろう。
いずれにしても、今回の内閣人事で、財務省の思惑通りに、安倍派を一掃し、岸田政権は財務省に恭順の意を表したといってもいい。
しかし、この裏金問題は、どこの派閥にも他党にもある。一部新聞は、安倍派では「裏金」、岸田派では「不記載」と表記を変え印象操作しているが本質的には同じだ。
政治的には、自民党主流派から安倍派を一掃すれば、おそらく安倍派からの報復が次にあるだろう。安倍派は会長不在でまとまらないとも言われるが、仁義なき党内抗争になるかもしれない。政権支持率はさらに低下する可能性がある。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。