2023年10月下旬、電車内で高齢男性がぐずり出した赤ちゃんに激高する動画がX(ツイッター)に掲載されて注目を集めた。
J-CASTニュースが報じると、子どもを持つ親から「同じような体験をした」という旨の共感の声が多く寄せられた(詳報:高齢男性、電車で泣く赤ちゃんにブチギレ 親に「人間失格」と大暴れ、制止されるも「甘やかすから日本が駄目になる」...緊迫の一部始終)。
公共の場での赤ちゃんの泣き声ついては、たびたび議論の的となってきた。「ベビーカーを蹴られた」などという体験談もSNSで数多くあがっている。どうすれば親がより安心して子育てしやすい環境になるのか。識者は「親子に温かく優しい日本になるためには、まず人々が自分自身に温かく優しくあることが大切だと思います」と見解を述べる。
「電車で赤ちゃんとママやパパをみかけたら...」
物議を醸したのは、電車内で赤ちゃんがぐずり出だすと男性が「うるさいよ!黙りなさい!」と杖を叩きつけながら叱咤してきた様子だ。男性は近くに座っていた人に嗜められると「あんたみたいに甘やかすのがいるから日本が駄目になる」などと言っていたという。
周囲にいた複数の乗客が男性にかわるがわる注意したが、そのたびに「黙らせられない親を見ると腹が立ってならない」「あんなのは親としても人間としても失格」といった暴言を20分間ほど口にしていたという。男性はその後、駅員と警察に引き渡された。
SNSでは、同じような体験をしたことがある子育て世代から共感のコメントが相次いだ。
こども家庭庁こども家庭審議会部会委員で、著書に「子育て罰 『親子に冷たい日本』を変えるには」がある末冨芳氏は、子育てを『自己責任論』とみなして子どもや親に冷たく厳しい政治や社会のあり方を「子育て罰」と同著書で定義する。子育てで大変な思いをする親に対し、社会や政治が罪を課しているのだという。
11月9日、J-CASTニュースの取材に応じた末冨氏は、「子育て罰」が横行する現在の日本の現状について、「明治日本が子ども天国と呼ばれ、お父さん同士が赤ちゃん自慢したり、子どもを大切にしていた状況から劣化した令和日本です」と話す。
では、どうすればより親が子育てしやすい環境を作れるのだろうか。末冨氏は次のように見解を述べる。
「親子に温かく優しい日本になるためには、まず人々が自分自身に温かく優しくあることが大切だと思います。お願いしたいのは、電車で赤ちゃんとママやパパをみかけたら、特に泣いている赤ちゃんをみかけたら、なるべく笑顔で温かく見守ってあげてください。ママやパパはそれでほっとします」
子育ては罰ではなくボーナスとなる
末冨氏は前述の著書で、日本社会は大人が子どもに優しくできなくなっていると指摘。当たり前のように子どもに厳しい態度をとる社会が「子育て罰」を支えているという。
そこで子育てが罰ではなくボーナスとなり、社会が応援してくれる「チャイルドボーナス」という概念を紹介。社会の空気だけでなく、具体的な所得の再分配で補償し応援することで、親子が前向きな気持ちを持つようになるという。「子どもたちに対して『この社会に生まれてきてくれてありがとう』という気持ちを、少しずつでいいから、みんなに持ってほしいんです。その気持ちが子どもと親へのチャイルドボーナスになる」とした。ただ、日本では子育て罰をなくすことから始めるべきと提唱した。
ベビーカーを蹴るような人は、子どもに対して「この社会に生まれてきてくれてありがとう」とはならないだろうと推測。結局は「子どもにお金がかかること」「それを親が担わなきゃいけないこと」が子ども嫌いを社会に蔓延させている原因で、「子どもを産み育てることが楽しい社会ではなくなっている」と指摘する。子育てを辛いものではないと思わせる社会にするためには、教育の無償化などが重要だとした。
電車で赤ちゃんの泣き声に怒鳴る高齢者についてどう考えるか。末冨氏は次のように述べる。
「子育てしてない高齢男性が、赤ちゃんや若いママをターゲットにする典型的な赤ちゃんハラスメントだと感じました。ただし、最も弱く守られるべき存在の赤ちゃんに怒りのはけ口を向けなければならない高齢男性も、良い状況にはないだろうことも心配です。しかし、たくさんの方が、赤ちゃんとママ・パパを守ろうとしてくださり、日本も捨てたものではないなとあたたかい気持ちになりました」
自身も子育ての経験がある末冨氏。子どもが小さかった頃は、怒られた経験はないが、わざとベビーカーにぶつかられ怒鳴られた経験はあるという。
「泣いてもまわりの人はあたたかくスルーくださるか、『赤ちゃんは泣くのが仕事よ』など励ましてくださる方もいました。若い男性2人組が、泣いていても『赤ちゃんかわいい』と声をかけてくださったことも忘れられません」
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