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高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
岸田政権の経済対策は「ショボく・遅い」 内閣支持率低迷を招いた理由

   岸田文雄首相は2023年11月2日、総合経済対策を政府・与党で決定した。その直後、共同通信社が3~5日実施した全国電話世論調査によると、岸田内閣の支持率は前回調査から4.0ポイント下落し28.3%となった。

   政府が経済対策に盛り込んだ所得税減税や低所得者世帯への給付金について「評価しない」が62.5%だった。減税などが評価されないことは珍しい。その理由として、「今後、増税が予定されているから」が40.4%で、「経済対策より財政再建を優先するべきだ」が20.6%、「政権の人気取りだから」が19.3%だった。

   一方、「評価する」は32.0%。理由は「税の増収分は国民に還元するべきだから」が最も多く37.4%。「物価高に対応する政策だから」が33.7%、「財政再建より経済対策を優先するべきだ」は13.6%だった。

  • 岸田文雄首相
    岸田文雄首相
  • 岸田文雄首相

経済対策を読み解く

   経済対策を読み解いてみよう。閣議決定文をみると、国の財政支出は17兆円、そのうち今臨時国会で13兆円、残り4兆円は来年通常国会回しとなっている。要するに、年末に行われるのは給付金など13兆円、来年6月以降に実施されるのは所得税減税4兆円。しかも、13兆円すべては、GDP押し上げの「真水」ではなく、おそらく「真水」は10兆円程度だ。

   4-6月期のGDPギャップについて政府は0.1%としている。しかし、政府の数字は過去0%でも物価上昇がなく、さらに失業率低下の余地があったことから、供給を低めにみている。

   筆者が供給を推計してみると、政府のGDPギャップは3%程度過大であるので、4-6月期の真のGDPギャップは17兆円程度だろう。7-9月期にはGDPが伸びないことを勘案すると、政策目標としては真水20兆円が必要になる。

   そのときに、今国会で用意され年末以降に実施される経済対策は10兆円程度というところだ。これでは、「ショボく・遅い」となる。このあたりを国民は直感的に感じたので経済対策の低い評価になったのだろう。

閣議決定を1週間たたずにひっくり返す

   政府は、来年度予算に回す所得税減税について、「この税収増を納税者である国民に分かりやすく『税』の形で直接還元する」と閣議決定文に書いていた。ところが、8日の衆議院財政金融委員会で、鈴木財務相は、還元策の税収増について「すでに使っている」と答弁した。2日の閣議決定を1週間もたたずにひっくり返したのだ。

   筆者は、財源について、本年度の税収上振れや外為特会評価益などから50兆円程度あると言ってきたので、過去2年度分の原資がないと聞いても驚かないが、閣議決定文との整合性などは国会で議論されるだろう。ひょっとしたら、最近の岸田政権の支持率低下を受けて、所得税減税を嫌っていた財務省が岸田政権にさじを投げた匂いすら否定できない。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。