「時季指定権」のグローバルスタンダードは
労働者の権利にもかかわらず、なぜ退職に際して社内の圧力で有給全消化できない事例が生じてしまうのか。アンケートでは退職者のうち2割にもなる。鶴氏は、問題の全体像のメカニズムを説明しなければ、原因は理解できないとする。
退職時に全消化という話が起こる、逆に言えば、日本では消化がなかなか進まない。後者はかねて指摘されている事柄になるが、根源は同じだという。日本も変わってきていると前置きつつ、雇用システムの特徴、休みに対する考え方、法律に関して欧米との違いを指摘した。
まず法については「時季指定権」を挙げる。日本でも有給取得を促進する狙いで定められた。鶴氏は、有給の「義務化」というよりも「使用者が責任を負っている」という視点を示す。
「本来、年休というのは全て取れるようにむしろ使用者が責任を負う、という仕組みがグローバルスタンダードです」
経済協力開発機構(OECD)に5年務めた経験から、パリ時代を振り返る。国際機関に限らず、夏に長期休暇を取るのが当たり前で、出社すれば家族と不仲かと思われるような価値観があった。残業も同様、忙しい時に自宅へ持ち帰る場合はあっても職場で遅くまで働かないという。
夏の計画は年明けすぐ、上司も責任があるため、早めに相談して決める。部下の休みが重ならないよう配慮はあっただろうとするも、自分の都合で取得でき、トップに近い立場は例外として基本的に7月中旬から8月は「開店休業」状態だった。代わりに次の様子がみられたと伝える。
「パリ祭(フランス革命記念日)が7月14日にあり、そこから夏休みが学校でも始まるため、それに向けた仕事の集中力はものすごかったです。7月上旬は形相が違う。とにかくここで仕事を終わらせないとと、昼もサンドイッチを食べながら仕事するといった状況でした」