企業は今こそ「若者の孤独」と本気で向き合おう 会社も社員も幸せになれる一歩は「たわいもない雑談」から

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   孤独を感じる若者が増えている。一方、企業の上司や先輩は、パワハラなどを恐れて若者に対する接し方に戸惑う傾向もみられる。

   そんな中、今こそ企業が積極的に「若者の孤独」に取り組むべきだと訴える研究が発表された。

   上司や先輩は、若手社員の孤独にどう向き合ったらよいのか。どうすれば若者を救うことができるのか。研究者に話を聞いた。

  • 気楽な会話が一番
    気楽な会話が一番
  • 坂田彩衣さん
    坂田彩衣さん
  • 橘和香子さん
    橘和香子さん
  • (図表1)「日常生活において孤独を感じる人」の割合(野村総合研究所の作成)
    (図表1)「日常生活において孤独を感じる人」の割合(野村総合研究所の作成)
  • (図表2)孤独を感じている時の相談相手の有無(野村総合研究所の作成)
    (図表2)孤独を感じている時の相談相手の有無(野村総合研究所の作成)
  • 気楽な会話が一番
  • 坂田彩衣さん
  • 橘和香子さん
  • (図表1)「日常生活において孤独を感じる人」の割合(野村総合研究所の作成)
  • (図表2)孤独を感じている時の相談相手の有無(野村総合研究所の作成)

正社員の47%が孤独を感じている

   この研究調査は、野村総合研究所の坂田彩衣さんと橘和香子さんが2023年11月2日に発表した「今こそ企業が向き合うべき『若者の孤独』」というタイトルのリポートだ。

   リポートによると、20代~30代の若者のうち47~50%が日常生活で孤独を感じている【図表1】。しかも、孤独を感じているのは企業に勤める正社員でさえ、47%に達している。

   彼ら/彼女たちには、相談相手がいない。「相談する相手がいる」あるいは「すでに誰かに相談している」という人は32~36%しかいない【図表2】。

   坂田さんと橘さんが、「今こそ」企業が若者の孤独問題に真正面から向き合うべきだと訴える第1の理由は、まず、20代~30代の孤独を感じる人の7割が「企業に勤める若者」であることだ。

   彼ら/彼女たちは、自治体等の公的支援から手が届きにくい。また、レッテル貼りを恐れて、自分から進んで相談機関に赴こうとしない。彼ら/彼女たちが日常生活で多くの時間を過ごす企業こそ、救いの担い手になるべきだという。

   もう1つの理由は、孤独が企業の労働生産性を下げているというデータがあるからだ。孤独な社員はストレス関連の欠勤率が高い。また、上司から受ける業績評価も低くなり、ますます孤独が悪化する悪循環に陥る。

   2024年度には「孤独・孤立対策推進法」が施行される。コロナ禍を乗り越えて、新しい時代に向かう今こそ従業員が生き生きと働ける環境を整えておこうと企業に呼びかけるのだった。

   J-CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた野村総合研究所の坂田彩衣さんと橘和香子さんに話を聞いた。

――リポートでは、企業が若者の孤独対策に取り組んだほうがいい理由として、「企業に勤める若者は、行政などの公益支援が届きにくい」と「社員の孤独が労働生産性を下げている」という2点を中心にあげています。

それ以外に、企業側に若者の孤独対策に取り組む積極的なメリットはありますか。

坂田彩衣さん なぜ「今こそ」と強調したかというと、具体的な症状が出始める前に予防的な措置を講じておくべきと考えたからです。

例えば、孤独や他の事象が重なって「うつ」になり、休職したり、離職したりする人が増えています。うつ病などの具体的な症状が出てから産業医やカウンセラーにかかるかたが多く、ただそれでは元の状態に戻るのに時間がかかります。そうなる前の段階で、孤独予備軍とされているかたたちに、自分の孤独と向き合う方法を身につけ、また企業もそれを後押ししてほしいと考えています。

私たちの調査では、「日常において孤独を感じる」人が、20~30代で50%近くいます。正社員でも47%に達し、うち14%の人が「深刻な孤独を抱えている」と訴えています。深刻な状態となる一歩手前の人たちを救うことは、企業にとってもコストの削減につながるはずです。

「ご近所付き合い」のような気楽な雑談を

――正社員でも半分近くいるのですね。その人たちの孤独対策に取り組むには、何から始めて、どう進めればいいのですか。

橘和香子さん 先輩や上司からは、最近の若者はクールで何を考えているのかわからないと見られがちですが、私たちの調査では、多くの人が「話しかけられたい」「気にかけられたい」「たわいもないコミュニケーションを取りたい」と回答しており、格式ばった相談や、専門家のアドバイスではなく、気軽な雑談を求めていることがわかりました。

かといって、いきなり「何、悩んでいるの?」とグイグイこられるのは嫌がられます。これではどのように声がけをすればよいのかわからないというご意見もよくいただきます。

そんなときは「ご近所付き合い」のような関係をイメージして頂けると良いかと思います。話しかける側も意気込まず、ご近所さんと同じようにまずは、「おはよう」「最近どう、元気?」といった気楽なコミュニケーションから始めたほうが良いと思います。

――「ご近所」のようにコミュニケーションをとるのも結構、難しいですね。

橘さん 確かに、「気にかけられたい、話しかけられたい」けれども、アドバイス等は求めていないという面では、対応が難しいという印象を受けるかもしれません。また、若者に限らず人は悩みの内容や深刻さによって相談相手を選びます。

ただ、今まで一度も気楽な会話を交わしたことがない相手は相談相手になれません。また、仕事の話しかしたことがない相手には、悩みを打ち明けにくいのではないでしょうか。一方で、若者たちがたわいもないコミュニケーションを求めていることは確かです。そのため、普段から若者が話しかけやすい関係を複数築いておくことが重要かと考えます。

――まず、若者と「気楽な雑談」を交わすことがスタート地点として、それをどうやって社内に周知徹底させればいいのでしょうか。会社のトップが全員メールで奨励するのでしょうか。それとも、昭和の企業のように壁に「気楽な雑談を!」とスローガンを張り出しますか。

橘さん 周知徹底までは必要なく、むしろ全員に推奨すると義務感が出てしまい、気軽なコミュニケーションがとりづらくなる恐れもあります。まずは職場のかたの認識を変えることが必要です。管理職研修の場などで、マネジメントの一環として雑談の重要性や有用性を紹介してもいいと思います。

逆に若い世代は、仕事中かもしれない先輩に話しかけてよいかわからない人もいます。"話しかけて良い"と思ってもらうことから始める必要もあるかもしれません。職場の雰囲気や職種、在宅勤務の有無によっても変わるので一概には言えませんが、職場にコーヒーブレイクできる場を設けるのも一つの案です。

そこにいる時間、集まってきている人は仕事を一時中断してきているわけで、「話しかけてもよい」と認識されるので、雑談が生まれやすいと考えます。また、そうした場の設置がなくても、例えば商談先への行き帰り、エレベーターの中でも気軽な会話は始められます。

新入社員と役員が「家族」になるコーセーの取り組み

――ところで、日本国内ではどんな企業が、若者の孤独対策に力を入れていますか。

坂田さん 化粧品製造、販売のコーセー(東京都中央区)が、「セカンドホーム計画」として、年齢や職種が異なる社員5人ほどで「疑似家族」を作るという、ユニークな試みを2022年秋から行なっております。

コーセーの広報担当者に話を聞かせてもらったのですが、ベテランと若手、あるいは、入社1年目の社員と執行役員が「家族」になり、オンラインで月に1回、会話の機会を持つのです。仕事の話はほぼなし。「この間の休みは何をしていたの?」とか「初詣はどこに行ったの?」といった気楽な話題が中心です。

若手社員からは「自分の応援者が増えたような気がする」、ベテラン勢からも「若い人が何を考えているかつかめず、どう接したらよいかわからなかったけど、いいきっかけになります」という声が聞かれて、好評だったようです。

この「疑似家族」の注目すべき点は、マネジメント層ではなく、新入社員のアイデアをしっかり形にしたことです。新人研修の一環として、社内コミュニケーションを活発にする企画を考案してもらい、そこから生まれた企画を全社で採用・実践するという点が、「若者が欲していることは、若者に聞け!」の好例だと思います。

――そもそも、役員がいるフロアと新入社員がいるフロアが違うところが多いく、接する機会はほとんどありませんから、画期的な取り組みですね。ところで、海外ではどんな例があるのですか。

坂田さん 英国のチューリッヒ保険の慈善部門「Zurich Community Trust(ZCT)」が行っている「テレフォン・フレンドシップ・プログラム」という電話ボランティア活動があります。19の企業パートナーが参加して、普段企業に勤める450人以上の従業員が、日常の業務の傍ら、孤独な高齢者に電話をするのです。

従業員と高齢者は、音楽やスポーツといった共通の趣味等を元にマッチングをされており、継続的にペアを組みます。会社の方針もあって引き受けた従業員からすれば、「会ったこともない目上の人と話すなんて、面倒くさいな」と思うこともあるでしょう。しかし、孤独に悩む高齢者と話すことによって、逆に従業員自身が救われている面もあるのです。

また、従業員が「自分は人の役に立っている」という充実感を本業とは別の場所でも得られて、それが結果的に仕事に対する満足感向上にもつながっているそうです。

副業のススメが、孤独の解消につながる理由

――実に、いい話ですね。お年寄りは若者より人生経験が豊かですから、雑談の中からアドバイスできることがいっぱいありそうです。ただ、孤独解消のために社員にボランティア活動を勧めるとなると、ちょっとハードルが高いと感じる企業が多いのではないでしょうか。

坂田さん ZCTの例のように、従業員と高齢者双方にメリットがあるのであれば、日本でもそうしたボランティア活動を社員に紹介してくれる企業が増えるとよいなと思います。また、副業のような制度も一つの選択肢として考えられるのではないかと思います。

企業が社員に副業の解禁、奨励をする場合、副業で身につけた多様なスキルやノウハウを自社に還元してもらい、事業拡大に役立てる。あるいは、副業を認めることで、さまざまなスキルや経歴を持つ優秀な人材に来てもらうといった実利的なメリットを想定していることが考えられます。

一方で、副業の緩和は、社員にメンタル面でのメリットももたらすのではないかと想像します。副業によって、新しいコミュニティーが生まれ、人間関係が広がります。それまで家と会社だけだった居場所に、もう1か所「サード・プレイス」(第3の場所)ができ、新たな役割が増え、気軽に雑談をできる相手が増える可能性があるのです。

特に趣味のない人やボランティアが苦手な人でも、副業なら収入が増えるし、新たな相談先の選択肢が増えますから、一石二鳥ですね。

――ところで私は現在、70代です。昭和の企業では、「社員の孤独」などほとんど意識したことがありません。会社の運動会、職場対抗のボーリング大会、ライバル会社との草野球試合、家族も参加した社員旅行、忘年会、新年会、徹夜の飲み会など、社内イベントが目白押しでした。

昼休みには、ビルの屋上や近くの空き地で輪になり、バレーボールをしたものです。こうした社内イベントを復活させる方法もアリだと思うのですが、いかがですか。

橘さん 皆で何かをするからといって孤独が解消するわけではありません。そういったイベントを復活させる場合、参加が義務ではなく、出たい人だけが出るのなら、いいと思います。

ただ、明示的なルールはなくても出なくてはならない雰囲気があり、イベントの幹事役を若者がやらせられるようなら、今の若者には受け入れられないでしょう。参加はしないかもしれないけど、自分が参加してもよいイベントや場があるという事実は、若者の心理的安全性の確保にもつながります。

職場には従業員の「幸せの種」が落ちている

――最後に、「若者の孤独問題」に企業を取り組むうえで、特に強調しておきたいことがありますか。

坂田さん 孤独は誰もが持ちあわせる可能性があり、特別なものでも病気でも何でもなく、自分の機嫌の取り方や孤独との向き合い方を身につけながらうまく付き合っていくことが必要です。それを手助けする場の一つとして職場があり、せっかく多くの時間をそこで過ごすのであれば、職場によいきっかけが散りばめられているとよいなと考えています。
橘さん 若者は交流を求めていない、何を考えているかわからないと思う方も多いかもしれません。しかし、今回明らかになったように若者も気軽なコミュニケーションを求めている人が多くいます。お互いにコミュニケーションを求めているのに、世代間での認識のずれからうまく交流できていないだけかもしれません。

今回は若者の孤独に着目しましたが、孤独の予備軍であるのは若者以外も同じです。企業においてコミュニケーションを活性化していくことは若者以外にもメリットがあると考えています。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


坂田彩衣(さかた・あい)

野村総合研究所社会システムコンサルティング部シニアアソシエイト
King's College London卒、Msc Gerontology(老年学修士)。2014年野村総合研究所入社。専門は、ジェロントロジー、高齢社会政策、孤独・孤立政策など。
同僚の橘和香子さん、平本涼さんとの共同研究リポートに「アフターコロナで変わる生活、解消されない孤独-3カ年の継続調査からみえてきたこと-」などがある。

橘和香子(たちばな・わかこ)

野村総合研究所社会システムコンサルティング部シニアアソシエイト
早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻(修士)。2019年野村総合研究所入社。建築・防災、孤独・孤立対策、地域支援など。

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