生成AI「ChatGPT」の超大型アップデートが次々と発表され、「これはすごい」と驚きの声があがっている。2023年11月6日に米国で開催された、OpenAI主催の開発者カンファレンス「OpenAI DevDay」でのことだ。
衝撃を受けているのはITエンジニアだけではない。非エンジニアのビジネスパーソンも「早くも求めているものが来た!」と反応しているのだ。とあるベンチャー企業の執行役員Aさんに、新機能を実際に試した感想を聞いてみた。
オリジナルの「自動応答会話ロボット」が数分で完成
今回のアップデートで最も注目を集めているのが、「GPTs」という新しいサービス。まるで普通の人間と会話しているようにコミュニケーションできるChatGPTを、自分専用にカスタマイズできる。それもプログラミングの知識がなくても、ノーコードで、普通の日本語のやりとりだけで作れてしまうのだ。
X(旧Twitter)で「#GPTs」のハッシュタグを検索すると、すでに一般の人たちが作ったさまざまなチャットボット(自動応答会話ロボット)が紹介されている。有料アカウント(ChatGPT Plus。月20ドル)のユーザーしか操作できないが、多くの人たちが参加しているようだ。
子ども向けに歴史クイズを出してくれるGPTや、論文のデータを読み込ませて専門的な知識を教えてくれるGPT、料理の画像をアップロードするとレシピを教えてくれるGPTなど、さまざまなボットが作られている。
Aさんは、ゲーム開発者の福田考行さんが作成し、X(旧Twitter)で公開したGPT「論破くん」を見て、自分も真似してみようと試みた。すると、ほんの数分で新しいチャットボット「屁理屈くん」ができてしまったという。まずは回答例を見せてもらおう。
Q:AIが人間の仕事を奪うなんて、間違ってるよね?
屁理屈くん:おっと、その意見にはちょっと反論させてもらうよ。AIが人間の仕事を奪うって言うけどさ、実はAIは新しい仕事を生み出してるんだよね。たとえば、AIのトレーニングやメンテナンスをする専門家が必要だし、AIの倫理や使い方を考える仕事も増えてるんだ。それに、AIによって時間が節約されることで、人間はもっと創造的で意義のある活動に集中できるようになるんだ。つまり、AIは仕事の内容を変えるけど、必ずしも「奪う」わけじゃないんだ。はい、屁理屈!
コミカルなプロフィール画像も自動で作成
まるで人間による回答だが、Aさんは出力の仕方を少し指示しただけで、あとはChatGPT-4の基本機能を使っているという。
「まず、GPT Builderに対し、『日本語でお願いできますか?』と頼むと『どのようなGPTを作成したいですか?』と尋ねて来ます。そこで『屁理屈くんというGPTを作りたいです』と答えました」
GPTとは「Generative Pre-Trained Transformer」の略で、あらかじめ学習して回答を生成する人工知能、という意味。どういう特徴のGPTにするか、という質問に対し、Aさんが答えたのはたったこれだけだ。
「ある質問や意見に対し、120文字から180文字で反論をして、文末を『はい、屁理屈!』で終わらせてください。反論の文体は、『ですます』調ではなく、『だよね』などのくだけた口調でお願いします」
するとGPT Builderは、コミカルな「屁理屈くん」のプロフィール画像を自動的に作成し、「この画像で大丈夫ですか?」と確認を求める。ここで注文を出すと、修正した新しい画像を提案してくれた。
確認後にOKを出すと、GPT Builderは「屁理屈くん」の「役割や目標について詳しくお聞かせください」と尋ねてきた。Aさんは「特定の状況やテーマは想定していません。暇つぶしのためなので、あらゆる状況やテーマと言えると思います」と答えた。
GPT Builderは少しの時間、作業をした後で「屁理屈くんが設定されました」と回答し、完成したチャットボットの説明を的確に返してきたという。
「どのような質問や意見に対しても、面白くてちょっと屁理屈な反論を120~180文字で提供し、『はい、屁理屈!』で締めくくります。このGPTは、くだけた口調で、さまざまな話題に対して楽しい雰囲気を提供することを目指しています」
「屁理屈くん」の回答は真理だった
「屁理屈くんを試してみてください」という指示に従って、最初の質問を投げかけたところ、「おっと、その意見にはちょっと屁理屈を差し挟ませてもらうよ」で始まる答えを返してきたという。
そこで「何か改善点があれば教えてください」というGPT Builderの質問に対し、「屁理屈という言葉は文末以外には使わないでください」と追加で注文した。最初に出てきたらネタバレになる、最後に一度だけ出てくるから面白い、と考えたからだ。
するとGPT BuilderはUpdateをかけて、新たな設定を反映させるチャットボットに進化した。Aさんはすっかり驚いてしまったという。
「びっくりしました。簡単な依頼文だけですからね。ただし私の場合、用途を自分だけで考えるのは難しかった。私が『論破くん』を見てイメージを膨らませたように、たくさんの例を見て、実際に触って見るべきと思いますよ。それも部下に任せるのではなく、自分自身でやってみるのが大事です」
今回は、回答の内容をChatGPTに完全に任せたが、例えば自社で蓄積した製品・サービスの問い合わせパターンをGPTに学習させれば、会社が望んだ回答を的確に返すチャットボットが安価かつ迅速にできるだろうと、Aさんは期待を寄せる。
「まずは顧客対応ですよね。これはすぐに研究します。あと、意外と社内向けの問い合わせ対応にも使えそう。営業事務とか総務とか社内SEとか、問い合わせ対応に振り回されていた人がチャットボットを作る。『屁理屈くん』が教えてくれた『AIは仕事の内容を変えるけど、必ずしも奪うわけじゃない』というのは、真理かもしれません」