女性の正社員比率がガクンと下がる「L字カーブ」 解決の決め手は「ニュータイプ」の正社員

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正社員で働くことのみが「正しい姿」ではない

――フリーコメントには心を打つ生々しいコメントが多いです。私が特に刺さったのは、「子育てもキャリアにしてくれたらよいのに」と「中学生になったら働けると思ったのに、小学生より部活や塾が増えて働きにくい」と「育児が終わったら介護の問題が出てくる」でした。川上さんどのようなコメントが響きましたか?

川上さん どのコメントも心に響きましたが、女性の就労をめぐる課題の根深さを感じたのが「L字カーブを解消すると、専業主婦(主夫)の肩身が狭くなるという懸念がある」というコメントです。

L字カーブの解消は必要なことだと思います。ただ、正社員率を上げることが唯一絶対的な目標のようになってしまうことで、正社員で働くことのみが正しい姿のように見えてしまうとしたら望ましくありません。

L字カーブ解消を推進するに当たっては、並行して、何らかの事情で働くことができない人や主婦業に一所懸命取り組んでいる人などが、働いていないことを理由に肩身の狭い思いをしたり、自ら望んで正社員以外の働き方を選んでいる人が、望ましくない仕事に就いているかのように誤解を招いたりしないような配慮が必要だと思います。

――川上さんは「L字カーブ」の解消策として、ノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が問題視している「貪欲な仕事」のアンチテーゼとして、「短時間・短日数正社員」を提唱されていますが、これはどういう働き方でしょうか。

川上さん 企業は女性の戦力化を進めているので、今のままでもL字カーブはやがては解消すると思います。ただし、今のペースでは時間がかかります。ペースを上げるには、大きく2つのアプローチがあります。

1つは、多少強引にでも女性の正社員登用を一気に進めることです。ただ、いま非正規の女性を正社員化すれば、企業の人件費負担は大きく膨らみます。また、正社員で働くことを望まない女性もいますし、いまだ性別役割分業の意識が残っている家庭も多いため、正社員で働いて、かつ家事育児負担は変わらず女性に大きくのしかかり続ける可能性があることなどを考えると、強引な正社員化促進は現実的な方法だとは言えません。

そこでもう1つのアプローチは、正社員という概念を再構築することです。正社員とは法律で規定された言葉ではなく、解釈はマチマチになっています。ただ共通するのは、フルタイム勤務で雇用期間も職務も勤務地も無限定である点です。

企業側から見るとそんな融通性があるため、企業はいざとなれば職務や勤務地を変更させることができる代わりに、極力解雇を回避できるよう努めなければなりません。

しかし、職務や勤務地を限定したとしても主たる戦力として活躍することは可能です。そんな限定的な働き方も認めつつ、限定的である分、企業にとっては融通性が下がる点を考慮した解雇ルールの整備などを進めて正社員の概念を広げることができれば、いまの無限定な正社員のみを基準としたL字カーブを課題視する必要性が薄れます。

――ということは、新しい考え方、新しいタイプの正社員ですね。

川上さん 正社員の概念を広げる考え方です。時短正社員などとも呼ばれる「短時間・短日数正社員」は、通常、お子さんが小さい時の育児に配慮した福利厚生的な働き方として受け止められがちです。確かにそれも大切なことだとは思いますが、短時間や短日数でも十分な成果が出せる能力を有する人は決して少なくありません。

正社員の意味合いを、フルタイムで無限定に働く人だけ、という固定化されたイメージから解放することができれば、働き方の新しい可能性や選択肢はもっと広がっていくのではないでしょうか。
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