「本当に困っている人」が目に入らない
――私は現在73歳です。日本は昔から「義理と人情」に厚く、「おもてなし精神」に満ちた、気配りが細やかな国と教わって育ちました。それだけに、「世界で最も助け合わない国」という水野さんのリポートにショックを受けています。
ズバリ、なぜ助け合わない国になってしまったのでしょうか。それとも、もともとお互いに助け合わない「冷たい国」だったのでしょうか。
水野さん 私は「冷たい国」だとは言っておりません。しかし、昔の日本人が親切だったかどうか、誰に対しても優しい国だったどうかはわかりません。昔は外国人や障害者に対しては、今よりはジロジロ見たりしていたでしょうから、必ずしも温かい国だったとは言えないでしょう。
誰を助けるかにもよると思います。「Charities Aid Foundation」の調査は、「見知らぬ人」(stranger)が対象です。日本では「ウチ」と「ソト」を分ける国民性もあって、「ウチ」の人々に対しては助け合う気持ちが強い面はあるでしょう。問題は、「ソト」の「見知らぬ人」が困っている時に、助けるかどうかです。
さまざまな調査では、「助ける」と答える人が多いのですが、実際に助けた人の割合が低いのです。
――それはどういうことでしょうか。
水野さん たとえば、東京都が2021年に「外出時に困っている人を手助けしたことがあるか」と「外出時に誰かの手助けを必要としたことがあるか」という調査を行っています。興味深いのは、2つの調査結果の比較です。
「困っている人を手助けしたことがある」と答えた人は約26%います。彼らが実際にどんな手助けをしたかを聞くと、「乗り物で席を譲った」とか「道を教えた」といった項目が多いです。
一方、「外出時にどのような手助けが必要だったか」を聞いた回答では、「荷物を持つのを手伝ってほしかった」とか「階段の昇り降りの時に手助けがほしかった」という項目の割合が高かったのですが、こうした本当に困っている人を助けた割合が低かったのです。