旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の創業者、ジャニー喜多川氏=2019年に87歳で死去=による性加害事案を積極的に報じなかった「メディア」の責任が問われるなか、TBSホールディングス(HD)は2023年11月26日、外聞員として弁護士2人を交えた特別調査委員会による社内調査結果の報告書を公表した。
焦点のひとつが、喜多川氏が起こした訴訟をめぐる司法判断の扱いだ。判決に関する報道は「皆無」で、背景には「人権意識の希薄さや週刊誌報道の軽視」があるとした。一方で、ラジオについては「完全に沈黙していたわけではなかった」とも指摘。ただ、性加害事案について言及したのは「パーソナリティ」「コメンテーター」など、外部の出演者がほとんどだ。
「2005年に『ストリーム』で、書評家がジャニーズ事務所の暴露本を紹介して言及」
喜多川氏による性加害問題は1999年~2000年にかけて週刊文春が報じ、喜多川氏とジャニーズ事務所が、計1億円余りの損害賠償を求めて東京地裁に提訴。一審の東京地裁判決では性加害の事実を認めず、文春側に計880万円の支払いを命じたが、二審の東京高裁判決では「その重要な部分について真実」と認定。賠償額を120万円に減額した。ジャニーズ側は上告したものの、最高裁は04年2月に上告を棄却。高裁判決が確定した。
報告書によると「結論から言えば、地裁から最高裁まで放送は皆無だった」。TBSがテレビで性加害問題をニュースとして初めて報じたのは2023年の4月21日夜の「news23」だった。
ラジオについても「2003年の東京高裁判決、2004年の最高裁決定を放送した事実は確認できなかった」が、「その後も完全に沈黙していたわけではなかった」とも指摘している。
元ディレクターがヒアリングに対して
「少なくとも2005年に『ストリーム』で、書評家がジャニーズ事務所の暴露本を紹介して言及したほか、2010年に『小島慶子キラ☆キラ』で、有名芸能リポーターの死去に関連してゲストのジャーナリストが言及した」
と振り返ったという。
この記述に反応したのがインタビュアーの吉田豪さん。「吉田光雄」名義のX(旧ツイッター)アカウントに
「ボクがTBSラジオ『ストリーム』の『コラムの花道』で木山将吾『smapへ』を紹介したのが05年12月26日だったから、その可能性有り」
と書き込んだ。「smapへ」は、喜多川氏による性加害について触れた書籍だ。
カウアン・オカモト氏会見は「把握していなかったため取材しておらず」
さらに報告書では、23年3月27日の「荻上チキ・Session」で性加害問題を扱った英BBCのドキュメンタリーについて言及し、4月12日の同じ番組では、日本外国特派員協会で行われたカウアン・オカモト氏の記者会見についてニュースとして報じ(編注:共同通信の配信原稿を使用)、「パーソナリティがコメントした」。4月15日の「ナイツの ちゃきちゃき大放送」でも、「コメンテーターが会見についてコメントしている」とした。
上記の番組でニュースとして扱われたのはカウアン・オカモト氏の記者会見で、テレビよりも早く性加害問題を報じたといえる。それ以外は「書評家」「ゲストのジャーナリスト」「パーソナリティ」「コメンテーター」による発言だ。外部の出演者が言及したことで、結果的に番組としても性加害問題を扱った形になっている。
なお、TBSはオカモト氏の記者会見を取材しておらず、報告書の「BBC 報道以降の放送対応」の項目で「本件における最大の問題」だと指摘されている。次のように、会見が開かれることを把握していなかったことが原因だとしている。
「当日の午後のニュースを担当する編集長がオカモト氏の会見に気付き、社会部デスクに『ニュースに入れられるか』と尋ねた。しかし、社会部として会見を把握していなかったため取材しておらず、出稿できなかった。その後、『news23』の編集長も社会部に『映像はないのか』と問い合わせたが『カメラを出していない』との返事だった」
TBSでは特派員協会の会見予定を「テレビ各社の映像取材部間で共有されるファックスで把握していた」が、このファクスを確認できていなかったという。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)