「年収の壁」解決にキャリア持つ主婦層の時給アップを 企業も優秀な人材確保しWin-Winに

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   社会保険料の負担などによってパートなどで働く人の収入が減る「年収の壁」問題。政府は2023年10月から「支援強化パッケージ」を打ち出したが、利用者はどのくらいいるのか。

   働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年12月6日、「『年収の壁・支援強化パッケージ』を主婦・主夫層は使うのか?」という調査結果を発表した。

   「利用する」と答えた人は約2割だったが、これは少ないのか、多いのか。調査担当者に聞いた。

  • パートで働くと収入の上限を意識する(写真はイメージ)
    パートで働くと収入の上限を意識する(写真はイメージ)
  • (図表1)2023年に扶養枠を意識して収入上限を設定したか(しゅふJOB総研調べ)
    (図表1)2023年に扶養枠を意識して収入上限を設定したか(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表2)政府の年収の壁・支援強化パッケージを利用するか(しゅふJOB総研調べ)
    (図表2)政府の年収の壁・支援強化パッケージを利用するか(しゅふJOB総研調べ)
  • パートで働くと収入の上限を意識する(写真はイメージ)
  • (図表1)2023年に扶養枠を意識して収入上限を設定したか(しゅふJOB総研調べ)
  • (図表2)政府の年収の壁・支援強化パッケージを利用するか(しゅふJOB総研調べ)

「将来に向けて、自立したい気持ちもある」

   しゅふJOB総研の調査(2023年11月15日~22日)は、就労志向のある主婦・主夫層550人が対象だ。

   まず、2023年を振り返って、扶養枠を意識して収入上限を設定したかどうかを聞いた。収入上限を「年収103万円」(配偶者控除や夫の家族手当支給枠内)にした人が31.6%、「年収130万円や月収8万8000円」(社会保険の扶養内)が16.5%、「年収150万円」(配偶者特別控除枠内)が2.4%と、収入上限を設定した人が約半数(50.5%)に達した。「収入制限なし」の人は36.4%だった【図表1】。

   2024年に収入上限を設定するかを聞くと、「設定する」という人が約半数(49.0%)、「収入制限なし」の人が39.1%と、2023年とほぼ同じ結果だった。

   一方、政府は、130万円などの収入上限を超えても、連続2年までは扶養枠に留まれるなど、「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出している。このパッケージを利用するかを聞くと、興味深い結果が出た。

   「利用して、収入上限を超えても扶養枠内で働きたい」が20.4%、「利用せず、収入上限に収めて扶養枠内で働きたい」が18.4%、そして、「利用せず、扶養枠を外して働きたい」が最も多くて26.4%に達した【図表2】。収入上限を設定するにしろ、しないにしろ、全体的にパッケージを利用しないという人が多数を占めた。

   フリーコメントをみると、2024年に収入上限を「設定する」と回答した人からはこんな意見が相次いだ。

「夫の組合健保が手厚いので、扶養から外れたくない」(30代:フリー/自営業)

「年収がどうとかより、実際育児家事ワンオペなので扶養内程度しか働けない。体力、時間的に」(40代:今は働いていない)

「本当は収入制限なしで働きたいが、年齢的に雇用してもらえないので、130万にしている」(50代:パート/アルバイト)

「私学の助成金のことを考えると、所得を増やせない」(40代:パート/アルバイト)

「扶養を超えると、社保負担で手取りが減り、かつ、夫の税率が上がり税金が増額し、世帯収入も減る」(60代:派遣社員)

   一方、収入上限を「設定しない」と回答した人からはこんな意見が聞かれた。

「子どもが大学生になり、教育費も生活費も不足しているので。将来に向けて自立したい気持ちもある」(50代:契約社員)

「子供が中学生になったこともあり、お金もかかるため、フルタイムで働き出しました。夫婦共に歳もとってきたので、これからはどちらかが倒れてもいいように2本の柱で頑張りたい」(40代:派遣社員)

「少しでも年金額が増えるように、厚生年金をかけたいから」(50代:契約社員)

「扶養枠にしてしまうと、自分の働きたいように働けない」(40代:派遣社員)

「とりあえず、103万円を超えなければ安心」という意識

   J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――2023年に収入上限を設定していた人が約半数(50.5%)、一方、「収入制限なし」の人は約3割(36.4%)でした。やはり、「年収の壁」を意識して働く人が多いのでしょうか。また、「103万円」を上限にする人が多いのはなぜでしょうか。

川上敬太郎さん 仕事と家庭の両立を希望する主婦層は、やはり年収の壁を意識する人が多いのだと感じます。意識している壁は人それぞれで、中でも所得税を払うことになる目安の「103万円の壁」を意識している人が、社会保険加入に関わる「130万円の壁」や、配偶者特別控除に関わる「150万円の壁」より多いようです。

ただ、「103万円の壁」の場合、103万円を超えた分に所得税がかかるので、「130万円の壁」のように壁を超えることで超える前よりも手取りが減ってしまう、いわゆる「働き損」は生じません。

それなのに「103万円の壁」を意識している人が多い理由の1つとして、配偶者が勤める会社が家族手当などの支給要件として年収103万円を上限にしているケースが考えられます。また、年収の壁は複数存在しており、それぞれの違いがわかりづらいことから、「とりあえず103万円を超えなければ問題なさそうだ」と漠然としたイメージで上限を設定している人もいるかもしれません。

――パッケージを利用するかという問いに、「利用する」が20.4%しかいませんでしたが、パッケージへの批判でしょうか。私は「利用せず、扶養枠を外して働きたい」という人が26.4%と、「利用する」の20.4%より多かったことに、働く主婦層の熱い「思い」を感じたのですが。

川上さん 必ずしもパッケージに批判的というわけではないのだと思います。収入を増やしたくても、家庭とのバランスを考えると思うように勤務時間を増やせるとは限らず、利用しようにもできない人が多いのではないでしょうか。それでも、利用する人が2割いるとも言えるのかもしれません。

また、もとから収入制限を設定しない人が多く、2024年の見込みでも「収入制限は設定しない」と回答した人が4割近く(39.1%)に上ります。一方、パッケージを「利用せず、扶養枠を外して働きたい」人はそれより少なく3割(26.4%)を切っているので、パッケージが実施されたことで、これまでは扶養枠に入るつもりはなかったものの、「だったら、パッケージの対象期間だけでも扶養枠に収めよう」と考える人も一定数いる可能性はあると思います。

「年収の壁」前に立ちはだかる「制度理解の壁」

――パッケージには一定の効果があるということですね。ところで、私はフリーコメントの中では、「これからは、どちらが倒れてもいいように2本柱で頑張りたい」「将来に向けて自立したい気持ちもある」といった言葉に胸を打たれましたが、川上さんはどんなコメントに注目しましたか。

川上さん それぞれの言葉から、家族やご自身のキャリアに対する主婦層の方々の強い思いを感じます。一方で印象的だったのは「仕組みが理解できない」など、制度がわかりにくいと指摘する声がいくつも見られたことです。年収の壁も1つではなく、所得税に健康保険、年金、住民税などさまざまあり、それぞれ計算式やルールが違うので複雑で理解するのは大変です。

年収の壁の前に、「制度理解の壁」が大きく立ちはだかっているように感じます。

――「制度理解の壁」も含めて、「年収の壁」問題の解決には、ズバリ、何が必要ですか。

川上さん 扶養枠という制度については、賛否両論があります。それぞれに一理あると思いますが、男性が働いて女性は専業主婦という夫婦モデルをイメージした制度なだけに、兼業主婦世帯のほうが遥かに多い現状とはズレが生じていると思います。

ただ、だからといって扶養枠をいきなりなくしては、既にその制度を前提に生活設計している人たちに大きな影響を及ぼしてしまいます。介護や病気などで働きたくても働けないなど、さまざまな事情を抱えている人がいます。

一方で、扶養枠外で働いて保険料などを納めている人たちから見れば、扶養枠は不公平な制度です。扶養枠をなくすことも視野に入れて、根底から制度を見直す必要があるのではないかと思います。

見直しても見直さなくても、異論が出てしまうのは避けられませんが、見直す際には既に多くの家庭で生活設計に組み込まれている制度であることを踏まえて、相応の移行期間を設けるなど十分な配慮が必要だと思います。

貴重なキャリア持つ主婦に、高い時給の仕事を

――制度の大幅改革の前に、すぐに見直せる解決法はありませんか。

川上さん 仕事と家庭の両立を考えると、どうしても長時間労働は難しくなります。しかし、在宅勤務ができれば通勤時間分を仕事時間に充てることができて、収入は増やしやすくなります。

また、「パートタイマーは低時給でいい」といった固定観念をなくし時給単価が高くなれば、労働時間が短くても収入を増やすことができます。主婦層の中には、結婚・出産前に専門職や管理職として活躍するなど、貴重なキャリアを持っている人がたくさんいます。

企業が短時間勤務でもそれらの経験が生かせるような高単価の仕事を切り出したり、在宅勤務できる環境を整えたりすれば、働き手は収入を増やしやすくなります。それによって年収の壁を大きく超えられるような収入が得やすくなれば、扶養枠自体が不要になるケースが増えます。

一方で、企業はその分、優秀な人材を戦力化したり、労働力を確保しやすくなったりするわけですから、Win-Winとなるのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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