コストコの建設予定地にある埋蔵文化財について、山梨県南アルプス市教育委員会が発掘調査を行った後に一般公開もせずに埋めたと、朝日新聞がデジタル版などで報じて、識者からX(旧ツイッター)上で異論が出ている。
市教委も、「きちんと調査したにもかかわらず、法律違反かのような印象を与える記事は心外だ」と取材に話した。朝日新聞は、「市民への公開のあり方について課題を提起する趣旨で報道した」などと取材にコメントしている。
「市民への公開が望ましいケース」と専門家指摘と報じる
デジタル版では、「街にコストコ来る 急いだ開発、市は見つかった遺構を公開せず埋めた」と題し、2023年11月10日付記事を配信した。
記事によると、県内初のコストコが市と協定を締結した市有地で24年度にオープンする予定で、南アルプス市教委による予定地の遺跡発掘調査で、弥生時代中期から近代まで約2000年間の遺構や遺物が連綿と見つかった。「甲斐源氏」と呼ばれる源氏の一門につながる可能性がある居館などもあったと推定されたという。7月に市議向けの現地視察を行ったが、一般市民向けの現地説明会は開かれないまま、同月末に調査を終えて埋め戻されたとした。
開発を優先して、通常は数年かかる調査が人員をかけて10か月で行われ、現地説明会の時間が取れなかったというが、「市民への公開が望ましいケースだった」などと専門家が指摘していると報じている。
この報道に対し、山梨県在住の歴史学者、平山優さんが11日、「詳細を確認しました。結論からいえば、朝日のかなり悪意のある記事です」とX上で投稿した。それによると、県内の学者らが見守る中、大規模な発掘調査が行われており、調査報告書も出す予定になっていて、タイトなスケジュールのため説明会を行えなかっただけだと指摘した。識者コメントも切り取りになっていたとして、「朝日には、猛省を促したいです」と苦言を呈した。
平山さんの投稿は、2000件以上リポストされており、様々な意見が交わされている。朝日新聞甲府総局の公式Xには、平山さんの意見などを要約したコミュニティノートも背景情報として加えられており、波紋が広がっている。
「法律的にマストではなく、日程的に難しくてできなかった」
南アルプス市教委の文化財課は11月14日、J-CASTニュースの取材に対し、現地説明会を行わなかったことなど事実関係については認めたが、「きちんと調査したにもかかわらず、法律違反であるかのような印象を与える記事は心外です」と話した。
文化財課によると、遺跡は、文化財保護法上、発掘調査して記録を保存し、報告書を残せば壊してもいいことになっている。
「コストコのスケジュールに合わせ、発掘調査に2、3年かかるところを10か月で終わらせるように、予算と人を増強する体制を組んできちんと調査を行っています。調査の質は担保しており、体制で足りなかったことはありません」
朝日の記事が出た後、市民からは、きちんと調査せずに埋めたのかなどと抗議が数件あったという。「記事には困惑しており、印象操作だと思っています」と述べた。
一般向けの現地説明会をしなかったことについては、こう説明した。
「発掘の様子を市民に公開することは望ましいですが、法律的にマストではなく、日程的に難しくてできませんでした。説明会をやってほしいとの声は出ましたが、オプションまで手が回らなかったということです」
そのうえで、「識者の方々には調査を見てもらい、地元紙などに出土品の情報を提供し、SNS上でも発信しています。来年1月14日には、調査報告会を行う予定などもあり、調査はクローズドではなかったと考えています」とも話した。
朝日の記事でコメントした信玄ミュージアム前館長の甲府市教委文化財主事は11月14日、「埋め戻す前に現場を市民に公開するケースだ」などとしたのは事実としたうえで、一部の発言を切り取られたと取材に明らかにした。それは、建設の工期が決まっており、南アルプス市が最大限努力した状況などを考えると、現地説明会を開くのは難しかったとした部分だという。
「市民への公開のあり方について課題を提起する趣旨で報道」
一方、記事でコメントした山梨県文化振興・文化財課の文化企画指導監は11月14日、現地説明会について「できなかったのは残念」などとしたのは事実とし、「もっとお話はしましたが、部分的に切り取られたとは感じておらず、記事に特段不満はありません」と取材に述べた。ただ、「文化財も地域経済も大事で、南アルプス市はやるべきことはやったため、今回の発掘調査に問題はないと考えています」と話した。
朝日の記事は法律違反であるかのような印象操作だと市教委が取材に述べるなどし、識者の1人が発言の一部が切り取られたとしたことについて、朝日新聞社の広報部は16日、「まとめて回答致します」と取材に答えたうえで、次のようにコメントした。
「ご指摘の記事は、貴重な遺構が発掘調査を終えて埋め戻される前に、一般向けの現地説明会が開催されなかった問題を取り上げました。開発スケジュールを優先せざるをえない遺跡調査の現状とともに、市民への公開のあり方について課題を提起する趣旨で報道したものです。なお、現地説明会を開くことが難しかった事情については、『開発との兼ね合いでスケジュールがタイトで時間がとれなかった』とする市教委の見解を本文で紹介しています」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)