ITスキルが低く、「職場のお荷物」と見られがちなシニア世代。生成AI(人工知能)の登場でますます仕事を奪われると思いきや。
むしろ、シニア世代ほど生成AIによるリスキリング(学び直し)の「底上げ効果」が大きいという研究が発表された。
本当ならうれしい! J‐CASTニュースBiz編集部の73歳シニア記者が研究者の門を叩き、生成AIに初挑戦してみた。
4歳の子どもでも、驚きの絵を描くことができる
筆者(J‐CASTニュースBiz編集部記者、福田和郎)は現在73歳。新聞社時代を通じて記者歴は長いが、IT音痴だ。ガラケーからスマホに替えたのは、ようやく2022年3月。auの3G携帯電話向けサービスが終了することになったからだ。スマホ入力は、タッチペンを使ってのキーボード入力。いつも電車の中では恥ずかしい思いをしている。
パソコン歴は長いが、ワードで文章を打つ程度。未だにエクセル、パワーポイントなどができない。ビデオ通話する方法が難しいので、取材を申し込んだ相手から「オンライン取材ならOKです」と言われると困ってしまう。これまでメール、電話、対面インタビューでしか取材してこなかったからだ。
というわけで、「職場のお邪魔虫になっているのでは」と肩身の狭い思いをしていたところに、救いの研究レポートが現れた。第一生命経済研究所の白石香織さんが2023年11月21日に発表した「生成AIの『底上げ』効果で変わるリスキリング」だ。
白石さんによると、生成AIの登場によって仕事を奪われるのではないかと心配する人が多いが、むしろ逆の面もある。会社の中では弱者の立場の人々、たとえば筆者のようなITに疎いシニア層、あるいは日本語能力が不足している外国人等が、生成AIを活用することでスキルの「底上げ」作用が可能となり、リスキリング(学び直し)の効果が見込めるというのだ。
2023年4月に米スタンフォード大学が発表した研究でも、生産性が低い人ほど生成AIの活用による生産性向上が顕著にみられた。生成AIを活用した業務遂行状況を調査したところ、高スキルの熟練者より、初心者レベルの低スキルの人への影響が大きかった。つまり、生成AIは働く人のスキル格差を縮める効果がある。
白石さんは、レポートの中で自身の8歳と4歳の子どもが生成AIを使って美しい絵を描いたケースを紹介している。「宇宙服を着たサルが宇宙でバナナを食べようとしている絵」と「レゴブロックで作った新幹線と富士山の絵」だ【図表1】。
彼らはまだパソコンを使えないし、タイピングもできない。それなのになぜ、こんな絵が描けたのかというと、音声入力によって生成AIに「指示」を出すことができたからだ。
白石さんはこういう趣旨のことを強調する。
《生成AIのスゴイところは、4歳でも使える点にある。親の監督のもとで、子どもでも簡単にクリエイティブな作品を作り上げることができる。従来の画像ソフトでは、パソコンの知識、タイピングや画像ソフトの操作の習得が必要となり、子どもにはハードルが高かった。しかし、生成AIではそうした知識の習得を省略し、より高いレベルからスタートすることができる》
【図表2】が、白石さんがイメージする「生成AIで変わるリスキリングの領域」だ。たとえば、絵を描く際、プロのレベルを「10」、子どもの絵のレベルを「1」とすると、生成AIとの協働によって、5つの段階を飛ばして「6」からスタートすることが可能になるという。