「運転士の退職理由」バス停掲示はプライバシー侵害? SNS指摘も社長「許可いると思わない」...弁護士の見解は

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プライバシーの侵害に当たるか、弁護士の見解は

   いわくにバス社長の発言通り、退職理由の掲示はプライバシーの侵害に当たらないのか。J-CASTニュースは弁護士法人リーガルプラス市川法律事務所(千葉県市川市)の小林貴行弁護士に話を聞いた。

   小林弁護士は今回のケースがプライバシーの侵害に当たるかどうかの判断について、次のように説明した。

「本件に関連していえば、最高裁判例で『個人の私生活上の自由(憲法13条)の1つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由がある』とされていることが出発点となります。そのため、こうした自由を侵害する行為となれば、プライバシー侵害等として不法行為(民法709条)に当たることとなり、法的な責任が生じ得るものということができます。

もっとも、『みだりに』開示又は公表されない自由があるにとどまりますから、いついかなる場合でも個人に関する情報を開示・公表できないというわけではありません。プライバシー侵害等として不法行為に当たるかを判断する場合には、開示や公表の必要性と、開示・公表される個人に関する情報が有するプライバシーとしての重大性(開示によりどれほど私生活上の自由が害されるか)を比較して検討することが一般的です」

   その上で小林弁護士は、減便や時間変更が運転士の退職によるものであることを記載することについては、不法行為に当たりにくいとした。

「本件では、バス会社が、公衆の目に触れるバス停標識に、バスの減便・時刻変更等を知らせるのに加えて、『運転士の退職』という減便の理由や、『運転士の退職理由』が記載されています。単に運転士の退職という事実を伝えるだけの記載であれば、そもそも運転士が何人退職したかも不明で個人特定性も高くないですし、個人に関する情報にそもそも当たらないとも言えそうです。

また、仮に会社の規模等からある程度退職した運転士の特定が可能だとしても、減便の理由を説明するものとして必要かつ合理的な範囲ですし、また退職という事実それ自体は会社との雇用契約関係に関する事実で、私生活そのものとも言いにくいです。そうすると、『運転士の退職を受けて』という表記だけではプライバシー侵害の不法行為などには当たりにくいのかなという印象を受けます」

   一方で、退職理由の記載については、不法行為となってしまう可能性があるとして、次のように見解を述べた。

「運転士の退職理由の記載まで読むと、まずこの記載が『ある特定の運転士』による自身の退職理由の記述の転記として読めるところが気になります。もし退職した運転士の特定が可能というような場合には、特定の『個人に関する情報』が公表されていると言えそうです。

そして、退職理由として家族に関する事項などまで記載されているところからすると、かなり私生活に立ち入った情報の記載といえそうです。そうすると、公表が許されるのは、かなり高度な必要性がある場合に限られるように思われます。

減便の理由の説明に、特定の運転手の退職理由まで記載する必要性がどれほどあるかと言えば疑問である(あまり一般には公開されない事柄ですから、その必要性が高い場合は乏しいのではないでしょうか)ことからすると、もし仮に、黙示的にもその運転士の同意が無いとすれば、プライバシー侵害の不法行為となってしまう可能性は十分にあり得るように思います。

もちろん、具体的事情は報道からだけではわからない部分も多いのでこれだけで断定はできませんが、弁護士としてはあまりこういった公表をバス会社が行うことはおすすめしにくいです」

   社長は退職理由の掲示は以前から行っているともしているが、小林弁護士は「法的には、そのバス会社で以前から行っているからといって、免責されることはないと思います」という。

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