バブル崩壊後のデフレで、賃金が下がった影響
J-CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた伊藤忠総研の中浜萌さんに話を聞いた。
――リポートでは、「130万円の壁」については、1993年以前は賃金の上昇に応じて改定されていたのに、1993年以降、改定されないままになっている、と指摘しています。
確かに、パートタイム労働者が1.4倍も賃金が上がっているなら、「年収の壁」を1.4倍である「130万円」から「182万円」にアップすれば、かなり改善されるのに、1993年以降、横ばいのままなのが不思議です。なぜ、厚生労働省(旧厚生省)は引き上げないのでしょうか。
中浜萌さん 1993年以降なぜ引き上げなくなったのか、はっきりとした要因は分かりません。というのも、厚生労働省は引き上げをやめた理由を示していないからです。
もともと、社会保険上の壁である「130万円」の水準は、法律に基づくものではありませんでした。1977年に制度が開始された時は、旧厚生省保険局長から都道府県知事に宛てた「通知」に過ぎませんでした。当時は、所得税の控除額と連動しており、社会保険料の壁は「70万円」となっていました。その後、税制の変更に応じて引き上げられ、1981年には「80万円」、1984年には「90万円」となりました。
1987年からは、税制への連動を廃止し、賃金に応じて改定される手法に変更となりました。そして、1987年に「100万円」、1989年に「110万円」、1992年に「120万円」、1993年に「130万円」引き上げられたのです。
――1977年から1993年までの16年間で60万円も上がっているのですね。それが1993年から今年(2023年)までの30年間、まったく上がらないというのは、どう考えても納得できません。
中浜さん バブルが崩壊して日本経済がデフレに入ったことによって、賃金の上昇がストップした影響が大きいと思います。それまでは右肩上がりだった賃金上昇は下落することもありました。これまでのように、「年収の壁」を賃金に応じて調整していたとしたら、「年収の壁」を引き下げなくてはならなかったはずです。
その後、2010年代半ばから人手不足が深刻になり、パートタイム労働者を中心に賃金が上がり始めました。直近では、コロナ禍からの景気回復で人手不足がさらに加速し、賃金も一段と上昇しています。
ところが、デフレ状態が20数年間以上続いたため、130万円の「年収の壁」はすっかり引き上げられなくなっていたのです。そして、「年収の壁」によって、パートタイム労働者が労働調整をする問題が一層深刻になったのだと思います。