「iPhone 15」中国で売れずアナリスト「来年の苦戦」を予言 ファーウェイ新スマホは絶好調で明暗

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   中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が、2023年8月末から9月にかけて発売したハイエンドスマートフォン「Mate 60」シリーズが売れに売れ、入手困難な状況が続いている。同じ時期に発売されたiPhone 15シリーズのシェアも浸食されており、10月末には大手ECプラットフォームのアップル公式ストアが、同機種の値下げに踏み切った。

   「アップルの予言者」として知られるアナリストは、iPhoneの中国市場での衰退が2024年も続くと指摘している。

  • 上海中心部、通りを挟んでアップルストアとファーウェイのビルが建つ
    上海中心部、通りを挟んでアップルストアとファーウェイのビルが建つ
  • ファーウェイの旗艦店
    ファーウェイの旗艦店
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米規制すり抜け5G対応スマホ発売

   ファーウェイは8月29日、Mate60シリーズの上位版「Pro」の販売を中国の一部店舗やネットで始め、30日にはMate60の通常版の限定販売も開始した。9月8日には最上位版「Pro+」と、折り畳み型「MateX5」も予約販売を始めた。

   日本の読者はファーウェイのスマホと聞いて、懐かしさを覚えるかもしれない。同社は米政権が2019年に発動した半導体輸出規制によってスマホの生産を封じられた。また、グーグルのGMS(グーグル・モバイル・サービス)と呼ばれる検索や地図、メールなどのアプリも規制で搭載できなくなり、日本を含む先進国で3~4年新機種を発売できていない。2019年まで世界2位だったシェアは、2022年に5位以下に後退し、苦しい状況にある。

   ところが、ファーウェイが発売したMate60シリーズは、米国の規制で調達が困難になっていた高性能半導体チップが搭載され、5Gに相当する通信に対応していることが明らかになった。ブルームバーグなどの報道によると、カナダの調査会社・テックインサイツがProを解析した結果、ファーウェイが自社開発し、中国の製造受託会社「中芯国際集成電路製造(SMIC)」が製造した7ナノメートルの5G向け半導体チップが搭載されていると結論づけた。

   ファーウェイが自力で5Gに対応するチップを調達できるようになれば、米政府が主導する規制の実効性は大きくそがれ、同社の復活に道が開かれる。

   実はファーウェイは、Mate60について通信規格も含め一切説明していない。発売の予告すらなく、9月25日に開かれた新製品発表会でもMate 60はスルーされた。通常新スマホの発表前には少しずつリークがニュースを賑わせ、世界中からメディアを呼んで大々的に発表会が開かれることを考えると、ファーウェイの尋常ではない警戒ぶりがうかがえる。公式サイトのMate60 の商品説明欄にも、中国のファーウェイショップの売り場にも、通信規格に関する説明はない。「察して」ということなのだろう。

   世界のハイエンドスマホ市場は、ファーウェイの"退場"後、アップルの独壇場になっていた。Mate 60は中国など一部の国でしか販売されないが、復権への期待は大きく、テックインサイツはファーウェイの2023年のスマホ出荷台数が前年比4割増の3500万台に達すると予測した。

実質値下げでてこ入れ

   発売から2か月が経ち、Mate 60の勢いはより鮮明になっている。市場調査会社のCounterpointはMate 60が発売から6週間で160万台売れたと推定する一方、9月中旬に発表されたiPhone 15シリーズの中国での売り上げがiPhone 14と比較して4.5%減少したとも試算した。アップルは11月2日に2023年7~9月期決算を公表し、同期間の中国におけるiPhoneの売上高が同四半期として過去最高となったと明らかにしたが、けん引したのはiPhone14で、iPhone 15は伸び悩んでいるとみることができる。

   10月29日、ECプラットフォーム京東商城(JD.com)のアップル公式ストアがiPhone 15を実質値下げしたのも、てこ入れ策として話題になっている。現地報道によると通常版は801元(約1万6000円)、 Proは600元(約1万2000円)値下げされたという。

   Counterpointのレポートによると、2023年7~9月の中国のスマートフォン販売台数が前年同期比3%減少する中、ファーウェイは同37%伸びた。一方アップルは同10%減となり、中国でのシェアも縮小している。

出典はCounterpointのウェブサイト
出典はCounterpointのウェブサイト

   Counterpointによると2023年7~9月の中国のスマホ市場で、ファーウェイの販売台数は前年同期比37%だった)

   世界市場をみてもスマホの販売台数が同8%減少したのに対し、ファーウェイと、ファーウェイから2020年に切り離されて独立した「HONOR」、アフリカで成長する中国メーカー「伝音科技」の3社だけが販売を伸ばした。

   「アップルの予言者」として知られる天風国際証券のアナリスト郭明?(ミンチー・クオ)氏は11月4日、X(旧ツイッター)に「iPhoneの中国市場での衰退は想定以上だ。ファーウェイの復活で、2024年もiPhoneは中国で苦戦が続くだろう」と投稿した。

   ただ、Mate 60がどこまで販売を伸ばせるかは生産体制次第でもある。Mate60は発売直後からチップ生産に制限があると指摘されており、端末の供給が追い付かない状況は2~3年続くとの見方もある。製品は定価より1000元前後(約2万円)の高値で転売サイトで取引されており、「いつ手に入るか分からないから、買えるときに買った方がいい」との計算から、注文が殺到しているようだ。

   ファーウェイがMate 60について一切宣伝しないのは、米政府を刺激したくないという思いに加え、宣伝したとしても十分に供給できないという理由もありそうだ。


【筆者プロフィール】

浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。

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