「原発処理水で困っている。助けて!」悪質な海産物販売商法が横行 同情して買ったらトンデモ中身

   岸田文雄首相と習近平主席のトップ会談でも解決しなかった、福島第1原発処理水放出をめぐる日本産海産物の輸入規制問題。

   そんな漁業者の苦境を逆手にとり、「水産業者を助けて!」と同情心に付け込んで海産物を売りつける悪質な電話勧誘販売が横行しているため、国民生活センターは2023年11月8日、「海産物の電話勧誘トラブル 年末にかけて特に注意してください!」という注意喚起の報告書を発表した。

   2023年度上期(4月~9月)の被害相談は1183件に達し、電話で断っても一方的に送り付けてくる業者も多い。防ぐにはどうしたらよいか。

  • 新鮮なズワイガニならまだしも(写真はイメージ)
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「日本の海産物が海外で売れない。助けて」

   国民生活センターによると、こんな事例が代表的だ。

【事例1】母のところに、「以前購入された方に電話をしています。現在日本の海産物が海外で問題になっていて、売れない状況にあります。助けてください」と電話があった。2~3万円と高額だったため、母は曖昧に返事をしたようだが、電話を切ってから、商品が届くのではないかと不安に思い、私に相談してきた。

電話口で会社名を聞いたがはっきり言わず、電話番号もわからない状況だったため、私が母の携帯電話の着信履歴を見て、相手先事業者と思われる番号に電話をしているが、コール音が鳴るだけで誰も出ない。商品が届いた場合の対処法を知りたい。(2023年9月・契約当事者80歳代女性)

【事例2】携帯電話に着信があり、「北海道の支援のために海産物を買ってほしい」と言われた。「北海道の事業者から仕入れていて、内容も良いし、損はさせない」と言われたので購入することにし、代引きで約2万円を支払った。

届いたものを見ると、とても代金に見合わないものだった。商品の中に「内容について疑問の方は返品もクーリング・オフもできる」と書いてあったため、事業者に電話して返品と返金を求めたところ、了承された。しかし、返品してから2週間以上たつが、いまだに返金がなく、事業者が電話に出なくなった。(2023年8月・50歳代男性)

【事例3】自分の携帯電話に知らない携帯電話番号から「以前注文いただいたものです。北海道の海産物はいかがですか。1週間後に届けます」と電話があった。約2万円分を注文し、後日銀行振り込みで支払うことにした。携帯電話のアドレス帳に以前に北海道で海産物を注文した事業者の電話番号があったため、念のため電話で注文を確認したところ、その事業者には注文していないことがわかった。

不審に思い、翌日、今回勧誘してきた事業者に電話で「注文をキャンセルしたい」と申し入れたところ、了承されたが、後日事業者から契約書が届いた。解約できているか心配だ。(2023年5月・70歳代男性)

人の善意・同情心に付け込む電話トークが巧み

   J-CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した国民生活センター相談情報部の安井大智(やすい・たいち)さんに話を聞いた。

――毎年年末が近づくと、海産物の強引な電話勧誘トラブルが起きていますが、そもそもなぜ、農産物でなくて海産物なのでしょうか。

安井大智さん 海産物だと特別感が出るからでしょう。農産物なら、近くの八百屋やスーパーですぐ買えますが、タラバガニやズワイガニはそう簡単には手に入りません。しかも、農産物は安いです。儲けを考える事業者にとって、海産物だと1ケースで数万円の値段をつけられますが、大根や白菜、リンゴや柿で数万円分の値段をつけるとなると、かなり大きな梱包となってしまいます。

実は、今回の報告書は悪質業者の摘発に力を入れている北海道警察本部と合同で出しております。海産物を送り付けてくる業者の送付状をみると、北海道内からが非常に多く、実際、今年6月、北海道警察本部が特定商取引法違反で札幌市内の会社役員らを逮捕しています。

北海道の人にとって、海産物はすぐ近くで買えるので、被害相談はほとんどなく、大半が本土の人々です。

――なぜ、見知らぬ業者からいきなりかかってきた電話で、数万円単位の海産物を買ってしまう人が多いのでしょうか。

安井さん 消費者の善意・同情心に付け込む電話トークが非常に巧みなのです。少し前までは、「東日本大震災の被災地の漁業を救ってください」とか「福島の復興に協力してください」とか「コロナの影響での商品が売れなくなった業者を助けてほしい」という訴えが多かったです。

現在多いのは、「福島原発の処理水で、風評被害に遭っている業者を助けてほしい」とか「中国やロシアが日本の水産物輸出をストップしたため、ホタテやカニが売れなくて困っています」とか「中小の漁業者の倒産が相次いでいます」といった決めセリフです。

電話口でそういわれると、「それならば」と心を動かされる人が多いのです。

すぐに「クーリング・オフ」を通知しよう

――社会情勢を強引商法に取り入れることが巧みな連中ですね。被害に遭わないようにするにはどうしたらよいでしょうか。

安井さん まず、少しでもおかしいと思ったら、キッパリ断って電話を切ってください。少しでもあいまいな返事をすると、向こうは「了承を得られた。契約が成立した」と一方的に決めつけて、商品を送り付けてきます。

電話機のナンバー・ディスプレイ機能を利用して、知らない電話には出ない、あるいは常時留守番電話にしておくことも一法です。

電話で海産物購入を承諾してしまった場合でも、特定商取引法に定める「電話勧誘販売」に該当しますから、「クーリング・オフ」(契約を無条件で解除できる)ができます。書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面またはメールなどにより「クーリング・オフする」と通知するだけでいいのです。

――断ったつもりなのに、一方的に荷物が届いてしまった場合はどうしたらよいのでしょうか。

安井さん 本来契約が成立していないのですから、代金を払わずに宅配の受け取りを拒否することができます。仮に、自分が留守の時に家族が受け取って代金を支払った場合でも、契約不成立なのですから、業者に返金を求めることができます。

この場合も、「言った」「言わない」の議論になる可能性がありますから、「クーリング・オフ」の通知をすぐに出しておくことが、現実的な解決の早道になるでしょう。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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