実質値下げでてこ入れ
発売から2か月が経ち、Mate 60の勢いはより鮮明になっている。市場調査会社のCounterpointはMate 60が発売から6週間で160万台売れたと推定する一方、9月中旬に発表されたiPhone 15シリーズの中国での売り上げがiPhone 14と比較して4.5%減少したとも試算した。アップルは11月2日に2023年7~9月期決算を公表し、同期間の中国におけるiPhoneの売上高が同四半期として過去最高となったと明らかにしたが、けん引したのはiPhone14で、iPhone 15は伸び悩んでいるとみることができる。
10月29日、ECプラットフォーム京東商城(JD.com)のアップル公式ストアがiPhone 15を実質値下げしたのも、てこ入れ策として話題になっている。現地報道によると通常版は801元(約1万6000円)、 Proは600元(約1万2000円)値下げされたという。
Counterpointのレポートによると、2023年7~9月の中国のスマートフォン販売台数が前年同期比3%減少する中、ファーウェイは同37%伸びた。一方アップルは同10%減となり、中国でのシェアも縮小している。
Counterpointによると2023年7~9月の中国のスマホ市場で、ファーウェイの販売台数は前年同期比37%だった)
世界市場をみてもスマホの販売台数が同8%減少したのに対し、ファーウェイと、ファーウェイから2020年に切り離されて独立した「HONOR」、アフリカで成長する中国メーカー「伝音科技」の3社だけが販売を伸ばした。
「アップルの予言者」として知られる天風国際証券のアナリスト郭明?(ミンチー・クオ)氏は11月4日、X(旧ツイッター)に「iPhoneの中国市場での衰退は想定以上だ。ファーウェイの復活で、2024年もiPhoneは中国で苦戦が続くだろう」と投稿した。
ただ、Mate 60がどこまで販売を伸ばせるかは生産体制次第でもある。Mate60は発売直後からチップ生産に制限があると指摘されており、端末の供給が追い付かない状況は2~3年続くとの見方もある。製品は定価より1000元前後(約2万円)の高値で転売サイトで取引されており、「いつ手に入るか分からないから、買えるときに買った方がいい」との計算から、注文が殺到しているようだ。
ファーウェイがMate 60について一切宣伝しないのは、米政府を刺激したくないという思いに加え、宣伝したとしても十分に供給できないという理由もありそうだ。
【筆者プロフィール】
浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。