福岡市中心部の天神地区で進む再開発事業「天神ビッグバン」プロジェクトでは、2023年は「九州初の5つ星ホテル」の開業が大きな話題になった。
開業したのは、外資系ホテルチェーン、マリオット・インターナショナルが手掛ける「ザ・リッツ・カールトン福岡」。日本では6か所目で、九州は初進出だ。そのすぐ隣には老舗として知られる西鉄グランドホテルがあるが、西日本鉄道(西鉄)の林田浩一社長は、客足について「はっきり言って全く影響ない」と断言した、ターゲット層が異なり、競合は起こらないとみているためだ。リッツ・カールトンに泊まる要人の随行員が西鉄グランドに泊まるといった相乗効果も期待している。
最低10万円 vs 1万4444円
リッツ・カールトンは、天神ビッグバンの一環として建設された地上25階建て複合ビル「福岡大名ガーデンシティ」の上層階に入居。6月21日に開業した。これまで、福岡市には外資系高級ホテルの不足が指摘されてきた。19年に日本で初めて開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議は福岡市での開催が有力視されていたが、結局は大阪市で開催(福岡市では財務相会議を開催)。ホテルの収容数や、「5つ星」ホテルがないことがネックになったと考えられている。
西鉄が11月20日に東京都内で開いた事業戦略説明会で、リッツ・カールトンとの関係について問われた林田氏は、
「(リッツ・カールトンは)最低でも10万円という室料を取ってらっしゃるので、もう全然ターゲットが違う。違うので、はっきり言って全く影響ない」
と説明した。西鉄広報課によると、23年10月の西鉄グランドの客室単価は1万4444円で、リッツ・カールトンとは大きな差がある。稼働率は83.4%と好調だ。
西鉄グランドは、戦後の天神の発展に後押しされる形で開業。西鉄の「創立110周年記念誌」(18年)には、次の記述がある。
「オフィスやコンベンション施設、文化施設の増加にともない天神地区にも本格的なホテルを望む声が日増しに高まっていた。西鉄は1969年4月21日、福岡市初となる本格的なシティホテルとして西鉄グランドホテルを開業した。翌5月には毎日福岡会館に東急グループ初の九州進出となる博多東急ホテルが開業し、天神をはさむ形で東西の端に本格ホテルが誕生したのは時代のニーズであった」
国際会議誘致で「これまで来なかった客層の方々が来られる」
林田氏は「歴史だけはしっかりあるもんですから、固定客のお客様が非常に多いところがあって...」とも話し、固定客のリピート増と全国的な客室単価上昇で「いい影響に、むしろなっている」とした。
リッツ・カールトンの開業で国際会議の誘致に成功すれば、西鉄グランドが受け皿になることにも期待を寄せた。
「これまで来なかった客層の方々が来られて、お付きの方もたくさん来られる。当然、海外の報道(機関)の方もたくさんお見えになる。そういった方々の受け皿としても、私どものホテルは松竹梅取りそろえているので(編注:西鉄は『ソラリア』『クルーム』など複数ブランドを展開している)、十分に対応できて需要も見込めるのではないかと...。プラスの効果しかない」
西鉄グランドの利用客からは、開業から55年が経過しようとする中で「風格が出てきた」といった声も寄せられているといい、林田氏は
「明確な差別化の中で、むしろ貴重な存在として今後もその役割を発揮していくのでは」
と話した。
福岡大名ガーデンシティの開業は、福岡市が進めてきた大名小跡地の再開発事業の一環。積水ハウス、西鉄、三菱地所、西部ガス、西日本新聞などでつくる企業グループが優先交渉権を得て実現したという経緯がある。そのため、ザ・リッツ・カールトンが入居する福岡大名ガーデンシティの成功は西鉄の利益にもつながる、という側面もある。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)